第9章・12幕 次の任務・樒編③
今回の登場人物
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・上田 樒 (うえたしきみ)
紫の七草という紫御前の側近集団の長。氷雨の女といわれる冷酷非道の美女。黒い生地に紫の花柄の着物を纏い、圧倒的雰囲気を纏う。
・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)
乙名専攻学科卒業。学童会長の座も無事終え、その後、守役として学童の育成を行う。ただし、その実、九狼党としての暗躍も健在で、光と闇を使い分け、その利益を得る。髪は二つに分けて結び、カチューシャを着けて、黒と白の配色の服装が、可愛いながらも大人の雰囲気と共に、千毬の二つの顔を暗示させる。
・紫 尤 (しゆう)
元来、祖柄樫山近郊に住んでいた女領主。大柄で薙刀の達人。気品に満ちている面もあり、紫御前と畏怖される。その実は、九狼党の幹部・❝牙❞で、実行部隊の頭目。黛村とも繋がるも、謎の多い淑女。普段は漆黒のドレスにトーク帽で表情を隠している。
・羽黒 麻一郎
謎の忍組織❝諜破浸暗❞の幹部。しかし、その実は九狼党の❝目❞である。羽黒宗助の兄。先の大戦、❝一揆❞にて行方不明となるも、現在は黛村で諜破浸暗を統括している。漆黒の忍び装束を纏い、忍頭巾から長い髪を両肩に掛ける。
ーーー
・❝頭❞
九狼党のトップで、❝頭❞と呼称される絶対者。その実体は謎だが、祖柄樫山の表と裏で、かなりの権威を持つ存在とされる。
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◎和都歴452年 3月15日 23時 黛村・女郎花 紫御前の館 客室
相島邸から樒と共に紫御前の館に到着した千毬は、鏡台に座り衣装を直していた。
ートントン
「失礼致します。❝頭❞も到着いたしました。そろそろ御準備を。」
「あ、わかったわ、行きましょう。」
樒の迎えの言葉に、千毬も直ぐ部屋を出る。
◎大広間
樒と千毬は揃って大広間に入る。
「さて、これで役者は揃ったであろう。❝牙❞よ、話を進めてくれ。」
大広間の正面にある一段上がりの奥に❝頭❞が一人座っている。
変わらず、12色の洒落た簾すだれが掛かっていて、下半身しか伺うことができない。
「畏まりました。九狼党の現在の計画は変わらずバランスを保つことである。
近況の報告では双子の横暴により、置田村は跳ね橋付近を一部失い始めている。そして置田蓮太を拉致し、母・藤香に侵略のカードとして提示したが、藤香はこれを拒否。双子は攻勢派を火竜の刻印によって威圧し、傀儡にしようとも伺える。双子の命令で青田組を直ぐに潰すように指示をされ、野崎はこれを自分の意志とばかりに決行するつもりであろう。
同時に、八俣の乙名・赤島は、双子の元へ蓮太奪回を目的に派遣されるも、これは失敗に終わるだろうと誰もが予想している中、攻勢派は次の乙名の座に執着する者ばかり。
内部分裂と青田への強襲が予想され、双子は更に勢力を伸ばすと予想されます。」
紫御前こと、❝牙❞が現状報告を終える。
「御苦労、❝牙❞よ。聞けばやはり双子の存在は大きくなったようだ。」
「はい、我らも一人、同士をやられております故、仇として打つ所存ではあります。」
❝頭❞の話に❝牙❞が反応する。
「死もまた、1つの役目。それが我が狼の掟。とはいえ、双子を野放しにも出来ぬが。」
「そこで、双子の戦力を削ぐ作戦の提案が求められ、立案致しました。」
❝目❞こと羽黒麻一郎が話をする。
「❝目❞の作戦を聞き、妾も肝を抜かれました。では、❝目❞よ、御説明を。」
「はい。これは双子を直接的には攻撃・作用しないものの、間接的に双子の影響力を下げると言うことを先に申しておきます。」
「作戦は双子を骨抜きにすることから、骨を主食とするヒゲワシに因み、髭鷲の計と命名。その内容は・・・」
双子の弱体化作戦・髭鷲の計
①青田を死守し、矛先を白石へ向ける
②蓮太の救助
③小夏抹殺の容疑を双子に掛ける
④双子にお抱え忍者を派遣・貸し出す
⑤星原家への助力・権威回復
「なるほど。双子の周囲を固める策、見事だ。③は少々個人的な策にも思えるが、これは何が狙いだ?」
❝頭❞が疑問をぶつける。
「恐れ入ります。③は敵村の密偵を手に掛ける容疑は、お互いの村に大きく悪名を及ぼします。黛紅蓮もこれには看過できないでしょう。少なくとも、誰かに双子を排除を願えればと思いを変えていくはずです。」
「長期計画というわけか。実際には殺していないのだな?」
「殺される対象者も既に優秀な逸材を選抜しました。」
「それがこの小夏…というわけだな?」
「はい。既に名前を変え、②の作戦を実行するように算段している状態です。」
「ほう、その逸材とやらも我らに取り込めるなら素晴らしい成果である。しかし、その任務、成功の確率は低いのだろう?」
「赤島猛が野崎より同じ命を受け、実行するも、既に捨て石とされるので、忍者とてそれ程高くはなりません。」
「捕らえられた場合、我らの存在を知られることはないのか?」
「その時は私自ら死を与えに行きます。」
麻一郎は顔色を変えない。
「よろしい。直ぐに作戦に掛かるのだ。」
「④も既に手の者を用意し、派遣準備も完了しています。」
「この作戦の指揮は❝目❞に任せる。❝牙❞よ、必要であれば実行部隊をお前が指揮するのだ。」
「わかりました。」
「❝耳❞よ、お前に作戦実行は委ねる。お前も策を立てた功労、むしろ俺より上手く現場を指揮できるだろう。」
「御意。では紫の七草を集め、使わせていただきます。」
ーすぐに実行に移せ。以上、解散!
大広間を出ると千毬は麻一郎を呼び止める。
「どうした?」
「いえ…お久しぶりです。」
「任務に問題があるのか?」
「いえ…」
千毬の態度に察すると麻一郎は千毬の手を取り、自分の客室へ向かった。
次回2025/8/7(木) 18:00~「第9章・13幕 次の任務・蓮太編⑤」を配信予定です。




