第10章・9幕 策謀と疑惑と
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・美咲 園 (みさきその)
若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。
・神無月 紅 (かんなづきくれない)
美咲の目指す平和思想に共鳴し、護衛と助言を担当する。秘八上・顧問の三葉には無い、武勇面を主に担当するが、文武両道の才女。22歳という若さで側近。現在25歳。
・奉日本 灯 (たかもとあかり)
通称・夢占いの巫女。日輪の貧民の出自だが、神器による夢占いで一躍大金持ちになる。現在は女性を道具にすることを反対する美咲に保護され、家族で優雅な旅館生活を送る。ちょっとした不思議ちゃんの気質がある。
ーーー
・八咫烏 (やたがらす)
若くして傾奇衆を束ねる頭目。漆黒の着流しに紫のバンダナを巻く、イケメン。目的の為には徹底的な勝率を考える冷徹さを持つ。都で得た神器・猿の器により、他人の技や神器能力をコピーできる。
・豊倉 完以 (とよのくらかんい)
置田村南部・日輪の沙汰人で副統括。置田村でも指折りの豪商。出世欲が強く、またどこかケチで、小心者だが、知恵と金銭で権威を取り込んできた男。
■ ▢ ■ ▢
攻勢派の勧めから、身なりを整え、都からの好青年として潜入、夢占いをしてもらう八咫烏。
しかし夢では、千毬と言う者を殺した八咫烏は、霧隠玄なる者に殺される。
その自身の死のトリガーが分かり、自信を殺すだろう男はどんな技の使い手で、どんな技が効かないなど、死んだ夢にしては得る者の大きい事に満足する八咫烏。
更に、神器・猿真似により、夢占いの儀もコピーしたのだった。
「いや、良い体験でした。自分にも思いも寄らない死期が訪れるものだと実感しました。」
「お役に立てて何よりです。」
八咫烏の礼に、頭を下げる灯。
「では、行きましょうか。」
紅がそう言うと、八咫烏は共に玄関へ向かう。
「あ…」
「どうかしました?」
「灯さんは、自身を夢占いすることは出来ないんですか?」
「それが最近わかったんです。嫌なことを念じて寝ることで、私自身も夢占いを見れることに...」
「へえ…それは良かったですね。」
「見たくない夢を見るので、あの羊の枕ではあまり寝ません。」
「…枕…なるほど。」
「もういいか?」
紅が急かす。
「あ、ええ。すみません。」
そう言うと、2人は部屋を出る。
「じゃあ、ボクはこれで。」
「そうか?そういえば、見ない顔だが何処から来たんだ?」
「自分で言うのも難ですが、都から遙々。」
笑顔で答える八咫烏。
「夢占いのために?」
「噂を聞いて、どんなものか試したくなりましてね。いや、本当に良かった。美咲さんにもよろしくお伝え下さい。」
「ああ。帰路、気を付けてな。」
「ありがとうございます。」
八咫烏はそういって紅と別れた。
◎和都歴452年 3月18日 19時 置田村・秘八上 旅館・泡沫 姫の間
「どうだった?」
「都から来たようです。夢占いの噂を聞き、興味を持った若者で、とても感動した様子でした。」
「そうか…手の者で無かった…ということか。」
紅の報告に、安堵する美咲。
「しかし、夢占いを使う灯を奪うことはあれど、殺害など企てましょうか?」
「わからんが。奪えないなら殺害、は考えられるだろう。」
「美咲様の暗殺を妨害されると言う点ではそうかもしれませんが…そもそも夢占いを信じる者も、そうは居ません。豊倉でさえ、呆気なく手放したのですし。」
「…豊倉か…そうか、彼奴は夢占いの信憑性を幾ばくか知っているのか。」
「…! まさか、今の八咫烏も、豊倉の使者では?」
「…夢占いの信憑性を探りに…か?」
「有り得ましょう。…いや、寧ろ今回の私共の護衛の固さが、逆に怪しまれることにはなりましょう。」
「確かにな…」
「八咫烏と名乗る者が、本当に豊倉や攻勢派かは、調べる必要があるかもしれません。」
「そうだな。しかし、そろそろ私の死期が近い。」
「ええ。その日を過ぎるまでは、防御に徹しましょう。」
紅の方針に、美咲は頷く。
◎和都歴452年 3月18日 19時 置田村・秘八上 旅館・泡沫 鴉の間
ーガラ!
「戻りました。」
「夢占い、どうだった?」
帰還した八咫烏に、豊倉は声をかける。
「夢占いの巫女…これは驚異ですね。」
「個人的には、彼女をこちら側に付けたい。」
「効果を知れば、誰もがそう思いましょう。」
八咫烏の答えに、豊倉は酒を注ぎ、八咫烏へと渡す。
「買収は、既に美咲にやられたわけだし、名目は保護だからな。取り返すのも至難。」
「どうでしょうね?」
「ん?何か妙案があるのか?」
(オレはもう、猿真似により、上書きしない限りは夢占いは可能だろう。しかし、この希少な能力は殺すには惜しい。仮に上書きしても良いように、オリジナルは活かすべきだろう。)
灯を取り返せない事に、単純に殺害を企てそうな豊倉を留めるために、八咫烏は妙案を提示する。
「親ですよ。」
「何?」
「特に母親は宝石に傾倒している様子でした。彼女に金では買えない宝石を提示することで、夢占いの巫女をも操ることが出来ましょう。」
「そうか!その手が…さすがだ、八咫烏。只者ではないと思っていた。君は腕も立つが、頭も切れるな。早速、宝石を調べよう。」
「おや、彼女は買えない宝石など無いはず。何か心当たりでも?」
「フフン、まあ、そこは私の領分だよ。おっと、そろそろ相島の相手に戻らないと。君はゆっくりしていってくれ。」
夢占いの巫女に対し、それぞれの策謀と疑惑が交差する中、豊倉もまたケダモノの様に微笑む。
次回2025/10/9(木) 18:00~「第10章・10幕 女中・鳳」を配信予定です。
※10/2 (木)~10/9(木)は1周年記念・強化月間です。
期間中は毎日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




