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ねこみみ  作者: 雪村悠佳
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2 なんでこんなことに

 なんでこんなことに。


 結局私は、そのまま制服を着て高校へ向かっていた。


 仮病を使おうか、とも一瞬考えたが、高校入学以来無欠席を保っている私、結局は仮病どころか朝食もしっかりと食べていた。自分に感心する。中学生の頃は「馬鹿は風邪引かない」という伝説を立証している、と評判だった私。

 でも思い出しても非常に納得がいかない。私は馬鹿じゃない。ちょっとばかりテストの時にうっかりさんだっただけだ。


 ……なお、無遅刻ではない。


 そう言うわけで私はネコミミ(暫定)を付けたまま自転車を漕いでいる。

 ヘルメットを被れという校則を普段はうっとうしく思っていたが、今日ばかりはその校則をありがたく思う。ねこみみが付いていようが付いていなかろうが、それはヘルメットの下だ。誰にも見えやしない。

 ヘルメットを被ったら音が聞こえなくなるのではないか、と心配したけど、穴あきヘルメットをかぶっていたおかげか特に問題はなさそうだった。


 最初は内心びくびくしていたものの、取り敢えず人の目に付かないと分かったらそれなりに開き直っていつも通りに自転車を漕ぐ。

 高校までは緩やかな登り坂になってるけど、私はいつも思いっきりペダルを踏みしめて立ち漕ぎで上っていった。


 自転車置き場に止めたところで、校舎の時計を見る。


 ……いつもよりちょっと遅れてるかも。まあ今日は全校朝礼とかないから、急がなくても一応大丈夫だけど。


 ごくり、とつばを飲み込む。


 ヘルメットを脱いで、一つ息を吐いた。


 自分の頭の上に手をやる。

 残念ながら、ネコミミ(かも?)は相変わらずふさふさとした感触を保っている。ついでに風が当たって少し揺れている。

 

 えーいやけくそ。

 ここまで来ると妙に腹がすわってくるものだと自分で感心する。


 私は諦めて、堂々と下足室へと入っていった。


 やっぱり誰も私に反応する人は居なかった。


「やっほー、なおなおおはよー」


 後ろからかかる元気な声。


「ゆっこは元気だなぁ」


 そう言いながら振り返る。ポニーテールに大きな丸っこい眼鏡が、私の目に映る。ゆっここと水谷祐子。快活、という言葉がちょうど当てはまる感じの、私の仲良し。というよりちょっとお調子者。


「元気だけが取り柄だもん」


 自分で言うか。

 何も指摘されないことで答えは予測できるものの、取り敢えず聞いてみる。


「私の頭、どう?」


 祐子は少し考えてから、急に声のトーンを落として言った。


「……ゴメン、あまり良くは無いと思う」


 違うっ。


「大丈夫、まだ受験まで二年もあるし一生懸命勉強すればいいんじゃない?」


 思わず頭を抱えると、ネコミミのふにゃりとした感覚が手のひらに伝わった。


「うん。ありがとう……」


 もはや訂正する気力もない。


 取り敢えず、真っ先に突っ込みが入りそうなところに何も触れられないってことは、見えてないんだろう。

 ちょうどその時、チャイムが鳴り響いた。


「もう予鈴が鳴ってるよ、急がないと」


 上履きに履き替える祐子。


 今は細々と考えても仕方がない。取り敢えず、誰も何も気づかないのなら、普通に生活しても問題はないのだろう。

 私も取り敢えず靴を脱いで、自分の下駄箱を開けた。


 その時、小走りで下駄箱に入って来る音がして、私は何気なくその方を見た。


 同じクラスの下駄箱を開けようとしている男の子は、遅刻しそうになって急いで出社したんだろう。少し息が切れていて、だけど何かを恐れているかのように、挙動不審にきょろきょろとしている。


「あー!」


 私は思わず叫び声を上げていた。

 その声に私の方を見た彼は、同じように声を上げた。


「あっ」


 その彼……藤阪和弥の頭の上には、焦げ茶色の柔らかそうな……ねこみみが生えていた。


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