第4章・6幕 和都歴450年 8月3日 夕方の対峙
今回の登場人物
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・置田親子 (おきたおやこ)
置田村創設の一人で死して英雄となった置田蓮次の妻、藤香とその息子で、次期英雄として乙名から注目されている蓮太。同時に黛村からも悪い意味で注目される。
・毛呂 虎太郎 (げろとらたろう)
14歳。本置田地区でも珍しい、貧民の生まれ。蓮太を兄のように慕い、両親の人柄もあり、道徳も高い。腕力は弱かったが、剣の修行で心身とも強くなった。立場が弱い人を放っておけない。
・星 駿一郎 (ほし しゅんいちろう)
14歳。沙汰人という高位の村役の家系で生まれ、彼自身は村兵とし村を守る志を持つ。代々、沙汰人と高位でありながら、防衛の兵士としての役割に就く。真面目で武勇に優れる。
・青田 勝道 (あおたかつみち)
神奈備出身。沙汰人の親と、後継者の兄を持つ。青島家は赤島会の幹部で、青田組の実行部隊長として、刑務官学科に入る。
・綾瀬 彩羽 (あやせいろは)
神奈備出身。沙汰人・青田家の家事手伝いとして、古くから働く貧民。半面、非常に美しく、武術に長ける。また、青田家の次男。勝道の幼馴染で良き理解者。
・一本松 康二 (いっぽんぎこうじ)
八俣出身。貧民で、ごろつき仲間とお金の為に何でもしてきた。まだ殺人こそしないものの、その後処理など、善悪の分別よりも金銭を大事にする。
・二木 洋四郎 (にきようしろう)
神奈備出身。貧民で、弱い者から必要なものを奪えばそれで良いという考えの持ち主。強い者には媚び諂う、最低な男。
・三条 勝太郎 (さんじょうかつたろう)
神奈備出身。貧民ではないが、特技もなく、許嫁になるはずの女を売り、自分の身銭を増やすことに注力してきた。武勇に冴えないが、非常に狡猾。
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和都歴450年 8月3日 夕方 寺院
青田勝道は、1日の課題を終えると、綾瀬彩羽と一緒に帰路につく。
「今日はホント、上の空だったね。どしたの?」
「実は、うちの組がさ、赤島会を出たから、孤立無援で、いつ戦争になってもおかしくないんだ。」
「え?そうだったの?道理でお義父さんたちピリピリしてるわけだ。」
「まぁ、戦争になるって言っても、交渉からのスタートだろうから、俺の実行部隊としての仕事はないと信じたいが。」
瞬間、勝道と彩羽は背後から組み付かれた。
「誰だ?」
振りほどこうとする勝道の視線に腕を組んで立っている男が居る。
「三条!」
「暴れると女を殴るぞ。」
「彩羽を放してやれ、卑怯な奴め。1対1でやろうぜ。」
「黙れよ!」
三条が勝道を殴る。
「一本木、勝道は彩羽ちゃんが大事で反撃できないからよ、お前も一緒に殴ろうぜ。」
「へへへ、そうだなぁ。うらぁ!」
2人で勝道を殴り始める。
「勝道さん!」
「おっと、この女も結構な馬鹿力だ。縛り上げるか。」
縄で彩羽を縛り上げる。
「三条、ちょっと縛るのだけ手伝え。」
「ああ、動けない女の相手の方が楽しいぜ、任せろ。」
「彩羽、くそ!」
「お前は動くな!」
一本木が動けない勝道を激しく甚振る。
「これで小遣い貰えるなんて最高だな!」
「女は縛った。後で愉しむか。」
「二人とも二度と寺院には来れないように心の底まで甚振ってやる!始めるぞ。」
「やめろ、彩羽には…」
「黙れ!」
三人が勝道を嬲り始めた。
「面倒だ、腕を切るか折るかした方が早いんじゃね?」
「やっちゃうか?へへへ…」
「勝道さぁん!」
その時、一閃が走る。
「ぐふ…」
勝道の腕を折ろうとした一本木は倒れた。
「な?誰だ?」
「ほ、星…毛呂…置田さんか?」
蓮太と虎太郎がそこにいた。
一本木は駿一郎が倒したようだった。
「お前ら三人の悪行は聞いた。誰の命令なんだ?」
蓮太が尋ねる。
「ち…ここは引かせてもらうぜ。」
後ずさりする三条を蓮太は一気に間を詰めて襟をつかむ。
「逃がしはしないぞ。」
蓮太の眼光も鋭く、ほんの少し駿一郎と虎太郎に武道を支持してもらったが、その成長は驚く速度だった。
「れ、蓮太、話すから、守ってくれるか?」
「二木!黙ってろ。」
「三条…じゃ、お前に任せるわ。」
「え?」
二木は蓮太と三条に砂を撒いて逃げて行った。
「くそ!」
「とりあえず、皆をうちへ運ぼう。少し遠いが、このままだと危険だ。」
蓮太は自分の邸宅へ勝道と彩羽、一本木と三条を駿一郎と虎太郎で保護しながら移動した。
「さぁ、青田君と綾瀬さん、ゆっくりして、今日は泊っていっても構わない。」
「済まない、無様なところを見せた。」
「気にしないで。ここは蓮太の家だ、安心して。」
落ち込む勝道を虎太郎が気遣う。
「俺は青田勝道。勝道でいい。」
「私も、綾瀬彩羽。彩羽で構わないよ。」
「なら俺も、置田君じゃなくて、蓮太で構わない。」
少し皆が打ち解けた。
「大変だったな。」
藤香がお茶を持って広間に入ってきた。
「さて、三条と一本木、どちらでもいいんだが、話を聞きたいな。」
蓮太が問いただす。
「待てって。いいのか?将来の乙名さんが暴力で話し聞かせろって。俺らは何も知らない。」
三条が黙秘する。
「さっき、一本木が小遣い貰えるって言ってたよ?」
彩羽が間に入る。
「だ、そうだが?小遣いってなんだ?」
蓮太が一本木に目を向ける。
「し、知らねぇ。言ってねぇ。」
「埒が明かないな…」
蓮太が困り果てる。
「これをやろう。」
藤香が金を10枚持ってきた。
「え?」
一本木が目を丸くする。
「やるから、逃げていいぞ?三条も欲しいか?」
「・・・?」
「母上?何を?こいつらは何か知ってますよ?」
次回2025/2/2(日) 18:00~「 第4章・7幕 和都歴450年 8月3日 夜の行方」を配信予定です。