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こどもに学ぶおとなでいい


夢なら覚めて欲しい。そっと目を開くが、目の前には当然ながら居る。

もう一度、目を閉じてみよう。なんど繰り返しても、やっぱり居る。

仁王立ちのおかあさんと、隣でおれを見上げる男の子が・・・。


あのさぁ~うちのガキがなんかしたの?

あんたが、いじめるって泣いてんだけどさぁ。と、少々怒り口調で話しかけて来た。

えっ!

確か、おれとあんたは、初対面だよなぁ。の、第一印象だ。

もう少し行儀のいい話し方が出来ないもんかねぇ。と言いたいが、Tシャツのサイズが、更におかあさんを怖くしてるのか?なぜか、沈黙してしまう。

だって、腹がほとんど丸出しで、Tシャツなのに袖が消えちゃって、タンクトップに見えるのである。


お前も笑ってんじゃないよ。と、こどもの頭を叩くおかあさん。

ざまーみろ!と、内心ウケるおれ。

それでも、この子のおかあさんなんだから、状況説明だけはするべきかと思い、経緯を話した。


消毒液の前での出来事から始まり、地面に寝転んでの平泳ぎ、お菓子コーナーでのディフェンスにより

女の子を泣かせていた事実。それだから、注意をしたんだと伝えた。

注意と言っても、買い物かごで・・・とも正直に伝えたが特に反応はない。

あれっ?とは思った。

おまけに、注意された後に購入前のお菓子を破って食べだしたことも丁寧に説明した。


おかあさんからは当然、謝罪の一言があるのだろうと思ったが、

うちのガキはそんなことしねえよ。と、言い切った。

そんなことをしてたんだよ!

あなたの横にいる、その子はうちの子ではないのですか?

その子の手についたお菓子のカスはまぼろしなのかな?などなど、言いたかったけど我慢する。


ただ、もう一度言いますが、あなたとは初対面なんだよ。言葉使いがおかしくないですか?である。

初対面といっても、このふたりは前にコンビニで見掛けてはいるのだが・・・。

本当に口が悪い、おかあさんと男の子だなぁと思った。

しまいには、うちの子がやったという証拠はあるの?とまで言ってきた。


あなたは子供ですか?さすがのおれも、呆れて言葉に出してしまう。

子供じゃないよ!42歳が子供かい?という返しが来たのだが、そういう意味じゃないのだけど。


とりあえず、期待はしないが、おれは男の子に聞いてみた。

あのお菓子おいしかったかい?

男の子は、あまりうまくない。と、即答する。

おれは、おかあさんの顔を見て(証拠です)と、言ってやった。

こどもは正直でいい。


おかあさんは、開き直り「買えばいいでしょ」。多少だけど動揺が見えたけど、次の一言が凄い。

今日は忙しくて、朝めしなかったからなぁ。腹が減ったんだわ。

後で買うから、それ食べてろ!と、言葉にしたのには、怒りをおぼえた。


ダメだよ買わないと。

男の子は言うのだが、どのくちがそれを言うんだよ!と、言いかける。

この時点で、何が何だかわからない感覚におちいっていると、突然お爺ちゃんが話しかけて来た。


悪いねぇ。歯のあれ?どこにあるだい。

自分の口の中を指差して、あれ、あれと言う。

どうやら、おれを店員と間違えているのは理解できたが、(あれ)では、わからないので、

なにを探してんの?と、聞き返した瞬間(入れ歯だわ)と、Tシャツおかあさんが割り込んだ。

入れ歯なんてスーパーに売ってないわ!男の子がツッコミをいれ、ギャーギャ騒ぎ出した。


お爺ちゃんに入れ歯を洗うやつだよね。

と、言ってみたが、耳が遠いようで(婆さんに臭せぇと怒られたからはずしてきたわ)

ぎゃはははと、笑い出した。

あまりに騒がしい事に気が付いたスタッフの男性が飛んできてくれた。

スタッフは、男の子が持つ開封済のお菓子を見るなり、困った表情を浮かべている。


そりゃそうだろう。おれはスタッフから、おかあさんに指導が入ることを想定して笑った。

朝めし食ってないから、腹が減ってたんだよ。と言い訳するぞ!とも思った。


ところがスタッフは、おれと向き合い

おとうさん。すみませんが、このお菓子をレジで会計してください。と言ってきた。

おれは、一瞬で人生の終わりを感じた。

時間が止まるというのはこういう事か、周りは見えない!音も消え、現実がわからない状態になる。


おれはこの子の、『おかあさん』じゃない!。

既に、自分が何を言い出しているのかも、はっきりしないほどだ。

スタッフは冷静に、『おとうさん』ですよね。と、聞き返す。


『おとうさん』でもないんだよ。おれも、おかしな言葉しか出てこない。

お爺ちゃんは『お婆ちゃんだよ』と笑うし、この場はパニックエリアとなった。


なんで、スーパーに来たんだおれは。

頭を抱えてしまうほど、この場には居たくない気持ちになる。


別の女性スタッフも飛んできて、お爺ちゃんと話している。

そのスタッフもおれに、あちらの棚にありますよ。と、笑顔で指差す。

おれは、(この爺さんの息子でもなければ、連れでもない)。

ここのスタッフは、アホか!

Tシャツおかあさんとおれが夫婦で、男の子は息子でお爺ちゃんは、おれの親にでも見ているのだろう。


冗談じゃねえ。

ここは、大きな声がでた。


スタッフには、最初の消毒液で遊んでいた、男の子の経緯から説明したが、説明だけで疲れてしまう。


そうこうしていると、今度はTシャツおかあさんと、消毒液で順番待ちしていたお婆ちゃんが揉めているのが目に入った。


あなたのこどもなの?どういう教育しているの。

と、詰め寄っているではないか。

優しく見えた穏やかなお婆ちゃんも、さっきのお婆ちゃんバトルで、気が立っているのであろう。

レジ袋を手にしての登場だ。


おばさんにうちのが、何にか迷惑掛けたわけ?

相変わらずの、くちの悪さ継続に言葉もない。


この子さっき、ふりかけの袋を破って舐めてたわよ。

お婆ちゃんは言う。


マジでか?と、フラつくようなかっこうで「またかよ。このガキ!」

Tシャツおかあさんが、思いのほか驚きの反応をしたから、爆笑しかけた。


またかよって、前にも同じことやってるの? お婆ちゃんが驚く。

おれも驚いたが、確かにふりかけを舐めると(うまい)のは知っていただけに、

何味を舐めたのかは気になった。

スタッフも慌てて、開封されたふりかけを持ってきたが(おとなのふりかけ)である。

こどもが、おとのなのふりかけ。

少し楽しく感じる状況に思えるほど、おれの(思考能力)が消えだしているのも自分でわかる。


とりあえず、会計をお願いします。と、スタッフがいうので、

おれは、無関係なんですよ。そちらのおかあさんに言ってください。

と、こたえた。

まさか、ここまでの騒ぎになるとは思わず、男の子もあっちこっちで品物を開封していた。

Tシャツおかあさんは、お婆ちゃんの注意だけは、きちんと聞いている。


ごめん、ごめん。ちゃんと言い聞かせるから。

まだ、買う物あるから後でいいですか。と、スタッフに言ってもいた。

スタッフは、開封された品物を持って、レジに預けるので後で支払うよう伝えていた。

お婆ちゃんも穏やかな顔に戻り、子育ては大変だからね。

と、言いながら男の子にも、おかあさんに苦労かけちゃだめだよ。と、頭をなでている。


男の子は「うん」と返事をしたが、おれを指差し、さっき『このひと』に、かごで叩かれた。

と言い出したからやっかいである。


だれが『このひと』だ!ここは普通にそう思ったが、この子からしたら『このひと』である。


お婆ちゃんもおれに(親がこどもを叩くのはいけないよ)。

いけないことしたら、おしりをペンしなさい。

と、教えてくれたけど、おれ!親じゃないし・・・。

いつの間にか親にされている。


お婆ちゃんには、さっき消毒液のところで、一緒に待ってたものであると説明をした。

ああ~。さっきのね。

年をとると、人の顔も覚えてないんだよ。

昨日の事も忘れちゃって、困ったもんだね。と笑う。


ほんの15分前ですよ。とは言えない。


気が付けば、お爺ちゃんが向こうから歩いてくる。

右手に杖。左手に杖である。

どうやら、自分の杖だと思って、売り物の杖を持って来たらしい。

スーパーに、杖あるんだ。びっくりしたが、そこではない。

お爺ちゃんは、入れ歯洗浄剤を買いに来たはずだった。


スタッフも、お爺ちゃんに駆け寄り(これ買うの?)と、聞いている。

お爺ちゃんは、耳が遠いからスタッフに耳をかたむける。

(婆さんに臭せぇと怒られたからはずしてきたわ)

と、また笑っている。


お爺ちゃん。こっちだよと、スタッフの案内で売場に去っていった。


お婆ちゃんも、気が済んだのかおれに手を振って帰っていく。

Tシャツおかあさんは、他に買う物を探しに行ったが、

男の子だけは、オレの目の前から離れない。

さっきはごめんな。

おれは買い物かごをぶつけたことに謝罪した。

でもね。品物を買う前に開けたり食べたりしちゃいけないし、周りに迷惑かけちゃだめだよ。

と、言い聞かせて注意もした。

品物も袋を破れば、ばい菌が入り、食べた人は病院に行かなければならなくなることも説明した。


そして「嘘は絶対にいけない」と教えた。

男は特に、正直に生きていかなきゃならないものだと語ってもみた。


こどもは素直である。

わかった。もうやらない。

おれの言葉をしっかり受け止め、正直に話し出した。

朝起きてからおかあさんに言われたことや、このスーパーでの出来事までの話しだ。

話してくれたのはいいのだが・・・。


お菓子と、ふりかけの他にも、

肉のパックに穴をあけた。

パンの袋を破った。とまで言い出した。

戻り始めた意識も、また遠くにいきそうにはなったが、正直に話した男の気持ち?ではなく、

こどもの気持ちを壊してはいけない。と判断したおれは、男の子と現場に走った。

店内を走り回り、穴の開いた肉パックと、破けたパンを無事に回収出来たのだが、

Tシャツおかあさんとは関わることを避けたいおれは、このふたつを自分のかごに入れた。

朝からごはんも食べていないようだし、パンくらい食べたいよな。

そう考えると可哀そうにも思い、パンだけは(セルフレジ)で購入し、男の子に渡した。

その時にも、男の子には、二度と悪さはしないという約束をさせた。


おれの行動は、正しいことかはわからない。

でも、男の子に何かを教えることが出来たのなら、おれは満足である。

こどもは、学ぶことでおとなになる。

だけど、おとなは学びが雑になり、こどもみたいなことを言い出す。


ダメなことはダメ!

いい事はいい!


誰に対しても、それをしっかり言える「おとな」にならなければいけない。

この男の子も、教えられ学んだ。

おかあさんが、前にも同じことをしたと言っていたが、真剣に向き合って教えたのだろうか?

少なくても、今回はなぜ、ダメなのかを男の子は学び納得したはずだ。

理解できないことを、いくら教えても何も学べないこともある。

最初はこのガキ!であったが、数十分で「こども」は、少し「おとな」になった。


またいつか、この子とは会うかもしれないし、会わないかもしれないが、大人になった時に

今日の事を思い出してくれる日が来ればいいなと思った。

おとなは、こどもに見本となる生き方をしなければならないと思う。


買い物を終えて、出口に立った時に「スタッフ募集」の、チラシが目に入った。

スーパーで働くスタッフも大変だな。

そんなことを考えていると、後ろから男の子が走って来て(ばいばい)と手を振った。

その後ろから、Tシャツおかあさんが来たが目も合わせず店外に出た。


おれは、こどもの名前くらい呼んであげなよ。

と、おかあさんの背中に伝えた。


みんなが、こどもに正しいレールを引けるおとなになろう。




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