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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第1章・学童会長選挙
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第1章・4幕 許嫁

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 蓮太 (おきたれんた)

  14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。


・置田 籐香 (おきたふじか)

   蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。


・美咲 園 (みさきその)

   若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。


・毛呂 虎太郎 (げろとらたろう)

  14歳。本置田地区でも珍しい、貧民の生まれ。蓮太を兄のように慕い、両親の人柄もあり、道徳も高い。腕力は弱いものの、立場が弱い人を放っておけない。


・鈴谷 稲穂 (すずたにいなほ)

  黛村の旧名・鈴谷村の元乙名・鈴谷与志夫の娘。両村で高い地位があり、一揆の際に蓮次が置田村に取り立てた以降、次期乙名としての地位も噂される。稲穂自体は乙名に興味はなく、蓮太の許嫁となり、蓮太に乙名になることを望んでいる。


書本 小夏 (かきもとこなつ)

  彼女も生まれは現・黛村。一揆の際に父とは生き別れ、母と暮らす。事情を知った蓮太は時々家族で食事をする仲。身体能力が高く、女性らしくないと本人は気にしている。


■ ▢ ■ ▢

稲穂は目線を蓮太に合わせる。

「まさか、稲穂さんは蓮太のことを?」

「え…まぁ…でもダメですよね?」

稲穂は申し訳なさそうに言う。

「いや、私としてはダメではなく、寧ろ好都合だ。」

「え?」

「政略結婚のような意味となるが、鈴谷の娘が蓮太と一緒になれば、乙名として更に不動のものとなるからな。」

「蓮太君のお母様としては、私と蓮太君の関係は御許し頂けるということですか?」

「無論、そちらの御両親と、蓮太の気持ちもあるだろうが。」

「蓮太君にはそれとなくお誘いしてみます。」

「そうだな、私からも稲穂さんとの仲を強く奨めておく。」

「ありがとうございます。」

祖柄樫山の女性は16歳までに許嫁になる、この掟がある以上、娘たちは所謂、優良物件となる男を必死で捕まえるのだが、男もなるべく条件の良い女性を選ぶのが通例だった。

そういう意味では鈴谷家の娘と、置田家の娘とでは立場も同じに近く、藤香も稲穂も、蓮太との仲を強く望んでいたのだった。

そういう意味で、藤香からお墨付きを得た稲穂は、胸を撫で下ろす気持ちだった。


一方、皆は食卓を囲んで、同じような話をしていた。

「虎太郎は、将来の許嫁に当てはあるのか?」

蓮太が話を振ると、虎太郎は恥ずかしがって答える。

「そ、そんな…僕なんか選べる立場ではないし、良い人が出来るのか心配だよ。」

「虎太郎は優しいから、良い人は見つかるよ。」

「そ、そうかな…」

虎太郎は照れながらモジモジ答える。

「で、蓮太は?」

今度は小夏が蓮太に振る。

「そうだな、支えてくれる、強いけど母性本能高い人が良いよ。」

「はぁ~?すごい注文多いよね、何それ。」

小夏は呆れ顔で蓮太に穿つ。

「え?そうかな、はっきりしていいかなって…」

「いやいや、単なるワガママにしか聞こえない、超ムリ!」

「そ、そっか…ごめんよ、そういうつもりじゃ…」

「小夏、蓮太君に失礼でしょ、ごめんなさいね。」

小夏の母が代わりに謝る。

「いや、お母さん今の聞いてた?蓮太の求める女性なんかいないし。」

そういうと小夏は席を立って外へ出てしまった。

蓮太はバツが悪そうにしている。

「こういう問題の為にも、やはり早急に許嫁という古い掟を撤廃しないとね。蓮太君も乙名になったら、活動協力をお願いしたいわ。」

美咲が茶を飲みながら独り言のように蓮太に言う。

「は、はい。」

蓮太も席を立ち、外へ出ると、小夏が木の上に座っていた。

蓮太も小夏の場所まで登り、隣に座る。

「ごめんよ、小夏。別にワガママとかで…」

「もういいよ、私もなんかムキになっちゃて。関係ないのにね。」

小夏はぼんやりしながら呟く。

「いや、小夏がこの村に来てからずっと一緒だけど、俺は小夏のことが好きだよ。」

「え?」


「いつも傍で支えてくれて、強いけど母性本能あると思うんだ、小夏は。」


「…いじゃん。」

「ん?」

「…んなわけないじゃん、一揆以降、貧民以下で、お母さんと面倒見てくれてるから、施しの意味ででしょ?あなたは乙名になる器。私みたいなのと一緒になったらダメだよ。」

「それは俺が決めることだろ。」

「やめて。期待しちゃうから。」

「期待って…小夏もそう思うなら、断る理由もないんじゃないか?」

「私は貧民なの。貰い手なんているはずないでしょ。成人したら、村の男たちの慰めもの。」

「やめろ、小夏。」

「ホントのことでしょ!何の土地も財産もない私が母とどう生きていけるというの?」

小夏の涙に蓮太は怒りが込み上げる。世界の不平等さ。自分の無力さに。

「…小夏がそんな形で生きていくなら、俺も・・・」

「蓮太君、小夏ちゃん?何話してるの?」

稲穂の声が蓮太の話を遮る。

「ほ、稲穂さん?」

稲穂も木を上ってくる。

「私も混ぜてよ~。よいしょ。」

「いや、別にこれと言って話は…」

「許嫁の話じゃないの?」

「え?なんだ聞いてたの?」

「やっぱり。虎太郎君がそんな話しながら蓮太君と小夏ちゃんが外に行ったって言うから。」

稲穂は蓮太に身体を寄せる。

「私、乙名になる蓮太君の傍でしっかり支えるけどな。」

「い、いや、稲穂さん、今直ぐに決めるワケではないから。」

小夏は鼻で笑うと木から飛び降りた。

「良い許嫁が見つかって良かったじゃん。」

小夏は振り返らずに手を小さく振るとそのまま屋敷に入っていった。

次回2024/10/20(日) 18:00~「第1章・5幕 専攻学科」を配信予定です。

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― 新着の感想 ―
どんどんと面白くなってきています。 タイトルがどんな感じに回収されるかも楽しみです。
14歳なのに色々考えていて、現代の子たちと比べるととても大人に感じます。 これから三角関係がどうなって行くのか楽しみです。
だんだん関係性がわかってきて面白くなって来ましたね。 三角関係がどうなるのか楽しみです。
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