第1章・6幕 学童会長選挙開始~①
今回の登場人物
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・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)
伊集院家の令嬢。他の学童とは一線を画す貴族のような出立と、大きな瞳ながらどこか冷たい表情をもつ。常に腹に一物を置くような一筋縄ではいかない性格。
・霧隠 玄 (きりがくれげん)
蓮太らの同期。飄々とした性格で、暗殺が得意の忍者志望。千毬とは付かず離れずの仲。妙に多面性を持ち合わせる不気味な性格。
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裏庭で蓮太に焚き付けると、霧隠はそのまま裏庭を後にした。
「どう?」
「千毬か。」
霧隠と千毬が暗い通路で立ち話をする。
「蓮太は相当小夏ちゃんにぞっこんだ。」
「そう。なら私たちも小夏を守る理由は出来たわね。」
「僕は元よりそのつもりだけど。」
二人は並んで歩き始める。
「あとは私が確実に学童会長になる一手を打てば終わりね。」
「蓮太が降りたから、後は砂利みたいな男だろ?守役長は既にこちらに投票予定だ。」
「それと別に守役主が厄介でね。彼も昔ながらの男でね、女がリーダーになるのを酷く嫌がるのよ。更に厄介なのが、獲得票とは別に守役主の1票も大きい。こちらの守役長だけだと、反対派とプラスで守役主の1票は左右すると言っていい。」
「なるほどね。それであのジジイの秘密を僕に探らせてたのか。もしかして恐喝するつもり?」
「いえ。取引に応じさせるわ。必ず❝はい、やらせてください❞と言わせて見せる。」
千毬の表情はケダモノのようになる。
千毬は単身、守役主・森 幸兵衛の部屋へ向かう。
「失礼します。」
「お、入りたまえ。伊集院さんだね?」
千毬は一礼すると幸兵衛の前に正座する。
「お目通り願ったこと、誇りに思います。伊集院千毬です以後、千毬で構いません。」
「おお、教養にも優れ、なかなかの美少女と聞いていたが、本物はそれ以上じゃな。」
「守役主にそう言っていただけるとは光栄です。」
幸兵衛は辺りを見回すと身を乗り出して言う
「固い言い回しはなしじゃ。儂は幸兵衛。幸兵衛と呼んでくれ。」
森 幸兵衛。乙名や、沙汰人、親世代からは信頼のある、実直で経験豊富な守役として知られ、守役主まで実力でなった。ただ、奇妙な事件に遭遇しており、本人はそれを否定している。
「いえ、守役主にお名前でお呼びするのは筋違いです。」
「まぁここでは二人きりじゃ。」
「それはそうですが。」
「どうせ、儂の票を取りに来たのじゃろ?」
「あら。話が早くて助かります。」
幸兵衛が立ち上がり、千毬の隣に座る。
「それでいて一人ここへ来るなら、話は分かっとるよ。」
幸兵衛がいやらしい顔で千毬を見る。
「それで確約するのですか?」
「勿論じゃよ。」
幸兵衛が千毬に手を伸ばす。
ーパシ!
「ぬ?何をする!」
「まぁ私を愛でるのも結構ですが、それでは1回きりになりますよ?欲望を満たすなら、この先ずっと。お相手に困らない方が宜しいんじゃなくて?」
「な、何?」
「あなたの過去の事件は知ってます。それを咎めるつもりもないです。」
「?」
「私が学童会長になった暁には、貴方が今抱いている不満、無くして差し上げます。」
「ど、どうやって?」
「例えば守役主と生徒二人になる機会をうまく作ります。その後の細工はあなた次第ですが、私が知恵を貸せるところは貸して差し上げましょう。」
「ほ、本当か?」
「持ちつ持たれつ…でいきましょう。私のカラダはあきらめてもらいますが?」
「ふふ、なるほど、小娘と思ってバカにしておったが、意外に切れ者のようじゃの。気に入った。だが、先の話、忘れるなよ。」
「お任せください。」
千毬は一礼して部屋を出る。
「ふん、伊集院千毬か。噂以上の美少女。かつ切れ者か。だが、態度が気に入らん…飽きたら、最後、千毬もヤッちまうか。」
寺院を出ると千毬に霧隠が合流する。
「やぁ、千毬。ジジイに妙な事されなかった?」
「天井裏に居たんでしょ?いちいち聞かないで。」
「相棒に何かあったらとソワソワしちゃって。」
「気色悪いから変な想像、やめてくれる?」
千毬のツンとする態度に、霧隠は感じた。
ー やばいなぁ、惚れちゃうかも…
「うん?」
「いや、何でもない。」
「森 幸兵衛。予想通りのケダモノね。用が済んだら始末してやりたい。」
「それを飼いならす千毬はもっとケダモノってことだね。」
千毬は口を尖らせて霧隠をじっと睨むー
「うっさいな。」
次回2024/10/24(木) 18:00~「第1章・7幕 学童会長選挙開始~②」を配信予定です。