第2章・9幕 処刑のエッセンス
今回の登場人物
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・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。村東部・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。実は九狼党・幹部で❝尾❞の字で呼ばれる。
・綿貫 仁兵衛 (わたぬきにへえ)
置田村の刀禰。八俣の刑務主を担当 物静かで従順。しかし欲望にはそれ以上に忠実。相島の九狼党との関係に気づき、急接近。覚悟を示し、九狼党に入党。
・次川 烈逸 (じかわれついつ)
寡黙な守役。次期・守役主ともされている。風紀を任されていて、守らない者に罰則を与えてきた。体罰は良くないと、罰金制度を構築した張本人。
・木場 楊八郎 (きばようはちろう)
元々は風紀でも守役でもなかったが、次川の一存で守役・風紀に。少しの風紀の乱れてそうな学童に強く当たり、面談の間に呼び出していた。
・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)
伊集院家の令嬢。他の学童とは一線を画す貴族のような出立と、大きな瞳ながらどこか冷たい表情をもつ。常に腹に一物を置くような一筋縄ではいかない性格。
・霧隠 玄 (きりがくれげん)
蓮太らの同期。飄々とした性格で、暗殺が得意の忍者志望。千毬とは付かず離れずの仲。妙に多面性を持ち合わせる不気味な性格。
・紫 尤 (しゆう)
元来、祖柄樫山近郊に住んでいた女領主。大柄で薙刀の達人。気品に満ちている面もあり、紫御前と畏怖される。
その実は、九狼党の幹部・かつ実行部隊の頭目。黛村とも繋がるも、謎の多い淑女。
・上田 樒 (うえたしきみ)
紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女で圧倒的な雰囲気を纏う。
・雨宮 蕨 (あめみやわらび)
紫の七草の1。樒の所持品を持ったり、身の回りの世話をする。樒の側近的役割。棒術や格闘術の心得がある。天然な性格だが命令には忠実。
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「では次、耳と爪か。耳から報告を貰おうか。」
「お任せください。」
次川が胸を張って報告する。
「学童の風紀違反での罰金制度が下火となり、金銭収入の方法を改めました。細かい方法は割愛しますが、生徒全員の寄付金制度の導入とそこからの収入源を定額・かつ引き上げることに成功しました。」
「予想金額が大幅に低いが、これは何故だ?」
「もともとは違反金での収支予想額で、今回大幅に増えたものかと。」
「それは既に盛り込まれているはずだ。生徒1人に対し銀1枚の額にも満たないのではないか?」
ー妙な空気が緊張感を際立たせてきた。
「我々が聞いている報告では銀2枚と聞いているが?まさか横領したとは言うまいな?」
「ま、まさか。根も葉もない…誰からの情報ですか?」
次川が焦燥に駆られて誤魔化そうとする。
「おい、例の二人を。」
「二人?」
後ろの出入り口からその二人が来る。
「ご無沙汰ぶりです。」
「どーも。」
千毬と霧隠だった。
「え?このガキらは?」
話についていけない次川は木場の顔を見るも、木場も顔を横に振る。
出入り口から紫の七草・樒と蕨が入ってきた。そのまま次川の席の後ろまで来るとワイヤーで次川を巻きつけた。
「な、何を…。」
次川のことは構わず、❝頭❞が話始める。
「もう一度聞くが、銀1枚分はどこへ行ったのだ?」
「いや、それは。来月からとの話で…」
「あら?私はすぐにでもと言われて工面したのだけど?」
千毬が割って入る。
「伊集院が盗んだんだろ。俺たちは知らない、なぁ木場?」
次川は木場に話を振ると木場は口から泡を吹いて、白目になっていた。
「え!?」
木場の椅子の後ろから樒がひょっこり出てきて、ニコッと笑う。手には針を持っている。
「❝耳❞よ、失望したぞ。裏切りには高い対価が求められる。それは我が❝オオカミ❞の掟である。」
「お待ちください!」
ーバシャ!
「わぷ!」
蕨がバケツ1杯の油を浴びせかけた。
「な…や、やめ…」
怯える次川。
ーシュッ!
樒がマッチを擦り明かりを見つめながら、不気味に話す。
「御安心下さい。悪い部分というのは~…加熱すると死にますから。うふふ…」
樒はケダモノのように微笑むと、火を次川に投げつけた。
「グギョk5@g:dl[k@khh・・・・・!」
次川の雄叫びと共に、身体が盛大に燃え始める。
そして❝頭❞が話を始める。
「この苦しみを我々もしかと刻み込もう。処刑というのは本来、無ければそれに越したことはない。しかし、どうしても掟、ルールを守れない者がいる。そこには絶対的な律する力が必要である。これはいわば必要悪ではある。掟を破ることの結果を一つの命を以って教えてくれる、ありがたい儀式なのだ。これぞ処刑のエッセンスと言えるだろう。」
「焼き終えたら始末して、新しい椅子を用意しろ。❝爪❞はすぐ始末して新しい椅子と交換しろ。」
紫御前が蕨に銘じる。
「では、報告は此処までで結構だ。続いて丁度人事の発表になるが、今回の除籍した二人に改め、功績を残した、伊集院千毬、霧隠玄を新しく幹部として入党させることにする。」
「今後は若い芽も必要となりましょう。故に流石のお考えです。妾も大賛成でございます。」
紫御前も賛成の意を表明する。
蕨が死体を運んでいくと、代わりに新しい椅子を持って用意する。
「では、新たなる❝耳❞と❝爪❞の二人は席に着きたまえ。」
二人が一礼して席へ着く。
「最後に❝牙❞より今後の方針を発表してもらおう。これは今まで保守的に静観していた事態を大きく覆す驚くべき発想である。では❝牙❞、よろしく頼む。」
「恐縮でございます。今❝頭❞からもあったように、これからの方針は収益は勿論であるが、それを安定させるための若者への教化・洗脳・躾である。これを駆使し、当初の九狼党の基本目標である、置田と黛の両村の対立を永続化すること。これに十分な貢献と寄与をお願いする。以上じゃ。」
九狼党。蓮太ら置田村の若き希望の光が、この邪悪な忌まわしき存在を知ることになるのは、まだずっと先のこととなる。
ー第2章・終
次回2024/12/20(金) 18:00~「 第2章・幕間劇 そういう世界」を配信予定です。