第5章・4幕 奇襲
今回の登場人物
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・綿貫 仁兵衛 (わたぬきにへえ)
置田村の東地区・八俣の刀禰。八俣の刑務主を担当 物静かで従順。しかし欲望にはそれ以上に忠実。相島の九狼党との関係に気づき、急接近。覚悟を示し、九狼党の❝毛❞として活動する。
・黒石 礼央 (くろいしれお)
黒川組・若頭。女性でありながら腕と頭が冴える、若くして出世した注目株。サバサバした性格で、人望もある。人の機微を見抜くことにも鋭敏。サイコロの賭け事が大好き。
・黒岩 鉄秀 (くろかわてつひで)
黒川組・若頭補佐。武闘派で、力仕事で上に成り上がってきた。戦争を祭りと称し、一騎当千を愉しむ男。冷静な部分もあるため、重宝される。
・上田 樒 (うえたしきみ)
紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女。黒い生地に紫の花柄の着物を纏い、圧倒的雰囲気を纏う。
・雨宮 蕨 (あめみやわらび)
紫の七草の1。樒の所持品を持ったり、身の回りの世話をする。樒の側近的役割。棒術や格闘術の心得がある。天然な性格だが命令には忠実。
・花澤 水仙 (はなざわすいせん)
紫の七草の1。樒に次ぐサブリーダー的役割をこなす。蓮太らと同じ14才でありながら、卓越した分析能力と指示能力を持つ。大きな瞳にお河童頭、洋服にズボンという、ボーイッシュなスタイル。
・竹達 鬼灯 (たけたつほおずき)
紫の七草の1。剣の達人で紫の実働部隊として活動し、無双をロマンに掲げる程の実力者。並外れた身体能力が、七草随一の戦闘員とも言われるほど。ザンバラ髪をポニーテールで纏め、浴衣一丁という女子力の無さ。
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黒石らが集会所の番をしていると、南の方角から馬車が何台か向かってきた。
「ん?来やがったか!」
黒岩が臨戦態勢になる。
「待ちな!南から来るってことは会長かもしれない。」
黒石が諫める。
馬車が着くなり、綿貫が降りてきた。
「赤島会の綿貫だ。ここが黒川組の集会所か?」
「彼方は?」
「八俣の乙名、赤島さんの知人、相島の遣いだ。組長の黒川多聞さんに話がしたい。」
「組長は今休息中でね。私が代わりに話を聞こう。」
「代わり?」
「私は黒川組の若頭をしている、黒石礼央。以降お見知りおき頂きたい。」
「…そうか。わかった。」
そういうと、黒石は綿貫を部屋へ通し、2人で話をする。
「で、組長に話したいこととは?」
「我々は赤島組と黒川組のサポートに入る。ただし、基本ここでの指揮系統に入るというつもりはない。攻められたら守り抜く、そちらが攻めれば後詰めに入る、そういった感じだ。」
「…ほう。」
「?、あまり嬉しくはないようだが?」
「あはは。いや、馬車で何台も来た割には、消極的な活動しかしないんだなって。」
「あん?」
「いや、気に障ったのなら謝る。会長の知人、そして意志であるなら、私は一向に構わない。一応組長の耳に入れておくが、組長も同じ考えだろう。部屋は今用意させる、適当に使ってくれ。」
和都歴450年 8月6日 午後17時 神奈備・黒川組集会所・付近 黄田組秘密侵攻部隊
「お前ら、もうすぐ黒川組だ。戦闘準備!」
「はい。」
「風巻、足の速い2人を連れて、特攻しろ。」
「了解です、大胡田さん。」
大胡田意満。顔まで黄色装束の部隊を束ねる黄田組の男。謎に包まれている。
「では、私は組長に話をしてくる。小黒、相島さんの客人に部屋まで御案内しろ。」
「はい。」
外で悲鳴が聞こえる。
「ん?」
「まさか、敵襲か?」
「このヤロォ!!」
風巻の俊足が一気に集会所前の黒岩の前まで来ていた。
黒岩が気付く限り、北からの道に立っていた10人の7人が斬られている。3人は臨戦態勢で、2人を囲んでいる。
黒岩は風巻の太刀を抜刀で弾いた。
「奇襲とは汚ねぇ奴らだな。」
「俺の任務は殺して殺して…死ぬこと。」
そういって西の衛兵に斬りかかりに行く。
「は、速い…」
また3人斬る。
番をしていた者は圧倒され、7割死んだ。
ようやく綿貫の部下も動き出し、北からの道で2人を囲んでいた黒田組3人の助太刀に入り、2人の手合いを瞬殺する。
「あとはお前だけだ。」
黒岩が風巻を狙う。
すると北からの道で更に悲鳴が聞こえる。
「くそ、増援か!」
「本隊だよ。俺たちは特攻だ。」
風巻は西の衛兵を全て殺すと最後に黒岩にかかってくる。
「おもしれぇ。」
黒岩は、風巻からの一太刀を瞬間で弾くと、喉に手刀で突く。
「がは!」
「奇襲特化の兵士か。流石だったぜ。トドメだ。」
黒岩の刀が風巻を切り裂いた。
「風巻がやられたか。お前ら、引くぞ。」
大胡田の合図で黄色装束の部隊が引いていく。
中から黒石と綿貫が出てくる。
「何事だ?」
「黄色装束の奇襲です。大半やられました。申し訳ない。」
「黄色装束?黄田組か?」
「恐らくそうだと。」
黒岩の報告に黒石が情報を整理する。
「本当に襲ってくるとはな。これは私も本気にならなくては。」
「とりあえず組長にも報告を入れてはどうだ?怪我人の処置等は俺も手伝おう。」
綿貫が提案する。
「すまない、恩に着る。」
奇襲の途中から一部始終を崖の上から見ていた者たちがいる。
「今こそ漁夫の利じゃね?」
「攻めないんですの?樒ちゃん。」
「あそこに居るのは綿貫ですね。❝毛❞の称号を持つ男。」
「あちゃ、なんだ、めんどくさいな。じゃ無暗に無双できないな。」
「樒、どうする?」
「そうですねぇ…」
樒が崖から飛び降りる。
「蕨、水仙、鬼灯、着いて来て下さい。後はそこで待機をお願いします。」
3人が樒の後に着くと、黒川組の集会所へ歩いて向かっていった。
次回2025/3/6(木) 18:00~「第5章・5幕 紫の七草・❝お願い❞」を配信予定です。




