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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
序章・祖柄樫山の双村
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序章・1幕 置田村

⦅注⦆サイドストーリー❝いなかみち❞はこの話の前日譚となるため、読了されていることを強くお勧めします。

中世の日本。都から離れた祖柄樫山(そえがしやま)の山麓に村があった。

自然に溢れ、川のせせらぎも聞こえる住みやすい村。

まだ開拓されて日が浅いこの村は、五人の乙名(おとな)によって開拓された。

乙名とは、この時代では村を統括する長で、村にもよるが、数人で取り仕切ることも珍しくなかった。


祖柄樫山の中央を流れる谷川は東西を分け、吊り橋一つで行き来する危険な場所。

そこから東には黛村(まゆずみむら)

西には置田村(おきたむら)がある。


黛村は本来、鈴谷村(すずたにむら)といい、無法者や落ち武者が跋扈(ばっこ)する治安の悪い村だった。そこへ都から自由を求めて流れてきた置田 蓮次(おきたれんじ)とその仲間が、その一帯を治め、元々の鈴谷村の乙名を正式に乙名として君臨させるまでに尽力する。

ーが、仲間の黛 紅蓮(まゆずみぐれん)の裏切りにより、鈴谷村は一気に黛勢の手に渡り、置田一派は命からがら谷川を越えた平野にたどり着く。そこにはいくつか集落があり、何とか村として統一し、置田村が創立された。

この時、蓮次の妻、置田 藤香(おきたふじか)から置田 蓮太(おきたれんた)が誕生する。

置田蓮次は恵まれない村民に施しを忘れず、時に黛村からの侵攻を撃退することから、徐々に祖柄樫山の英雄として称えられる。

そして4年後、黛村は紅蓮自ら率いる大軍が一揆と呼ばれる村同士の戦争を開始。大勢の民がなくなり、置田村勢も何とか黛村の大軍を追い返すも、多数の被害を受ける。

中でも置田蓮次の死は多くの悲しみを集めた。


両村は復興に力を注ぎ、しばらくは平和の一途を辿っていた。しかし、以降、それぞれの村を別の視点で狂わせていくとは誰にも予想できなかった。


置田村は、4人の乙名が中心となり、人を殺してはいけないなどの掟を決め、それに則って生活してきた。しかし、この10年に満たない歳月は、人を腐らせるには十分な時間であり、乙名に取り入ろうとする次ぐ権力者、沙汰人(さたにん)。それに次ぐ刀禰(とね)、官人など、その権力と財力は次第に弱者救済の思想だった蓮次の意思を忘れ、自らの欲求を満たす力に変えるものが半数となっていった。

弱いものは虐げられ、女子供は食い物にされ、何とか蓮次の妻、藤香はそのケダモノたちの手から民衆を守ってきたが。それにも限界を感じていた。


貧民街としても知られるここ置田村の東、八俣(やまた)

黛村とも近いため、富裕層は決して住み着かない。

そこで税収を担当する沙汰人・相島 権作(そうじまごんさく)。貧民を官人として取り立てて、自分の凌辱・殺人罪を着せ、知らんふりを繰り返す。

この年で5件起き、更に新たに源八と栗という夫婦が犠牲になる事件を目の当たりにした藤香は、何とかまず、この東の地、八俣の治安回復に尽力する。

相島が切り捨てただろう、貧民あがりの官人・桑井 政介(くわいせいすけ)。投獄するも取り調べは八俣の刀禰・刑務長、大須賀 栃春(おおすがとちはる)が行うこととなった。

「納得できんな。」

「仕方ありません、あなた方、乙名の決めた掟に従ったまでです。」

「私はこんな掟は反対しているのだ。」

藤香は機嫌悪そうに官人に愚痴をこぼす。


この村の掟は、乙名がそれぞれ決めたい掟をだし、5人で可決すれば即掟として採用される。

採用された掟は1年で見直しが出来るが、その際も過半数の同意が必要で、現状、蓮次が亡くなって以降、現状は乙名が4人の為、この男尊女卑・武力優先・武神崇拝のタカ派と藤香らは拮抗したバランスから、自分の村作りにすら思うように出来なくなっていた。


「どうせ条件付き無罪になるだろう。」

「無罪となってもその後の行方は掴めない者が殆どです。」

「少し相島自身に聞いた方がいいかもな。」

藤香がしびれを切らすように馬車に乗り込む。

「どうせ何も話さないですよ。」

田中は呆れて話す。

「やはり現行犯しかないか。」

イラつく顔が馬車の窓ガラスに反射すると、藤香は疲れた顔で目をそらした。

「やはりもう家へ帰ろう、蓮太も待っているだろう。田中、行き先を変えてくれ。」

「それがいいですよ、藤香さん、働き過ぎですよ。」

馬車が静かに行き先を変えて、月夜の闇に消えていった。

次回2024/10/6(日) 18:00~「序章・2幕 蓮太」を配信予定です。

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― 新着の感想 ―
全体的に文章力も高くて惹き込まれる雰囲気があり、この後も楽しみに読みたいと思います。 少し気になった箇所: 自然に溢れ、川の囀りも聞こえる住みやすい村。 と、あった所が気になりました。 「川のせ…
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