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第三章 この夜 眠るべからず

水飴殿を出ると誰かが廊下の向こうからこちらに歩いてくる。初めて見る顔であったがその風貌、威厳、そしてここが義満の屋敷ということから考えるに――。

「おっ、お前は帝のご落胤の一休とかいう小僧か。噂は聞いている。なんでも頓智で世間を騒がしているらしいな」

「あなたは将軍、足利義持様?」

「いかにも。そちらは父上の友人、像外和尚だな」

「左様でございます、将軍様」

義持は父親である義満に話があって京の花の御所からこの山奥の屋敷にまで来たようだった。

「また父上と水飴談義か、呑気なものだな」

義持はそう言うとそのまま水飴殿に入っていった。


一休と和尚は屋敷の従者に案内され客人用の部屋に通された。ここで出される豪華な食事が一休の密かな楽しみであった。山荘ということもあり、夕食は山菜、きのこ、猪肉、そしてこの時代に栽培が盛んになった蜜柑など山の幸に恵まれている。貴族の特権である白米も一緒だ。普段精進料理ばかり食べている一休にとっては垂涎ものである。

「一休よ、儂は食欲が無いでな。儂の分も食うがよい」

「水飴の舐め過ぎですよ和尚様。有り難く頂きます」

こうなる事を見越して一休は朝から何も食べていない。一休は計算高かった。


夜が更け一休は床に就いた。その直前、和尚は

「一休よ、儂は厠へ行ってくる」

と言うと一休を残し部屋を去っていた。水飴を運んだ重労働の後にも関わらず、その夜は不思議と寝つきが悪かった。それにしても和尚の帰りが遅い。

(どこかで倒れているのか)

一休は外の空気を浴びたくなったこともあって和尚を探しに客間を出た。厠へ行ってみても和尚には出会わなかった。

(もしやまた義満と話し込んでいるのではあるまいな)

一休は鶯張りの廊下をギイギイと軋ませ水飴殿に向かった。和尚に呼びかけようと扉の前に立ったその時、扉の向こうから閂を掛けるような音が聞こえた。

(義満、暗殺を恐れているとは言っていたがまさかこれほどとは)

「義満様、一休です。そちらに和尚様はいらっしゃいますか」

呼びかけても返事はなかった。仕方なく客間に戻ると先に和尚が帰っていた。

「和尚様、一体何処で何をしていたのですか」

「厠へ行った後、義満様と話しておった。その後に少し散歩もな」

どうやら何処かで行き違いになっていたようだ。一休は水飴殿の様子に違和感を持ちながらも和尚にそれを話すこともなく、今度こそ眠りについた。

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