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第五章 この謎 解くべからず

昼になると侍所の役人や僧侶が大勢押し寄せて来て事件の調査やら葬儀の準備やらで屋敷は騒がしくなった。義満の遺体は棺に入れられ、広間に運ばれた。念仏の合唱が屋敷中に響き渡る。喧騒を避けるように一休は和尚、坂士仏、義持を水飴殿に呼び出した。

「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。義満殺害の犯人が分かりました」

和尚、坂、義持は互いを見つめ合った。

「まず密室の件ですが、これは簡単です。あっ和尚、今は水飴舐めるのやめてください。女中達はあなた達が部屋に入るのを見たとは言いましたが出るのを見たとは言ってませんでしたね。恐らく犯人は犯行の後、義満の部屋に閂を掛けて隠し通路から脱出し、何喰わぬ顔で今日この場に姿を表したのです」

「何故わざわざそんなことをする必要があるのじゃ」

坂が問う。尤もな疑問である。

「実は私も昨晩水飴殿を訪れていたのです。先に部屋を出ていた和尚を探すためでした。そしてあの鴬張りの廊下を渡っているまさにその最中、水飴殿の中には犯人がいたのです。しかし犯人はその厚い壁のせいで直前まで誰かが近づいてくるのに気づかなかった。私が扉の前に立った時にやっと閂を掛ける音が聞こえたくらいですからね。犯人は咄嗟に扉を施錠し、隠し通路から逃げ出したのでしょう」

「それで犯人は結局誰なのだ」

義持は早く答えが知りたくて仕方がないようだ。

「犯行現場で見つけたものがあります。それは粉々に破られた紙片です。半分程しか残ってませんでしたが、復元してみると一部の文言がはっきりと読み取れました」

一休は六枚ほどの紙片を取り出すと床に並べて見せた。そこに現れる「日本國王」の文字。

「恐らくこれは明の先代皇帝、建文帝から送られた国書の一部でしょう。宮中ではすこぶる悪名高い文書です。何せ朝廷を差し置いて義満が日本の国王であると明に認めさせたわけですから。その結果義満は日明貿易で潤ったわけですが」

一休は宮中事情に詳しかった。流石は帝のご落胤である。

「これを破るということは犯人は朝廷を支持する勢力の者と考えられます」

義持は何かに気がついたように目を見開いた。

「とすると黒幕は」

「ええ。恐らく我が父、帝でしょう」

水飴殿が響めき立った。これは単なる殺人ではない、国家を揺るがす大事件である。次に坂士仏に注目が集まった。

「坂さん、あなたは義満の侍医であると共に帝の侍医でもありますね。あなたは恐らく帝から義満暗殺の命を受けていたのではないでしょうか」

「憶測の域を越えん。儂がやったという証拠がどこにある?」

「通常、犯人というのは自分がやったという証拠を残さないように行動するものです。ただし例外があります。それは暗殺の手柄を確実に自分のものにしたいときです。あなたは国書を粉々に破った後に気がついたのでしょう、これを持ち帰って証拠として役立てたほうがいいと。しかし全てを拾い集める前に私の足音を聞いて逃げ出した。国書の残りの半分、帝に見せるためのその半分、もしかして坂さんがお持ちなのでは?」

「今すぐ荷物を調べさせてもらおう」

義持が詰め寄る。

「その必要はない。ここに持っておるでな」

坂士仏は懐から細切れの紙片を取り出した。

「儂の負けじゃ一休、何もかもそなたの言う通りじゃ。義満は皇位簒奪を企んでおった。国王の称号を得ただけではない。溺愛する息子義嗣(よしつぐ)の元服の儀を親王に見立てて行うなど朝廷を軽視する態度を隠そうともしなかった。このまま放っておけばむしろ帝の方が消されかねん。そうなる前に義満に死んでもらう必要があったのじゃ。じゃが――」

次の言葉を待つことなく坂の首は宙を舞っていた。

「父上の仇!」

義持の刀が鮮血を纏って光る。

「義持様、何をやってるんですか。まだ殺すのは早いです!」

「しかしこいつは今自白したではないか。これ以上何を待つ必要がある?」

「まだまだ聞くことがあったじゃないですか。どうやって殺したのか、隠し通路がどこにあるのか、そもそも何故隠し通路の場所を知っているのかとか」

「婆娑羅が消えたことも忘れてはいかんぞ」

「あ、しまった。だがまあ良いではないか。そんなこと知ったところで何にもなるまい」

「それもそうですね」

一休は諦めが早かった。

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