表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第3章・日々是拘日
37/147

第3章・10幕 独り善がり

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 籐香 (おきたふじか)

蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。若くして蓮次に見初められた強靭で屈強な戦士の資質と、美しく気の付く女性の品格を持つ。


・置田 蓮太 (おきたれんた)

14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。


・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)

伊集院家の令嬢。他の学童とは一線を画す貴族のような出立と、大きな瞳ながらどこか冷たい表情をもつ。常に腹に一物を置くような一筋縄ではいかない性格。九狼党の❝耳❞である。


■ ▢ ■ ▢

お抱え忍者の後継者、それが書本小夏という千毬の人材抜擢に、さすがに驚きを隠せない藤香と蓮太。

しかし、千毬は微笑むとゆっくり話始めるのだった。

「いいですか?私の個人的意見、と言うのを前置きはしておきますが。」

「何だ?14、15の小夏を死地に送る道理があるというのか?」

「いえ。正確に答えるならば、死地へ送る道理はありません。」

「何だと?」

「私が言いたいのは、それはその相手の信用が一定以上、上回っているからに過ぎません。」

「信用が?上回るだと?」

「つまり、親しい家族であれば、恋人であれば、命に関わる生き方は望まない。これは普通の考えでしょう。それは小夏ちゃんに対する愛情かもしれません。しかし、忍者・小夏としてみれば、侮辱でしかない。」

「侮辱だと?」

「彼女が忍者の道を選んだのが嫌々なのでしたら、恐らく今回この任務を命じた際に彼女から断ります。しかし、断らないとき、それは彼女が忍者としての任務を全うしようと臨んでいるということです。そこに危険だから、可愛そうだから、というのは彼女に対する侮辱ではないでしょうか?」

「腕を信じろとでも?」

「はい。むしろ、その腕があるかを見極めてあげるのが藤香さんの義務ではないでしょうか?無論、1年先、もしくは早くなるか、遅くなるかは彼女の努力次第ですが。」

千毬の見立てと計画を聞いて、藤香も蓮太も少し納得し始めてきた。

「初めに言いましたが、これは私の個人的意見です。決めるのは藤香様です。そして、もう一つ言わせていただければ、この条件を小夏ちゃんが飲まない場合も、この話は白紙で構いません。」

「・・・」

藤香は俯いたまま考えている。

「まるで…小夏が断らないのを見越しているようだな。」

とうとう蓮太も口を挟んだ。藤香はハッとした。

「あら?では置田君はこの話を小夏ちゃんに持ちかけたら、彼女は逃げ出すと思っているってこと?」

千毬の蓮太に対する対応は、いつもの如く上からだ。しかし、この言い方が、寧ろ藤香は自分を俯瞰的に見て取れた。そうだ、小夏が良いなら、それ以上言うことはないのだ。

「なるほどな。」

藤香が一言挟んだ。

「伊集院さんのお噂は兼ねがね聞いていたが、理解した。」

「あ、すみません。」

「いや、いいのだ。こちらこそ御礼を言いたい。ありがとう。私じゃ気付かぬ采配だ。わかった。ただし、条件は小夏の意思を第一、小夏の技量が上級に達するまではこの話は内密に。それで良いか?」

「わかりました。では取引成立ということで。」

千毬は席を立つと一礼して玄関へ向かっていく。続いて藤香と蓮太が見送りに行く。

「あ、そういえば、置田君が次期乙名になる時のお抱え忍者って、決まってるんですって?」

「え?」

千毬が思い出したかのように話した内容に、二人は焦った。

「決まってるっていうか…」

千毬は、しゃんとしない蓮太から、視線を藤香に向ける。

「蓮太の許嫁の鈴谷が言い出してな。何でも野崎の妹を宛がってきてな。」

「へぇ~妖さんでしたか?」

「知っているのか?」

「学童会長ですから。そうですか…」

少し含みを持たせたかと思うと直ぐに一礼して去っていった。

「母上、彼女を家まで送っていきます。」

「ん?そうか。わかった、気を付けてな。」

そういうと蓮太は走って千毬に追いつくと送っていくと一言伝えた。

間もなく千毬の家に着くという時、千毬が話し出した。

「本当は小夏ちゃんがいいんでしょ?」

「え?」

「お抱え忍者よ。」

「い、いやそんな。優秀な人なら、小夏じゃなくていいさ。」

顔を合わさず答える蓮太に千毬はまたも心を読む。

「そっか。小夏ちゃんはお抱え忍者としては欲しくないか。」

そういって千毬は手を振りながら家の門に入っていく。

「許嫁として、欲しかった?」

千毬が振り向きながら妙な笑顔でそう言った。

「そんな…バカ言え!」

蓮太は動揺する。

「稲穂には、そんな態度、見せたらダメだからね?彼方は乙名になると決めたんだから。」

千毬はそう言うと家の玄関に入っていく。

好きで乙名になるわけじゃない、蓮太はそう思うも、区切りをつけ始めていた。

次回2025/1/5(日) 18:00~「第3章・11幕 野崎妖」を配信予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさか後任に小夏を出してくるとは思いませんでした。びっくりです。藤香を納得させるとは、さすが千毬ですね。
続きが気になって、ついつい読んでしまいます! 千鞠の出番がたくさんあって楽しめました(^^) 何気にお気に入りキャラです笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ