序章・4幕 相島という男
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。村東部・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。
・桑井 政介 (くわいせいすけ)
相島の部下。貧民だったが、相島に官人として将来を約束されたが、裏切られ殺された。
・大須賀 栃春 (おおすがとちはる)
置田村の刀禰。八俣の刑務長を担当 相島の息がかかっている。
■ ▢ ■ ▢
桑井が殺され、藤江らは早朝、本置田の牢屋に馬車で帰還する。
「戻りました。」
「おう、ご苦労。」
二人を出迎えたのは八俣の刀禰・刑務主、綿貫仁兵衛。まだ40歳にも満たないが、物静かな男で、従順。しかし欲望には忠実な男。
「奥で相島さんと大須賀さんがお待ちだ。」
二人が奥に入ると贅沢な料理と酒で盛り上がっていた。
「ただいま戻りました。」
「お、今回色々身体使ってもらって感謝しとるよ。」
相島がムシャムシャと食事をしながら礼を言う。
「桑井が隠し持っていた残りの銀貨です。」
藤江が相島に差し出す。
「いあや、悪いな。でもこれはお前さんたちに渡しとくよ。」
「え?いいんですか?」
藤江らは驚きを隠せず、目を丸くする。
「その代わり、また何かあったら頼むよ。」
相島は視線を合わせず淡々という。
「ありがとうございます。」
「行っていいぞ。」
相島は二人を所払いし、酒をゴクゴク飲み始めた。
「ぷはぁ。うまい、スッキリした。」
「痞えが無くなれば、酒も美味いですよね。」
「むふふ、言うな言うな。感謝しとるぞ。大須賀には。」
そう言いながら相島は金貨の入った袋を大須賀に渡す。
「ありがとうございます。」
「これからも儂の欲求を満たす上では大須賀との関係は不動にしておきたいからな。」
「実質、相島さんは罪にはしません。すべてフリーパスということ、心得てます。」
「わかっとるね、うむ。わはは。」
相島の酔いが一層ケダモノを濃く現す。
「しかし、相島さん。不思議でして、税を誤魔化したとして、それだけの利益を得れるものなのですか?」
「む?何だ?お前も稼ぎたいのか?」
「いえ、私は相島さんには及ばないですが、気になりましてね。」
「まぁ、儂はお前以上に特別な存在なんじゃよ。」
相島の顔は更にケダモノになる。
二人は部屋を後にすると建屋を出て、もう一つのカギ付きの建屋へ入る。
「そういえば掟破りの処刑予定の者や、都からの放浪者など、身寄りのないものはまた集めておきましたが、その者はまた相島さんの馬車にのせますか?」
「そうじゃの。そこの男だけ縛って放り込んでくれ。後はまた改めてくるから、鎖で繋いでおけ。」
「わかりました。」
相島は牢を舐め回すように見ると少女に目が留まる。
「あのコだけは今日連れて帰るかの。酒も回って頃合いじゃ。」
「直ちに。」
大須賀が最初の建屋に戻ると、綿貫と藤江らが出迎える。
「相島さんは?」
「御愉しみだよ。お帰り後は掃除、よろしくな。」
大須賀は親指を後ろに向ける。
「はい。」
藤江が返事をする。
「おい、内川。」
二人は部屋を後にする。
「本当のところ、相島さんはどう稼いでいるんでしょう?」
「さてな。相当ヤバいことなんだろう。」
綿貫の質問に大須賀が冷静に答える。
ー恐らく人売りでもしてるんだろう。ただどんなコネかは分からない。
大須賀は想像する。
相島が帰った後、藤江と内川は無惨な少女の遺体を片していた。
「たまには俺が処理してくる。馬車に積むのだけ手伝ってくれ。」
相島の馬車が出ると、綿貫も死体の処理に谷川へ向かうところだった。
「じゃ、行ってきます。」
「珍しいな、綿貫が行くのか。」
大須賀が気に掛ける。
「たまには体張らないと、鈍っちまいますから。」
そういうと、綿貫は馬車を出す。
谷川まで馬車で来ると綿貫は少女の死体を運び出した。
「一人で運ぶのは流石にキツイな。ん?」
吊り橋の先で、ほんのり明かりが見える。
「なんだ?」
綿貫は死体を谷に投げ捨てると、そのまま吊り橋を渡り、茂みからその明かりの場所を覗いた。
相島と、さっき馬車に運んだ男が目隠しされて立っている。
向かいには何人かいるようだがよく見えない。ただその中で異様な雰囲気を持つ美少女?が立っている。
「今回はこの男で。とりあえずお納め下さい。」
相島が敬語で話す、その美少女は、黒い生地に紫の花柄の着物を纏い、圧倒的雰囲気がそこにあった。
次回2024/10/7(月) 18:00~「序章・5幕 九狼党」を配信予定です。