第1話 盾の国ディエフ
はじめまして、カッツォと申します。
書き物をするのは初めてですので至らぬ点も多くあるかと思います。ご指摘いただけたら随時改善します。
これからよろしくお願いいたします。
「シールさん!また魔物の群れが!」
宿屋に駆け込んできた青年が叫ぶ。
「またですか?しつこいですね...」
シールと呼ばれた少女が眠そうにベッドから起き上がる。
「すみません、シールさん...いつも頼ってばかりで。でも俺たちでは...」
「いいのよ。私の盾で、だれもケガなんかさせないわ!」
シールは、その小柄な身の丈に合わない巨大な盾を、ひょいと持ち上げながら言う。
「いつ見てもすごい盾だ...よくそんなもの軽々と持てますよね」
見慣れたとはいえ圧巻の光景に驚きを隠せない青年を見て、シールは少し得意げな顔をする。
シールは転生者だった。
この盾の国ディエフは、いざこざの絶えないこの時代において、絶大な守りの力をもって他国からの侵攻を抑え込んでいた。
その中でもシールの持つ盾は特別に巨大で、敵のあらゆる攻撃を無傷で防ぎ、周りの兵士の鎧、盾を強化する魔法まで掛かっていた。
地面に置くとめり込むほどの重さであったが、シールだけは自在に持ち上げることができた。
「で、状況は... ...聞くまでもなさそうね」
遠くから地響きと、ギャアギャアと叫ぶ魔物たちの声が聞こえてくる。
「はい。いつも通り、国境の崖からまっすぐこちらに向かってきています」
「まったく、いつになったら学習するのかしら...」
シールが現場に到着すると、兵士たちが既に整列していた。
ただ、断続的に襲ってくる魔物の群れに疲れているのか、あるいは絶対に守りが突破されることはないという安心感からか、眠そうな顔を隠せない者も多くいた。
その向こうからは、魔物の向かってくる声と砂煙が見えた。
「構え、用意!」
シールが最前列にたどり着くのを見届けて隊長が叫び、兵士たちがシールの後ろで盾を構え、道を塞いだ。
シールが盾を持ち、地面に突き刺すと、防御強化の魔法の光が辺りを包む。
魔物たちはそこにまっすぐ突撃してくるが、盾の壁に突き当たると弾かれて、地面を転げまわる。
「痛そう...」
盾の向こう側を透視し、突撃のダメージが顔面に反射されてのたうち回るゴブリンたちをながらシールが呟く。
「いい加減、やめればいいのに」
次々と突撃してきては跳ね返り、負傷者の山を作り出す魔物たち。
兵士たちは後ろで勝利を確信した歓声を上げているが、ケガや痛みは見るのも苦手なシールの表情は曇っていた。
とはいえ、後ろには自分が世話になってきた、好きな人たちが居る。守りを解くわけにはいかない。シールの決意に揺るぎはなかった。
「ふあぁ...。しっかし、いつまでこんなのが続くんだろうなー」
状況が変わらないまま30分ほど経ったころ、後ろの兵士があくびしながら呟く。
「おい、まだ戦闘中だぞ。油断するなよ」
「だってよぉ。人間相手だったら停戦交渉も出来るし、現に最近はシールさんのおかげもあって、他の国から攻めてくることもなくなっただろ?
でも、こいつらは...」
顎で魔物の山を指しながら兵士が愚痴る。
「しっ!隊長が見てるぞ」
「...」
隊長のひとにらみで兵士たちは無言に戻る。
しかし、無理もない。はじめこそ無限の如く湧いてくる魔物の群れに緊張感が絶えなかったが、こちらの損害はゼロで、消耗するのは向こうだけ。現在はただの作業と化していた。
と、その時...
「全員止まれ」
鋭い声が響き渡り、魔物たちはその場で突撃を中止し、立ち止まった。
――魔物たちが人間の言葉に反応した?誰の声だ?
兵士たちは困惑し、辺りをきょろきょろと見まわす。
「お、おい!町を見ろ!」
兵士の一人が後ろを指差し、混乱と恐怖の入り混じった声で叫ぶ。
まさか、そんな...その場の全員が後ろを振り返る。
そこには町の人たちが一列に並べられ、その後ろに魔物たちがいた。
空を飛ぶ魔物たちだ。今まで現れなかったのに。目の前の突撃隊を囮に後ろを取られた。
一瞬で様々な考えが頭を巡ったが、魔物の鋭い爪が町の人たちの首にかかっているのを見て、兵士たちは思わず剣を抜いて駆け出していた。
「動くな!」
兵士たちの足元に無数の小石が叩きつけられると同時に、先ほどの冷たい声が響く。
「それ以上近づくとこやつらの命は無いぞ」
「あそこだ!」
兵士の一人が崖の上を指さす。シールが急いで目で追うと、老人が一人と、護衛のように左右に魔物が立っていた。両手に小石を構えている。
真ん中の老人が、冷静な顔を崩さないまま告げる。
「わしは魔物と意思疎通ができる。全員その場を動かなければ、誰も傷つくことはない」
兵士たちがざわつく。
「あなたは誰!」
とシールが叫ぶ。誰も傷つけたくない。その想いから、状況を何とか打開したいと絞り出した言葉だった。
「わしは魔王軍参謀。君と同じ転生者じゃよ」




