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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第2章・常在悪辣
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第2章・6幕 置田村・乙名寄合~②

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 籐香 (おきたふじか)

   蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。


・美咲 園 (みさきその)

   若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。


野崎 飛助 (のざきとびすけ)

   置田蓮次の信望者で右腕だった男。蓮次の死後は妻・藤香にも劣らぬ村人を束ね、黛村への侵攻を常に画策している。古き仕来たりを重んじるが故、美咲とは特に馬が合わない。


赤島 猛 (あかしまたける)

   飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。


■ ▢ ■ ▢

「赤島を今の神奈備から八俣に異動させてくれないか?」

ー!?

「異動?八俣へ?それが条件か?」

「ああ。そんなに飲めない条件でもないだろう?そもそも八俣なんて黛村に接していて治安は悪い。これといって何もない。」

藤香も確かにそう感じたが、同時に攻勢派にしたら村堺の大きい八俣は抑えておきたいのだろう。改めて野崎に聞く。

「…そんな八俣の何が狙いだ?」

「まぁ、有事に対応しやすいしな。今じゃ藤香さんに都度、お伺いを立てなきゃならん。」

・・・やはり。

藤香の憶測が的中した。

「しかし、あの地区に居る相島は目に余るので今、こちらとしても見張っている。その件は私に一任してくれないか?」

「相島?ああ、蓮次さんの参謀だった男じゃないか。何でも女性を襲ってるそうだが。」

「許せん行為だ。」

「うーむ。もう許してあげてもいいのでは?」

野崎が面倒くさそうに言う。

「何?貴様、女性の…」

「わかった。ここで話すことじゃないな。その件も飲むよ。だから赤島を八俣に異動、それでいいか?」

藤香は美咲の顔を伺う。

美咲は頷く。

「わかった。」

「決まりだな。」

野崎は満足そうに微笑むと、赤島に目線を送る。

「赤島、来月…いや、再来月、8月から、早速異動しろ。」

「へい。」

「では来月中に神奈備で鈴谷に引き継ぎと、私から八俣についての引継ぎもしなければな。」

藤香が言うと、皆頷いた。

「引継ぎは後日、こちらから連絡する。では以上で・・・」

「あ、ちょっといいか?」

野崎が手を挙げる。

「なんだ?」

「藤香さんと美咲は納得しないかもしれないが、俺は黛村を攻め落とすことこそが蓮次さんの遺志を継ぐものと信じている。」

「・・・」

「正直、内政だの男尊女卑だのは、俺にとって内輪もめの種でしかない。一揆以来、年数は経てどまだ争いは終わってないんだ。一丸になり、黛を討つまでな。」

「攻勢派の言い分など疾うに知れたこと。」

美咲が横槍を入れる。

「美咲はわかっているのか?この祖柄樫山の伝統は大山主(おおやまぬし)の意思と同じ、迂闊に外来を受付けてもいけない。禍津命(まがつのみこと)と同じだよ。」

「また宗教か。」

「神話だ、教えだよ。祖柄樫の人としてのな。」

あしらう美咲にムキになる野崎。

「やめろ二人とも。野崎の信心深さは知っている。それで?私たちにどうしろと?」

「八俣に砦を設置し、兵士を駐在させたい。八俣と日輪の男は交代で駆り出すが、出来れば他からも志願者だけでも来てほしい。」

「バカな。村人に死にに行かせることを命ずるなど出来ぬ。」

「だから、志願者だけでいい。本人の意志ならいいはずだ。」

「私のところからは出さないぞ。逆に行きたいと言う奴には牢に居れる。」

美咲がムキになる。

「平和主義も大概にしろ。希望者の意思をお前の意思で牢に入れるだと?」

「ああ。一人が行けば、また一人、隣の者が行けば、自分だけ行かないわけにはいかないと、結果希望者では無くなるからな。」

「はっ!」

美咲の正論に、野崎は両掌をあげて叫んだ。

「こんな女に未来なんか託すつもりはない。藤香さん、鈴谷さんと共に希望者の声には寄り添ってあげてください。期待してます。」

野崎が真剣な眼差しで藤香を見る。

「わかった。鈴谷の件もあるし、そこは融通する。だから落ち着け。」

藤香はそういって収拾する。

「どんな目的を果たす時も、犠牲は付き物だ。まさか内政派は黛村をあのまましておくつもりか?」

野崎は問う。

「いや、私は優先順位が違うだけで、皆、黛村には手を打っていくつもりだと信じている。今はそれより内政に目を向けるべきだと思うだけだ。」

「藤香さんはな。美咲はどうなんだ?」

「私も同じ。手を打つといっても私はもっと別のやり方があると思う。」

「別のやりかた?」

「話し合いよ。」

「話し合いで済むのなら、先の一揆(せんそう)など起きていないさ。」

「攻勢派の言い分はわかった。しかし、私たち内政派の言い分も分かったはずだ。」

「そうだな。蓮次さんの意思を踏みにじる、平和ボケの集まりだってことはわかったよ。」

皮肉で締める野崎に、藤香は平行線な関係を改めて感じた。

次回2024/12/12(木) 18:00~「第2章・7幕 美咲の疑惑」を配信予定です。

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