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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第2章・常在悪辣
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第2章・3幕 慈愛

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 蓮太 (おきたれんた)

   14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。


・置田 籐香 (おきたふじか)

   蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。


・鈴谷 稲穂 (すずたにいなほ)

   黛村の旧名・鈴谷村の元乙名・鈴谷与志夫の娘。両村で高い地位があり、一揆の際に蓮次が置田村に取り立てた以降、次期乙名としての地位も噂される。稲穂自体は乙名に興味はなく、蓮太の許嫁となり、蓮太に乙名になることを望んでいる。


・美咲 園 (みさきその)

   若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。


■ ▢ ■ ▢

藤香と小夏は(わだかま)りを話し終えると離れに入っていく。

稲穂はこの二人のやりとりを見て、肝心なことは聞こえなかったが、なんとなく固い絆を見た気がした。

二人は蓮太と共に長く一緒に過ごす仲ともなれば、そこに次期乙名候補の娘という肩書しか、自分に強みはないことも、改めて思い知ったのかもしれない。

でも、だからこそ確信した。堂々と蓮太を愛せるのは私なのだと。蓮太の許嫁として、蓮太のお世話をしてあげ、笑顔の蓮太で居させてあげることができる、唯一無二の存在。それは稲穂、自分だけだと。

蓮太が厠から出て、離れに向かおうとすると、稲穂と鉢合わせる。

「あ、稲穂さん?」

「蓮太君。」

「先戻ったんじゃないんだ。一緒に皆のところに戻ろうか。」

蓮太がそう言って先を歩く。

「今は二人がいい。」

稲穂はそう言うと蓮太を後ろから抱きしめる。

「ちょ、どうしたの?」

「蓮太君は私が嫌い?」

「い、いや、嫌いというかさ…」

稲穂は蓮太の手を取り、向き合う姿勢をとる。

「私を許嫁にしてほしい。」

「え?でも・・・」

「私が他の男の人と一緒になったら、その人も乙名候補になるかもしれないし。」

稲穂は敢えて視線を逸らしながら言う。

「それは、蓮太君も避けたいでしょ?」

「ま、まぁ。」

「それに、私、結構母性本能あると思うよ?」

今度は稲穂の視線は蓮太を逃がさない。

「稲穂…さん…でも俺、小夏…」

蓮太の口を塞ぐように口づけをする。

「ん!?」

稲穂は深く抱きしめて、深く口づけをし、時間を経過させていく。


ー私を乙名になる道具として見てもいい。都合のいい女として扱ってもらっても構わない。でも蓮太君、貴方なら、そうしていく内にきっと…愛してくれるでしょ?


稲穂は重なっていた唇を離すと蓮太の顔を見る。蓮太の瞳孔は開いていて口元も緩んだままだった。

「は、初めて…だよね?」

「あ、ああ。」

蓮太は現状を整理するので一杯のようだった。

「稲穂さん…稲穂…俺はどうしたら…」

稲穂は、そういう蓮太の不安を察すると同時に、蓮太が稲穂の身体を離さないことも、気付いていた。

「いいから。まだ続きがあるの。」

再び唇を重ね合わせると、蓮太も吹っ切れたように稲穂に応じる。

「稲穂…くそ…」

「蓮太君、そう、それでいいの。」


ー小夏ちゃんのことなんか忘れてほしい。将来的には私と居るのが二人の為だよ。罪悪感なんてきっとすぐ忘れるから。それまでずっと私が一緒に居てあげるから。


「稲穂、俺、稲穂を選ぶべきなのかな。分からない。もう分らない。」

蓮太の苦悩する顔を見ながら、稲穂はもう分っていた。私に落ちたんだと。

「私でいいと思う。蓮太君が必要なものも、必要なことも、私なら全部叶えてあげるから。私を傍に置いてほしい。」

そう言いながら、二人はまた深く口づけをしながら、本宅の中に入っていた。


一方、離れでは食後の片付けを小夏は母と行っていた。

美咲は栗の母に食事を済ませると、片付けながら話し始める。

「4日後、置田村の寄合ですね。」

「そうだな。」

「現在の乙名4人に、蓮次様の1枠を誰か相応しい者に正式に譲る決を取る。でしたよね。」

「そうだ。恐らくこれには全員賛成だろう。」

「3日後に、我々も情報共有をしておきませんか?」

「私と園の寄合か。有力者も集めるか。園の統治する、西地区・秘八上の沙汰人も呼ぶと良い。」

「そうですね。わかりました。では6月18日・午後に、ここで。」

現体制では乙名は4人。黛村への攻勢派と藤香らは意見が合わず、2対2で揉めていた。

藤香はまず置田村の基盤をしっかりとし、黛とのことはその後と考えていた。

その意見に賛同する者も多く、藤香を支持する沙汰人や刀禰など、多くを取り込んできた。

美咲も少し意見は違えど、攻勢派には全くの反対意見を持つ意味で、藤香と内政派として君臨する。

4日後に控える乙名の寄合に、内政派は意見を共有しておこうとの美咲の案を快諾し、3日後、内政派の寄合が始まる。

次回2024/12/1(日) 18:00~「第2章・4幕 内政派」を配信予定です。

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