第4章・2幕 2つ目の❝手助け❞
今回の登場人物
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・野崎 飛助 (のざきとびすけ)
置田蓮次の信望者で右腕だった男。蓮次の死後は妻・藤香にも劣らぬ村人を束ね、黛村への侵攻を常に画策している。古き仕来たりを重んじるが故、美咲とは特にウマが合わない。
・赤島 猛 (あかしまたける)
野崎飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。
・豊倉 完以 (とよのくらかんい)
置田村南部・日輪の沙汰人で副統括。置田村でも指折りの豪商。出世欲が強く、またどこかケチで、小心者だが、知恵と金銭で権威を取り込んできた男。
・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。置田村東部・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。実は九狼党・幹部で❝尾❞の字で呼ばれる。攻勢派に副統括の話を持ち掛けられ、藤香抹殺に掛かる。
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野崎が赤島の売春宿から連れてきた女4人を、結局相島は全員裸にさせて、囲ませた。
酷い命令と仕打ちをしては歓ぶ相島はまさにケダモノだった。
「いや~たまらん。やっぱりお前いいな。この女もいいが、どれも持ち帰るに迷う。」
「何なら全員どうぞ。」
野崎の言葉に、女性たちの心は折れてしまった。
「い、いや…」
1人の女性がそう漏らした。
「ん?野崎さん。この女は嫌だそうじゃが?」
「ほう、そうですか。豊倉!」
「はい。」
「その女を生きたままバラバラにして、親に返してこい。」
「わかりました。」
豊倉が女を連れていく。
「いや、やだ、やっぱり何でもするから!」
「いや、結構だ。嫌な気持ちでやられても迷惑でね。」
そういうと豊倉と女は外へ出た。
「すみません、相島さん。教育不足でして。」
「まあ、儂の良さを分からん雌豚には、相応しい末路じゃな。」
「残りの女は別室に待機させて、後でお持ち帰りください。そろそろ例の話を済ませましょう。」
「おお、そうじゃな。済まんな。儂も女のことになると夢中でな。」
「素晴らしいことですよ。」
赤島と豊倉が女を別室に連れていく。
良い酒で、改めて二人は杯を交わす。
「では、続きといこうか。」
「わかりました。2つ目の❝手助け❞は情報のみの提供です。」
「情報?」
相島は眉を顰める。
「ただし、藤香と対立関係にある相島さんにはかなり貴重な情報です。」
「ほう、で、どんな情報なんだ?」
「その前に、相島さんが、藤香にかなり怪しまれる切っ掛けとなった事件は御存知ですよね?」
「ん?あ~白昼、村にかなりイイ女がいて、つい手を出した時だ。名前とか死んだ奴らは覚えとらんが。」
相島が記憶を辿り、そう話した。
「その時、相島さんのことです。関係者の処分に抜かりはなかったと思いますが。」
「ああ、確か部下も切り捨てた。そこまでの価値がある女だった。結局はその女も自害したが。それが何か問題だったのか?」
「はい。ただ、この情報を渡すと同時に、私のお願いも一つ聞き入れて頂けますか?」
「お願い?内容にもよるが。」
「ではお願いの内容を先にお伝えしましょう。」
野崎がそういうと、盃をサッと飲む。
「お願いと言うのは…藤香の抹殺です。」
ー!?
「…本気か?」
相島は少し酔いがさめた。
「はい。」
「儂が直接手を下すことも条件か?」
「いえ。方法は問いませんよ。結果がすべてでしょう?」
涼しい顔で言って退ける野崎。
「そのリスクに見合う情報だと?」
「…というより、結果的に藤香を襲う事にもなりかねないので。」
「…2つ目の❝手助け❞とやら、話してみてくれ。」
相島が神妙な顔をする。
「結論から言いましょう。相島さんがあの時、慰め者にした娘の母親が、藤香の家で生きています。」
ー!?
「何?そ、それじゃ…」
「御心配なく、言葉も譫言しか話せません。死んでいるようなものです。」
「ふぅ…」
野崎はスキを逃さず、安心する相島の心を穿つ。
「…でも、不安…ですよね?いつ何を話すか分からない。」
笑顔で話す野崎に、相島は鋭い視線で応える。
「そういう事か。確かに、同時に藤香を襲うことにもなる…な。」
「ええ。その方が効率的で、自然でしょう。寧ろこんな良い機会は後にも先にもないでしょう。」
野崎が柔らかく焚き付ける。
「野崎さんは手伝ってくれないのか?」
「俺は立場上、表立っては無理です。が、赤島が神奈備に残してきた野蛮組織がありましてね。そこと結託して藤香を詰めるのが宜しいかと。」
「赤島会か?」
「お、御存知でしたか。」
相島が盃を飲む。
「今は大きな組織だと聞いている。それなら百人力だ。藤香ごとき仕留めるのも時間の問題だろう。」
「それが、そうもいかない事情がありましてね。」
ーガラ!
「そこからは俺も話に加わります。」
赤島が部屋に入ってきた。
「お、赤島会ってやはりアンタの組織か。」
相島がニヤリと笑う。
「赤島会、正確には赤島組を使うなら、俺のお願いも聞いてもらうのが条件だ。」
「条件?」
赤島の珍しく真面目な顔に、相島はまた眉を顰めた。
次回2025/1/19(日) 18:00~「第4章・3幕 赤島会」を配信予定です。