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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第5章・紫の七草
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第5章・5幕 紫の七草・❝お願い❞

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・綿貫 仁兵衛 (わたぬきにへえ)

置田村の東地区・八俣の刀禰。八俣の刑務主を担当 物静かで従順。しかし欲望にはそれ以上に忠実。相島の九狼党との関係に気づき、急接近。覚悟を示し、九狼党の❝毛❞として活動する。


・黒石 礼央 (くろいしれお)

黒川組・若頭。女性でありながら腕と頭が冴える、若くして出世した注目株。サバサバした性格で、人望もある。人の機微を見抜くことにも鋭敏。サイコロの賭け事が大好き。


・上田 樒 (うえたしきみ)

紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女。黒い生地に紫の花柄の着物を纏い、圧倒的雰囲気を纏う。


■ ▢ ■ ▢

黄田組らしき奇襲を受けた黒川組の、怪我人の処置に当たっていた綿貫。

しばらくして、こちらに近づいてくる人影に気づく。

「ん?あ、貴女…」

「…」

樒の無表情さの奥に、九狼党の掟に気付いた綿貫。

「…」

「綿貫さん、この女を知ってるんで?」

「いや。」

「じゃこいつらも刺客?」

若い衆が刀を抜く。

「いえ、申し遅れました。わたくし、黛村の女郎花(おみなえし)より参りました、上田樒と申します。こちらの三人も同じく、右から蕨、水仙、鬼灯です、以後お見知りおきいただければ、と思います。」

「黛!やはり…」

「まぁ待て。」

焦る若い衆の刀を止め、諫める綿貫。

「話位は聞いてもいいだろう。ですね?」

綿貫が樒に視線を向ける。

「助かります。」


綿貫が黒石に話をつけると、樒らが部屋に招かれた。

綿貫も同席し、話が始まる。

「改めてまして、黛村の女郎花より参りました、上田樒と申します。」

「黒川組若頭の黒岩礼央だ。話があると聞いたが?」

「まず、わたくし達の目的を話しておきましょう。」

樒が黒石から綿貫に視線を移す。

「女郎花の乙名、紫尤こと紫御前の命令で、わたくし達は白石組の組長を殺しに参りました。ここまでは、恐らくあなた方の利害に一致すると考えます。」

「紫の七草か…ああ、白石組は赤島会の敵だ。殺すのは構わん。」

「そこで提案です。ここを拠点に使わせていただければ、白石組だけじゃなく、他の組の一掃をお手伝い致しますが、如何でしょう?」

「何?」

「…」

黒石と綿貫は驚く。

「確かに、紫の七草の脅威は聞いている。ここで味方に付いてくれる条件が、ここを拠点にという事だけならば、断る道理はないと思うが…」

「何か他に御心配がありますか?」

「条件が良すぎてな。」

「怖いですか?」

「正直にいえばそうだ。それも敵の村の名高い部隊となれば、尚更だ。」

「久々の遠征でして。」

「ん?」

「殺しを愉しみたい輩が多いのですよ。云わば餌を欲している。」

そういって樒が茶菓子に手を伸ばす。

「欲求とは不思議です。叶えなければその気持ちは膨らんでいき、狂気となっていく。」

樒は茶菓子の饅頭を握りしめ、中の餡子が飛び出してくる。

「…!」

「これは、交渉ではなく、わたくしからの施しです。餌に交じってしまう可能性があるので、柵の中に入らぬよう、という❝お願い❞、と言っておきましょう。」

「…」

「…俺は賛成だ。敢えて七草とここでやり合う理由はない。公僕でもないし、敵村の人間を迎えようが関知しない。どうだろう?黒石さん。」

「私個人的には、綿貫と同感だ。ただ上の許可だけは取らせてくれ。それまでは私の責任でここを拠点にしてくれて構わない。」

「ありがとうございます。」

樒が微笑む。

「直ぐに部屋を用意させるよ。」

「そういえば先程、黄色装束の手合いと戦っていましたね。」

「ああ、奇襲で結構やられたんだ。恐らく黄田組。10月までは様子を見ると思っていたが。」

「この後、どうするおつもりです?」

「宣戦布告をしに使者を送る。それからは赤島組と黄田組に侵攻する。」

「そうですか。その際はお手伝い致します。」

「七草が加われば心強い。恩に着る。」

「いえ、ここの家賃として御体を張らせて頂きます。」

「話はこれくらいでいいか?組長と会長に話す内容が多くなってしまった。」

「はい、ここの護衛もしばらくはわたくし共にお任せください。」

「重ね重ね、恩に着る。では。」

黒石が組長へ会いに部屋を出る。

「…助かりました。」

綿貫がポツリと言う。

「結果的とはいえ、まさか相島(あのおとこ)の手助けをすることになるとは。」

樒もポツリと返す。

「何でも言ってくれれば、うまくやります。では。」

「綿貫…と申しましたね?」

「はい、綿貫仁兵衛です。」

「いつまで相島(あのおとこ)の後ろに居るのです?」

「な、バカなことを。我々は上下の関係は絶対です。上から仕事と褒美を頂くものですから。」

「まあ…素敵な関係です。」

樒が綿貫に視線を合わせる。

「ここにいて暇な間は、彼方が賢い人間であるかも見定めないといけませんね?」

樒は微笑みながらそう言うと、七草らと部屋を出た。

次回2025/3/9(日) 18:00~「第5章・6幕 報告」を配信予定です。

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― 新着の感想 ―
樒は本当に場所を借りるだけで済ますのでしょうか? 綿貫は相島を裏切ることはあるのか気になります。
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