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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第3章・日々是拘日
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第3章・8幕 女史の手腕

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 蓮太 (おきたれんた)

14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。



・置田 籐香 (おきたふじか)

蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。若くして蓮次に見初められた強靭で屈強な戦士の資質と、美しく気の付く女性の品格を持つ。


・香本 有 (こうもとあり)

沙汰人・置田村中央部・本置田 顧問。藤香のブレーン的存在。若い時は都に住んでいた経験もあり、考え方は至って現代的。しかし、残すべき古い文化は守るべきという側面も併せ持つ。


・書本 小夏 (かきもとこなつ)

彼女も生まれは現・黛村。一揆の際に父とは生き別れ、母と暮らす。事情を知った蓮太は時々家族で食事をする仲。蓮太への想いを改め、自身が得意とするくノ一への修得を志す。身体能力が高く、冷静で皮肉の利いた口調に変貌するも、本心は蓮太への恋心はどこか抑えられない。


・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)

伊集院家の令嬢。他の学童とは一線を画す貴族のような出立と、大きな瞳ながらどこか冷たい表情をもつ。常に腹に一物を置くような一筋縄ではいかない性格。九狼党の❝耳❞である。



■ ▢ ■ ▢

和都歴450年 8月2日 昼過ぎ 置田邸


蓮太は母・藤香と香本、小夏と小夏の母の5人で昼食を済ます。

「今日は香本さんがいらっしゃるということは、母上はまた外出ですか?」

「そうそう、この後、伊集院さんが相談したいと家に来るようでな。離れはあまり…な。で栗の母のこともあってまた来てもらったのだ。香本さん、いつも申し訳ない。」

藤香が香本に頭を下げる。

「いえいえ、私は藤香さんのサポートが仕事。何でも言ってちょうだい。」

香本は藤香よりは歳は上だが、非常に律儀で、品格のある人物だ。女性は掟によって大抵は男と一緒になり、共に過ごすのが普通の中、女性単身でしっかりとした役を仕事として活きている。そんな香本に藤香は尊敬の念を示すも、香本は夫・蓮次が亡くなった今、香本も藤香も同じだと言って忖度した。

そんな彼女らをたくましく思い、後に続いたのが西地区・秘八上の乙名・美咲 園と沙汰人で顧問・瑠璃川 三葉だ。この二人も若くして大役に付き、男の力を借りない政治を目指していた。ただ、この二人も内政派とはいえ、極端に平和思想なところもあり、藤香はそこは理解している。

今回、北地区・神奈備の調停行為は戦争を仕掛けかねないこともあり、美咲には伝えていなかった。

「小夏?この後、よかったら一緒に出掛けないか?」

蓮太が小夏を誘う。

「ありがと。でも用事があるから。」

そういって小夏は玄関へ消えていった。

「ありがとね、気を遣ってくれて。」

小夏の母が蓮太にそういうと、離れに歩いて行った。

「藤香さん、美咲にも戦争になるまでは手を借りたらどう?」

香本が話を変えるように藤香に言う。

「そうですね、一応伝えてはみますが、戦争を反対されると動きにくくなりますよ?」

「黙っていても、結果は戦争をします。事後報告より、前もって意思を伝えるべきでは?反対されても1乙名としての権限はあるのですから。派閥に拘ることは大事なことを見落としますよ。」

「そうですね。わかりました。」

藤香は意思を美咲に伝えると決めると、しょ気ている蓮太に目が留まる。

「何を落ち込んでいる?お前には稲穂がいるのだ。小夏のことなど気にすることもなかろう。」

「母上…実は、俺は、本当は…」

「お前も伊集院さんとの相談の席に出ろ。」

「え?いや…え?」

「お前に次期乙名の話はしてきたが、実際は1に決断、2に決断、その連続だ。今のお前に欠けているのは辛い地獄と酷い地獄、何方が良いか、という問いに決断できないだろう。」

「…!」

「口を挟まず、見ているのだ。良いな?」

「わかりました。」

藤香の言い分が、蓮太の気持ちを酌んでいることに気づいた。自分の意志の弱さと、決断に付いてくる責任、未来に恐怖を覚えていたのも確かだ。

「それはいいですね。伊集院さんはああ見えて弁舌に達者。蓮太君も見ておいて損はない。」

「はい。」

そう言いながら、蓮太の返事も聞かずに香本も離れへ歩いて行った。


しばらくすると千毬がひょっこり玄関に現れた。

「御免下さ~い。」

「上がって。奥の広間よ。」

藤香が通る声で千毬を返事を返す。

「お邪魔します…あ、置田君?」

流石に予想外の千毬も少したじろいでみせた。

「伊集院さん、すまないな。二人と言ったが、息子に乙名の心得たるを教えたくてな。其方との話を直に聞かせて、決断する様を見せておきたいのだ。バカ親だと思うかもしれないが、この蓮太もしっかり乙名とは何たるかを自覚させるに手段を選んでもいられなくてな。」

藤香の真摯な態度と、親としての愛情を感じた千毬は笑顔を見せる。

「私は構いません。」

「恩に着る。」

頭を下げる藤香が、頭を上げると、千毬は蓮太に視線を送る。

「良い母上をお持ちね。羨ましいわ。」

「申し訳ない。」

蓮太は顔を俯くまま。藤香が重ねて頭を下げた。

「止めてください、藤香様。今回は私の方が御相談と頼みごとをしに来た所存。頭を下げるのは私の方でございます。」

千毬は頭を地に付けて頭を上げなかった。

「伊集院さん、わかったわ。もう頭を上げてください。」

こうしたやり取りを見て、如何に忖度を忖度として見せないのか。蓮太は知らずのうちに学んでいた。ただ、この時の蓮太はまだ弱く、幼く、寂しかったのだ。

次回2025/1/3(金) 18:00~「第3章・9幕 お抱え忍者」を配信予定です。

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