表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第2章・常在悪辣
19/166

第2章・2幕 小夏への親心

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 籐香 (おきたふじか)

   蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。


・書本 小夏 (かきもとこなつ)

  彼女も生まれは現・黛村。一揆の際に父とは生き別れ、母と暮らす。事情を知った蓮太は時々家族で食事をする仲。身体能力が高く、女性らしくないと本人は気にしている。本心は蓮太への恋心は抑えられない。


・鈴谷 稲穂 (すずたにいなほ)

  黛村の旧名・鈴谷村の元乙名・鈴谷与志夫の娘。両村で高い地位があり、一揆の際に蓮次が置田村に取り立てた以降、次期乙名としての地位も噂される。稲穂自体は乙名に興味はなく、蓮太の許嫁となり、蓮太に乙名になることを望んでいる。


・相島 権作 (そうじまごんさく)

   置田村の沙汰人。村東部・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。


・遙 星薊 (はるかほしあざみ)

 紫の七草の1。情報収集や毒針での暗殺を担当。汚い戦術や拷問を好む非道な女。


■ ▢ ■ ▢

完全に日も落ちた頃、相島と藤香を乗せた馬車が、再び相島の館に着く。

「では、藤香さん、これにて失礼します。」

「ああ。悪かったな。だが、私がお前を疑わなくなる理由はない。むしろ強く感じたよ。相島(おまえ)の悪しき魂をな。」

「・・・」

そういうと、二人は一言も話さず別れた。

藤香の馬車が走り去る。

「・・・じ・・ま・・」

相島は館へ入ろうとすると脇の木陰で呼ぶような声がする。

「ん?」

相島は茂みをかき分けた先の塀と建屋の間の木の下の茂みに来る。

「何だ?なんだったん・・・」

相島の背後に人影が現れると一瞬で首に匕首(あいくち)を当てられた。

「どうも。星薊(ほしあざみ)です。以後お見知りおきを。」

「き、貴様…紫の七草か。」

「やばいよね、藤香には疑われるは、綿貫にはもう九狼党のこともバレてる。」

「それは、ちゃんと説明する・・・」

「樒が知ったら、相島(おまえ)、命ない、よね。」

「待て。綿貫を取り込めばいいだけだ。彼奴は使える。そうすれば情報も洩れない。」

星薊の目がケダモノのようになる。

「ふーん。でもお前と綿貫を二人ヤレば情報は絶対漏れない、よね。」

「七草の分際でオオカミのメンバーを勝手にヤッたら、それこそ御前様の立場もないだろうよ。」

「・・・フン。❝尾❞の分際でオオカミ古参の如き物言いをする、よね。」

星薊が匕首をしまう。

「早急に御前様と話をさせてくれ。」

「その必要はない。私がお前の監視役だ。有りの(まま)を話し、御前様の指示を仰ぐのみ。」

「頼む、これからも一層、九狼党には尽くす。」

「また明日までに結果を知らせに来る。下手な動きはしないこと、よね。」

「わかった。」

そういうと、星薊は消え去った。

「・・・ふぅ。ああいう女は全てにおいて苦手だ。」


一方、藤香はその夜、蓮太が千毬との取引をした話を皆にするため、夕食をとった日だった。

稲穂への許嫁の話も、この夜の話だった。

落胆した小夏を見かけた藤香は声をかけた。

「小夏、どうした?」

「蓮太のお母さんのお眼鏡には敵わないので、ほっといてください。」

藤香はすぐに悟ると小夏を抱き寄せた。

「何も言うな。小夏の気持ちなど()うに分かっておる。」

「お義母さんは分かっていて稲穂に蓮太を?酷過ぎます。」

涙を流す小夏をただ抱きかかえる藤香。

「許せ。乙名になるに、必要な道筋。私の命でそれが代われるなら、そうしてあげたいが。」

小夏はずっとすすり泣く。


「あれ?藤香さんと小夏…ちゃん?」

二人を見かけた稲穂は猜疑心が沸いた。嫌な女だと分かりつつもこっそり声が聞こえるかくらいの位置で盗み聞きをする。


少し泣き止んでくると藤香が話し出す。

「小夏。蓮太の***を*******してるのは***だ。」

「え?」

小夏の顔色が変わる。


「な、何?よく聞こえない・・・」

稲穂は一生懸命聞くも、良く聞こえなかった。


「だから、小夏はまずくノ一になれ。その後は******に行き、****として蓮太の役に立ってくれないか?もしかすれば、その**は********かもしれない。」

「そ、それは・・・」

小夏はこの世のものと思えない顔をして、涙など吹き飛んだ感じだ。


「なんなの?」

ますます稲穂に猜疑心が沸く。


「それが、小夏、お前にしてやれる私からの償いと、気持ちだ。図図しいのは分かっている。でも小夏にしか頼めない。出来たらその気持ちに応えてほしい。」

小夏は涙ぐむと答える。

「書本小夏、藤香様の命に従い、その任務を全うするまで、もう絶対に泣きません。ありがとうございます!」

その目は今まで許嫁問題に気持ちを左右されていた娘の目ではなく、活路を見出した、愛する者の母親に忠義を誓う目をしていた。

「小夏。お前ならきっとできると信じている。こちらこそありがとう。」

藤香は滅多に見せない涙を流す。


「何あれ…くのいちとか言ってた。お抱え忍者にでもさせて機嫌でも取ったのかな…気になるなぁ。」

稲穂は疑惑は沸くが、この場で堂々と出ていく気にはならなかった。その道徳観は破らない、彼女の良心と教養は、また確かなものである。

次回2024/11/28(木) 18:00~「第2章・3幕 慈愛」を配信予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
相島はもうそろ終わりですかね? *の部分がとても気になります。
相島さん、いつも殺られそうで殺られない。しぶといキャラで密かに気に入ってます笑 小夏と藤香の会話も気になるし、これからが楽しみですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ