序章・6幕 紫御前
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・上田 樒 (うえたしきみ)
紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女で圧倒的な雰囲気を纏う。
■ ▢ ■ ▢
黛村・西地区、❝女郎花❞。
置田村に最も近い地区で、女性に権力が集中する地区。祖柄樫山の山腹に急斜面の丘を削って建てられた、西洋チックな屋敷。そこに乙名の一人・紫 尤が君臨する。彼女は幼いころから肉体を鍛え、背丈は190近くになる。250cmの薙刀を軽々扱う、武者顔負けの強さから、祖柄樫山でも紫御前の字で畏怖される。
また、強固な扉の部屋に珠という1匹の雌ライオンを飼っている。
出立も異彩を放っていて、漆黒のドレスにトーク帽で普段は顔がしっかり見えない。
いかにも西洋かぶれな女領主独特な雰囲気と圧倒的武力が、更に不気味な乙名の存在を色濃くする。
「只今戻りました、御前様。」
「樒か。どうであった?」
「約束されていた人材と金貨と交換してまいりました。」
御前は紅茶をカップに注ぎながら、向かいの席に席に着くように掌を向ける。
「失礼致します。」
「まぁお茶でも飲んで少し休もうぞ。」
樒も御前の前でも委縮することなく、冷静な態度で接する。
「樒よ、九狼党の秘密はどうだった?」
「わたくしはあの愚図は信用しておりません。」
「そうか。そろそろ殺処分かのう。」
「恐れながら、あの愚図は九狼党の名を軽く見ていたようでして、先程、左手に穴をあけておきました。勝手な判断をお許しいただけますよう。」
「あはは。今更何を。」
御前は首を斜め上に向けて嘲笑する。
「樒よ、お前の判断は信用しておる。あの男にも良い薬になったであろう。」
「であれば幸いですが。」
「信用ならんとな。まぁまだ使い道がある。九狼党の名もそろそろ広めていく局面に移ろうとしておる。それに女郎花と八俣は吊り橋を越えて直ぐの距離。始末するのはいつでも出来る。」
二人はしばらくお茶を飲んで過ごす。
「そういえば、置田村の乙名は攻勢派と内政派に分かれてるらしいのう。」
「今は均衡を保っていると聞きますが、選挙で攻勢派が死んだ置田蓮次の枠に鈴谷を入れたがっていると聞き及んでいます。」
「攻勢派か…」
御前は窓を見る。
「また少し攪乱せねばならんな。」
「わたくしとしては九狼党に新陳代謝を行い、置田村の中の者を取り入れるのも一手かと考えます。」
御前は立ち上がると樒の後ろに歩いて回る。
「そうだな、❝頭❞に相談して、改革を行うかのう。」
御前が樒の髪の毛を束ね始め、軽く口づけをする。
「後は樒の案ずるあの男に監視を置くかのう。」
御前は樒の顎を摘まんでニヤリと笑う。
樒の表情は変わらない。
ーパンパン!
御前は振り返りながら両手を上にあげて2拍する。
「蕨!星薊!」
「お呼びでしょうか?」
二人そろって答える。
「蕨、お前はいつも通り、樒のお色直しを手伝いなさいな。」
「はい。御前様。」
「星薊、お前は相島の見張りについておやり。如何わしいことがあれば直ぐに知らせるのじゃ。場合によっては少し恐怖を与えてやって構わん。」
「わかりました。」
星薊は目を細くして笑う。
雨宮 蕨。至って普通の女性な見た目。樒の身の回りの世話を御前より任される。棒術と拳法の心得を持つ。
遙 星薊。普段は黒衣のくノ一の格好で、変装、毒殺を得意とする。拷問も好きな点で、樒とは通じる面がある。
「さて、妾は水浴びでもして来るかのう。」
置田村と対峙する黛村。黛村でも置田村に最も近いここ❝女郎花❞に、狂気の女たちがその身を潜めていた。
一方、蓮太たちは寺院で学童会を設立し、学童会長1人、学童会主2人、書記2人を選抜する選挙会開催を予定していた。今後の置田村の学童の在り方も大きく左右するこの選挙に、蓮太は仲間と話し合っていた。ケダモノたちが蠢くこの祖柄樫山で、蓮太の世直しがここから始まる。
ー序章・終
次回2024/10/9(水) 18:00~「第1章・1幕 懸念点」を配信予定です。