第5章・7幕 諸刃の刃
今回の登場人物
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◎赤島会・侵攻派
・赤島 猛 (あかしまたける)
野崎飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。赤島会たる野蛮組織を束ねる会長の顔を持つ。
・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。置田村東地区・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。実は九狼党・幹部で❝尾❞の字で呼ばれる。攻勢派に副統括の話を持ち掛けられ、藤香抹殺に掛かる。
・綿貫 仁兵衛 (わたぬきにへえ)
置田村の東地区・八俣の刀禰。八俣の刑務主を担当 物静かで従順。しかし欲望にはそれ以上に忠実。相島の九狼党との関係に気づき、急接近。覚悟を示し、九狼党の❝毛❞として活動する。
・黒川 多聞 (くろかわたもん)
黒川組・組長。策謀に長け、義理も厚い。赤島のやり方に納得はしないまでも、組織として面倒を見てもらった恩義を赤島猛に持つ。部下や若者にも義理人情が厚く人望がある。
◎紫の七草
・竹達 鬼灯 (たけたつほおずき)
紫の七草の1。剣の達人で紫の実働部隊として活動し、無双をロマンに掲げる程の実力者。並外れた身体能力が、七草随一の戦闘員とも言われるほど。ザンバラ髪をポニーテールで纏め、浴衣一丁という女子力の無さ。
・遙 星薊 (はるかほしあざみ)
紫の七草の1。情報収集や毒針での暗殺を担当。汚い戦術や拷問を好む非道な女戦闘員。黒装束に外は黒、内は赤のマントを羽織る姿が蝙蝠を彷彿させる。
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和都歴450年 8月6日 午後21時 八俣・相島邸
「誰だお前たち?どうやって入った?」
赤島が立ち上がる。
「そんなことより、アンタたちはここに踏ん反り返って何もしないの?」
鬼灯が問う。
「俺たちには俺たちの考えがある。」
「考え?」
「黄田組の卑怯な奇襲は無論許さないが、白石に青田、藤香も相手にする以上は、100を黄田に向けるのは危険。まずは黒石の宣戦布告に対する答えを聞いてから、弟に援軍として動いてもらう。」
赤島の説明に鬼灯と星薊が顔を見合わせる。
「もう黒川の部下は殺されている。それで黄田の答えを待つ必要なんてある?」
鬼灯が刀を抜く。
「理由ではない。それが我ら野蛮道の道理だ。」
「…」
「お前ら七草が出しゃばるのは構わんが、儂らにもやり方はある。そこは口を挟まないで欲しいの。」
「偉そうなこと言って、結局ビビッて手下を向かわせるだけ、よね。」
相島の回答に星薊が睨みをきかせる。
「だとしても、それが道理だ。」
赤島が答える。
「なら、ウチらは勝手に黄田組と白石組に攻めるのも口を挟まないでな?」
「何?勝手にって…ケツは持たんぞ?」
「元々助けに入ってもらうつもりなんかない。ウチらの敵が誰かさえ分かれば、そいつらを殺しに行くまでだ。文句あるなら、アンタらもここでかかって来いよ?」
「・・・」
(どうです?コイツら、諸刃の刃でしょう?)
綿貫が赤島と相島に目配せする。
「わかった。認めよう。なら、その足で赤島組にこの事実を伝えてくれ。相島さん、大須賀を借りていいですか?」
「ウチらに護衛はいらないけど?」
「赤島会の者を入れずに赤島組に行っても話にならんだろう。」
「じゃ、準備できたら呼んでよ。」
そういって鬼灯と星薊が出て行く。
「大須賀は野暮用らしくて不在です。息子の栃虎が使えます。」
「しばらく監視として赤島組に置いておこう。」
「弟さんがいるのでは?」
「いや、弟は飽くまで赤島会の頭。あの七草の監視も含めると自由に動ける者が必要だ。」
「なるほど。」
赤島の計画に相島が納得する。
「会長は七草を敵に回す御積りですか?」
「いや、だが何で跳ね返るか分からない。その為の監視だ。」
「なら良いですが。」
黒川が安堵する。
「儂は気に入らんがの。」
そういって綿貫に手招きする相島。
「なんでしょう?」
「あの女、上田樒も一緒に居たか?」
相島が耳打ちする。
「ええ。」
「何か言っていたか?」
「…特に何も。」
「お前、そろそろ刀禰から沙汰人になりたいだろう?」
「え?成りたくてなれるものでは…」
「バカ!儂が赤島さんに一言いえば、ちょちょいのチョイじゃ。」
「はぁ。」
「樒を嬲り、甚振る。儂の目標じゃ。これに手を貸せば報酬は金の他、沙汰人の地位も約束する、どうじゃ?」
「…かなり危険ですよ?」
「わかっとる、それだから金と地位を約束したんじゃ。やるのか?やらんのか?」
「…リスクもあるので、少しだけ考えさせて下さい。秘密は守ります。」
「早く腹を決めろ?」
「では、我々も黒川組に戻りましょう。」
黒川と綿貫は馬車に戻る。
2人を乗せた馬車を横目に、鬼灯と星薊が馬車の前で大須賀栃虎を待っている。
「栃虎が話すなら、ウチらは赤島組行かなくて良くない?」
「だ、よね。」
「途中下車して青田組に挨拶に行くか?」
「私も同じこと考えてた、よね。」
大須賀の息子、大須賀栃虎が屋敷から出てくる。
「よろしくな、お嬢さん方。」
大須賀 栃虎。栃虎の息子。パッと見はイケメンで、育ちの良さを伺わせるも、裏の顔は悪業に手を染め、暴行を繰り返す。人身売買から、婦女暴行を息をするように行う。虎太郎の仇の1人。
「赤島さんからさっき話を聞いて、このまま赤島組に行く。お二人はそのまま赤島組の護衛でもしてくれってさ。」
「お前らの指揮下になんか入らない、よね。」
「ウチらは好き勝手やるから、赤島組に行くなら勝手に行けよ?」
「あん?てめぇら赤島と相島のシマで好き勝手なんてしたら殺…!…」
「殺す!とでも?」
星薊が栃虎の口を押えると、鬼灯がそう言い放った。
「ウチらここで降りるけど、悔しかったら殺しに来てくれて構わない。お前みたいのを殺す理由が出来れば、堂々と殺してやるから。」
鬼灯たちはそう言って馬車から飛び降りていった。
「…くそ!雌ブタ共!殺す!」
栃虎は女を蔑む対象としてしか見てこなかった。初めて肝を抜かれた彼女らにコンプレックスを抱いたのだ。
次回2025/3/16(日) 18:00~「第5章・8幕 青田組」を配信予定です。