第5章・2幕 上田樒は…
今回の登場人物
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・上田 樒 (うえたしきみ)
紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女。黒い生地に紫の花柄の着物を纏い、圧倒的雰囲気を纏う。
・雨宮 蕨 (あめみやわらび)
紫の七草の1。樒の所持品を持ったり、身の回りの世話をする。樒の側近的役割。棒術や格闘術の心得がある。天然な性格だが命令には忠実。
・花澤 水仙 (はなざわすいせん)
紫の七草の1。樒に次ぐサブリーダー的役割をこなす。蓮太らと同じ14才でありながら、卓越した分析能力と指示能力を持つ。大きな瞳にお河童頭、洋服にズボンという、ボーイッシュなスタイル。
・水瀬 白粉 (みなせおしろい)
紫の七草の1。現代っ子の様な軽い口調からは想像できない残酷な行為を平気でやってのける。好戦的で戦大好き少女。赤と黄色と水色の派手な着物を着るのはその自信の現れである。
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樒が足元の着物を丁寧に羽織始める。
ー蕨ですか?鏡台まで来ていただけます?わたくしのお色直しをお願いします。
「あ、樒様。じゃ、白粉、ゆっくり寝てね~。」
「呼ばれたの?わーったよ、おやすみ。」
ー皆さん、寝れなかったかもしれません、お詫びします。明日の朝は少し遅くに集まりましょう。
「はい。」
残った紫の七草が寝床で揃って返事をする。
「樒様、お待たせしました~。」
「いえ。いつも申し訳ありませんね、蕨。」
「いえいえ~。」
上田樒は、歪んだ愛情で覚醒する、いわば人体兵器でもあった。
御前の色欲が、樒をアップデートし、更に強く、特異な能力に目覚める。
「樒様、たまには唇に紅色を塗りましょう。」
「良いですね。ますますわたくし、素敵になっていきます。」
①紫の七草、それぞれと間接的に話すことができる。所謂、❝テレパシー❞を覚醒する。
②御前の大柄な薙刀を扱う怪力も継承。
③カラダの成分を任意に毒素に変換することができる。
④圧倒的な威圧感が、受けた相手を廃人になるレベルの恐怖を与える。
「樒様~、髪の毛が少々傷んでます。薄めた油でケアしましょう。」
「頼みますよ、蕨。」
しかし、樒が愛を感じている時間も勿論だが、その特殊効果を使うほど、その愛のエネルギーも低下していく。③④は特に消費するので、樒も滅多に使わない。
「出来上がり!綺麗になりましたよ?」
「あら、ホント。素敵ですわ。」
「…私、頑張りました。」
蕨は俯きながら視線を樒に送る。
樒が微笑むと、手を差し出す。
「あ、どうぞ。」
蕨の手を取り、樒が立つと、そのまま蕨を抱きしめる。
「わ!」
「蕨も御褒美が欲しいのでしょう?」
「え…は、はい…」
樒は恥ずかしがる蕨の顔を両手で愛撫する。
「ん…」
樒はそっと唇を重ねる。
「こんなこと…御前様に…申し訳が…」
「フフ…内緒ですよ?」
「は、はい…」
「さぁ、今日は一緒に寝ましょう。いらっしゃい。」
「樒様…!」
2人は寝床で重なり合う。
女郎花。そこは女尊男卑の祖柄樫山では珍しい地域。男性はほぼ農作や力仕事のみをさせられ、奴隷として扱われる。女性が女性を愛することが多い中、当然子孫も生まれない。
紫御前は攫ってきては、男は奴隷に。女を若手の紫の七草として育ててきた。
紫の七草も任務で死ねば代わりを入れ、常に紫の七草を手足として使う。
和都歴450年 8月6日 午前11時 女郎花・紫御前の館
「皆さん、おはようございます。昨晩はわたくしのせいで寝苦しい思いをしたかと思いますが、体調は如何でしょうか?」
「問題ありません。」
樒の質問に応える水仙。
「水仙、昨晩はわたくしに代わり、ありがとうございます。」
「いえ。」
「では、早速ですが、本題に入りますね。御前様は菫の討伐をお望みです。場所を特定次第、直ぐに実行しましょう。」
「場所なんですが、ちょっと厄介でして。」
水仙が申し訳なさそうに言う。
「おや。どういうことでしょう?」
「樒ちゃん、菫ちゃんは置田村の神奈備に居るみたいですわよ。」
「置田村…越境しろと?」
「そうなっちゃいます。」
しばらく沈黙が支配する。
「神奈備の情勢はどうなのでしょうか?」
「現在は鈴谷が乙名ですが、ほぼ名前だけ。実際は赤島会って野蛮組織が地区を牛耳ってます。」
「野蛮組織…まさかそこに菫が?」
「ビンゴ!」
樒と水仙の話に白粉が割って入る。
「あの赤島会ってのも、内乱やらでバラバラらしくて、菫のいる白石組ってのだけをピンポイントで狙えれば、そう苦労もないと思います。」
「しかし、白石組と対峙すれば、きっと周囲にバレる、よね。」
「結局、ウチの無双の出番じゃん。」
「正面から行くか…裏をかくか…ですか?樒様。」
七草の意見が飛び交う。
「全部。」
「え?」
「全部、殺しましょうか。」
樒があっけらかんと言う。
次回2025/2/27(木) 18:00~「第5章・3幕 七草、動く」を配信予定です。