第10章・10幕 女中・鳳
今回の登場人物
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・砂榎 鳳 / 書本 小夏 (すなえあげは/かきもとこなつ)
死んだとされる小夏が変装し、暗躍する姿。黒尽くめの忍装束に忍覆面をする。高い身体能力とクールな性格は健在。蓮太の幼馴染が故、その想いを時折見せる。ただし、忍頭巾の覆面と装束の裏地は赤となっており、小夏として生きる時に裏地に着替える。忍び装束から生足を出し、耐切創タイツで覆う。
・美咲 園 (みさきその)
若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。
・神無月 紅 (かんなづきくれない)
美咲の目指す平和思想に共鳴し、護衛と助言を担当する。秘八上・顧問の三葉には無い、武勇面を主に担当するが、文武両道の才女。22歳という若さで側近。現在25歳。
・奉日本 灯 (たかもとあかり)
通称・夢占いの巫女。日輪の貧民の出自だが、神器による夢占いで一躍大金持ちになる。現在は女性を道具にすることを反対する美咲に保護され、家族で優雅な旅館生活を送る。ちょっとした不思議ちゃんの気質がある。
・奉日本 里
灯の母親。美咲の保護下になり、家事や畑仕事から脱却。宝石集めに傾倒する。最近では家事代行の女中も雇うことにした完全な成金生活。
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八咫烏の潜入と夢占いをしてもらうことは達成し、更に夢占いをコピーした彼は、早々と豊倉の元へ戻る。夢占いの巫女を取り戻せないことに暗殺を企てる豊倉に、妙案を提示し、思いとどまらせる。
それは、母親・里の宝石への傾倒ぶりを使い、金で買えない宝石を条件に、夢占いの融通と、徐々に傀儡とすることだった。
そして日が変わり、そんな危機も知らない奉日本里は、家事雑務を代行する、新たな女中を雇うつもりでいた。
◎和都歴452年 3月19日 10時 置田村・秘八上 旅館・泡沫 夢の間
里は、美咲からの支援金を使い、新たに家事、雑務をこなしてもらう、専属女中を雇うことにした。
「今日、新しい女中が来るわ。試用期間も含めて、隣の部屋を宛がうことにするけど、あなた、良いわよね?」
「ああ。美咲さんの支援金なら、俺からは問題ない。」
明はそういって仕事に出掛ける。
そもそも、旅館住まいということもあり、任せる仕事なんてたかが知れてる。里は人柄で選ぶつもりでいた。
⦅御免下さ~い。⦆
「あら、来たかしら。」
里が玄関へ向かう。
ーガラ!
「初めまして。女中の募集を聞いて来ました、砂榎 鳳です。」
「あら、綺麗なコね。どうぞ、入って。」
「失礼します。」
「家事手伝いとは言うけど、これといって仕事はないとは思うの。ただ、日常の雑務を頼むことになるから、それをこなして欲しいのよ。」
里が居間に案内しながら話しかける。
「お座りになって。」
「あ、では早速お茶は私が淹れましょう。」
「あらぁ、気が利くわね。茶器は流しにあるから、お願いしちゃうわね。」
「お任せ下さい。」
小夏は、女中・鳳として潜入した。
髪型と声色を少し変えて。
彼女には目的がある。禍津社として、奉日本 灯から神器の1つ、羊の器・羊の頭を奪う事。
そして、もう一つは…
「どうぞ。」
小夏はお茶を置く。
「あら、いきなりお茶を淹れさせて御免なさいね。」
「いえ。仕事ですし、何なりと。」
「貴女、鳳さん?私の中じゃ合格よ、あとは家族と美咲さんの了承を得れたら、晴れて専属女中として居て貰おうかしら。」
「頑張ります。」
「いいわね、笑顔も素敵。そしたら、早速美咲さんの所へ行きましょうか。灯?貴女も来なさい。」
「はーい。」
灯を含め、3人は美咲の元へ向かう。
◎和都歴452年 3月19日 11時 置田村・秘八上 旅館・泡沫 姫の間
「御免下さい、奉日本です。」
ーガラ!
「どうも奉日本さん。例の女中はこの方ですか?」
紅が小夏を見る。
「ええ。とっても良い子でねぇ。」
「奉日本さんの中ではもう合格なのですね。どうぞ、美咲様は奥です。」
紅が案内する。
「おお、例の女中の面談か。」
美咲は書き物をしながら対応する。
「奉日本さん達はこちらへ。お茶菓子を用意してあります。」
「わーい。」
紅が里と灯を別室に案内する。
「さて、貴女の名は…?」
「鳳です。砂榎 鳳です。」
「鳳…珍しい名前ですね…ん?」
美咲は違和感を感じるが、それは何か分からなかった。
「貴女、何処かで会ってはいない?」
「さあ?私のような貧民を、美咲様が見知ることがありましょうか?」
「貧民とはいえ、貴女はどこか教養に満ちているような。ちなみに歳は幾つだ?」
「19になりました。」
小夏は歳も欺いた。
「…そう?今のコは若く見えるから分からないわね。」
「恐縮です。」
「貴女は、武道の心得は?」
「多少は。」
「奉日本さん達は、いずれ悪人に狙われる恐れがあるの。出来たら強い用心棒も兼ねて欲しいところだけど。」
「なるほど。護衛の件は最大限努力しますが、用心棒は別に付けるのも更に安全性が増すかと思います。」
「ふむ。分かったわ。それにしても誰かに似てる気がするわ。」
「貧民にはよくいる顔です。」
「貧民…それこそ蓮太君の友達には虎太郎やー
ー!?」
「どうかなさいました?」
(小夏…ちゃん? …でも…彼女は死んだはず…)
「他に何か必要な事があれば承りますが…」
(仮に小夏ちゃんだとして…一体何のために私の元へ?それも身分を隠すなんて有り得ない…
となると…やはり、別人…か…?)
「小夏…ちゃん?」
「… ? あ、私…鳳ですが? 私を呼んだのですか?」
「…いえ、ちょっと知り合いに似ていた気がしてね。」
「恐悦至極…です。」
小夏は頭を深く下げ、しばらく顔を上げなかった。
次回2025/10/12(日) 18:00~「 第10章・11幕 家守の訪問」を配信予定です。
※今回を以って1周年記念・強化月間を終了いたします。
次回投稿から通常投稿に戻ります。
引き続き、応援のほど、宜しくお願い致します。




