第1章・5幕 専攻学科
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・置田 蓮太 (おきたれんた)
14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。
・鈴谷 稲穂 (すずたにいなほ)
黛村の旧名・鈴谷村の元乙名・鈴谷与志夫の娘。両村で高い地位があり、一揆の際に蓮次が置田村に取り立てた以降、次期乙名としての地位も噂される。稲穂自体は乙名に興味はなく、蓮太の許嫁となり、蓮太に乙名になることを望んでいる。
■ ▢ ■ ▢
それから3日後、蓮太ら14歳の学童たちは専攻学科を選ぶ時期に差し掛かる。
寺院にて、各々、得意分野、将来の生業など、考えてその学科を選択する。
蓮太は否応なしに乙名心得学科へ。所謂、エリートコース。
同じく、伊集院千毬、鈴谷稲穂、三ツ谷華、羽黒宗助も同じコース。
毛呂虎太郎、星駿一郎は刑務官学科。剣術や武術を習い、農兵、官人としての将来のため。
霧隠玄、書本小夏は忍者学科。厳しい修行後、村や組織の情報網として、また暗殺者として生きていく。
まさか小夏が忍者を志望するとは蓮太は思いもよらなかった。
蓮太は一人で少し考えようと、裏庭まで来ると背後に気配を感じた。
「小夏ちゃん、忍者学科なんだね。」
稲穂は蓮太に確認するように話しかけた。
「みたいだな。」
「結構危ないんでしょ。卒業後も村や組織にコマのように使われる。自分から真っ先に選んだって聞いたけど。」
「・・・小夏は、もともと身体能力は高いから、俺が乙名になったらお抱えのくノ一にしてあげたい。」
蓮太は小夏の心境を詳細は分からなくても、それなりに察した。
「お抱え?蓮太君の専属は多分決まってるよ?」
「え?」
「現・乙名の野崎飛助。その妹、野崎妖。」
「え?何で?そこまで決められてるの?」
稲穂は蓮太の腕を掴む。
「蓮太君は私と一緒になるんだよ?小夏ちゃんのことは出来たら忘れてほしい。私もそんな蓮太君と居るのは辛いから。」
「?…それで俺の周りの人事に手をまわしたのか?」
「蓮太君は乙名になるんでしょ?私と一緒にうまくやるなら、私の気持ちも大事にしてほしい。」
「でも…小夏はどうなるんだ…誰を頼りに生きていく?」
「そういう決断もこれからは必要よ。辛ければ、私が傍にいるから。」
稲穂は蓮太を抱きしめる。
「・・・」
「こういう貧富も蓮太君がなくしていけば、小夏ちゃんも報われると思うの。」
「そんなの詭弁だ。」
「かもしれない。でも乙名になって良い世の中にしていくなら厳しい決断もきっとしていく。」
「…違う。そもそもだ。」
「え?」
「そんな決断をしないといけないこと自体、おかしいんだよ。」
「そう…なら藤香さんや守役長に聞いてみることね。私は蓮太君を乙名へと導き、傍で支え、必要なら慰める。それが私の役目だと思っている。」
稲穂のいつも以上の毅然な態度に、おそらく母も同じことを言うだろうと答えが出ていた。
「来週には学童会主の選挙があるから、今日はゆっくりい休みましょ。」
稲穂が蓮太の腕を引っ張ると蓮太は払い除けた。
「!?」
「あ、ごめん、つい…一人にしてくれ。直ぐ戻る。」
「じゃ、先に行ってるね。」
稲穂はそういうと先に裏庭を出ていった。
しばらく時間が過ぎると辺りも暗くなり、人影が裏庭へ現れた。
「小夏?来てくれた?」
蓮太は内緒で待ち合わせした小夏を迎い出た。
「残念でした。」
「あ、霧隠!?」
「小夏ちゃんなら会いたくないからって僕に代わりに行けってさ。」
霧隠 玄。蓮太らの同期。飄々とした性格で、暗殺が得意の忍者志望。千毬とは付かず離れずの仲。妙に多面性を持ち合わせる不気味な性格。
「小夏…」
「よくわからないけど、蓮太が本気なら、小夏ちゃんと一緒になれば?邪魔な奴は僕が殺してあげようか?」
「いや、そんな簡単な話じゃない。」
「そっか。じゃ、小夏ちゃん、僕が貰ってもいい?」
「それは…」
「あーあ。その分じゃ、乙名になって、女の搦め手ですぐこの村も落とされちゃうな。」
霧隠は蓮太を茶化す。
「霧隠。」
「小夏に済まないと伝えてくれ。」
霧隠の表情が変わる。
「自分で言えば?」
「会ってくれないし。」
「違うね。今の蓮太には会う価値もないのさ。もっと蓮太も悪くなり、自分のワガママを通すべきなんだ。」
「そんな…」
「それが出来ないのは蓮太の器量と度胸がないだけ。綺麗ごとを言ってるなら、そのまま大人しくしていればいいじゃん。」
「・・・」
「まぁ蓮太の人生だから。」
その時、蓮太は大きな動きはしないものの、何らかのチャンスがくれば、それを逃すまいと確信した。
次回2024/10/20(日) 18:00~「第1章・6幕 学童会長選挙開始~①」を配信予定です。