第2章・5幕 置田村・乙名寄合~①
今回の登場人物
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・置田 籐香 (おきたふじか)
蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。
・美咲 園 (みさきその)
若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。
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和都歴450年・6月19日 置田宅・離れ
5人目の乙名を決めるべく、乙名寄合が開催された。
「では、これから置田村・乙名寄合を始める。議長は私、置田藤香が担当させていただきます。」
藤香と他3人の乙名が顔を合わせる。
「今日の出席者を簡単に紹介する。」
出席者
乙名・置田村中央部・本置田 統括 ※西部・八俣 兼務
置田 藤香
乙名・置田村東部・秘八上 統括
美咲 園
乙名・置田村南部・日輪 統括
野崎 飛助
乙名・置田村北部・神奈備 統括
赤島 猛
「以上のメンバーで今回は進めます。」
「では早速、主題目である、5人目の乙名を決めたいと思います。各乙名より、候補者1人を任命していただきたい。私、本置田からは鈴谷氏を任命したい。では次、美咲、よろしく頼む。」
「私、秘八上からも、同じく鈴谷氏を推薦します。」
「では次、野崎。」
「俺の日輪からは豊倉を推薦する。」
「うむ、では最後、赤島。」
「俺も豊倉を推すぜ。」
「・・・皆ありがとう。全乙名から推薦者がでたが、2対2で割れてしまったな。」
藤香は予想していたとはいえ、少し落胆する。
「議論したところで埒は明かないだろうな。」
野崎が目線を合わせずボヤく。
野崎 飛助。置田蓮次の信望者で右腕だった男。蓮次の死後は妻・藤香にも劣らぬ村人を束ね、黛村への侵攻を常に画策している。古き仕来たりを重んじるが故、美咲とは特に馬が合わない。
「なら、この案はいかがでしょう?今回は藤香さんの推薦者を選び、次回は・・・」
「そんなのズルくねーですか?」
美咲の提案を赤島が遮る。
「赤島の言う通りだ。俺たち乙名は平等なはずだ。蓮次さんの連れ合いだからと何かと藤香さんを優遇するのもおかしな話だろう。」
野崎が意見する。
「そうだそうだ、それより飯も酒もまだ出さねぇのか?」
「赤島。藤香様に対してそれは・・・」
「美咲、構わん。今、用意させる。」
赤島が美咲にニヤケタ顔を見せる。
赤島 猛。飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。
「ということだ。しばらく席を外す。皆、休憩でもしていてくれ。」
藤香が隣の部屋に移る。
「お、紅と縹か?すまないが運ぶの手伝ってくれないか。」
「お任せください、藤香様。」
神無月 紅。美咲の目指す平和思想に共鳴し、護衛と助言を担当する。秘八上・顧問の三葉には無い、武勇面を主に担当するが、文武両道の才女。22歳という若さで側近。
「何なりと。」
水無月 縹。美咲のお抱え忍者。紅と同期の22歳で、密偵・諜報・陽動・暗殺をやってのける優秀なくのいち。紅と共に、素手で生き残るサバイバル訓練も受けてきた手練れ。
「悪いな。雑務など頼んで。」
「いえ、それも私の使命と心得ていますので。」
藤香と紅、縹が食事と酒を持ってくる。
「おう、姉ちゃんもいるのか。こっちこいや。」
「いい加減にしろ。赤島。」
「なんだ?別に美咲が相手してくれてもいいんだぜ。」
紅が刀を抜こうとする。
「赤島もその辺にしておけ。」
野崎がなだめると、縹が紅の手を抑える。
「攻勢派には品性の欠片もないのか?」
美咲が口を挟む。
「有事となればこの程度、日常茶飯事だ。内政派こそ、平和ボケが過ぎるだけだろう。」
「よせ。内輪もめなどするために集まったのではない。」
藤香が収拾する。
「では、譲りますよ。内政派の鈴谷氏に。」
「どういうことだ?」
「そのままの文言で受け取ってくれて構わない。攻勢派が折れ、そちらの乙名候補に譲る。」
「いいのか?」
「ただ、一つ条件を提示したい。」
「なんだ?聞けることなら聞くが。」
藤香と野崎の会話を横に、美咲も真剣にその話を聞く。
赤島は酒を飲みながら紅に色目を使う。
紅は軽く臨戦態勢で周囲を見ている。
「我々、攻勢派からの条件は・・・」
刹那の沈黙が流れる。
次回2024/12/8(日) 18:00~「 第2章・6幕 置田村・乙名寄合~②」を配信予定です。