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わたしのしごと

作者: 児玉 桜

 ――狂ったものが好き。

 そう公言する背筋がピンと伸びた彼女の横顔は、いつ見ても自身に満ち溢れた表情で前を見つめていた。

 彼女の肉親が死んだ時でさえも彼女は、ただただ前を向いていたように思う。

 とは言え彼女が非情であるという訳では無い。いつかの「祖父が死んだのに何も感じなかったという事が、妙に虚しかった」と言った彼女は、確かに感情のある人間的な人間であるように思われたのだから。

 唐突に話が変わるようではあるが、そんな彼女とわたしが出会ってから今日で二十年と少しが経つ。いや、もうとっくに三十年は過ぎていたかもしれない。あるいは、まだ十年も経っていないのかも。でも、確かにわたしは、長い時間彼女と一緒に居たように思う。わたしと彼女が出会ったのは、彼女が高校生だった時か、もしくは小学生の時か、将又生まれた瞬間からか、いつかは分からないけれど、やっぱりわたしたちが出会ったのは随分と昔の事の様な気がする。

 時間が経ったからか、わたしも彼女も初めて出会った時とは大きく違うと思う。その彼女は果たして彼女なのかと問われれば、答えを迷ってしまう程に今と昔では大きく違うのだろう。今ではよく笑う彼女も、昔は今ほど笑っていなかった。わたしだって多分そうだ。主体的だったわたしはいつの間にか客体的になっていた。

 彼女が辛ければ、わたしもつらい。でも、わたしが辛くても彼女は耐えていた。

 いつしか彼女は人並みの幸せを掴み、特に境界を持たなかったわたしと私は、私は理性と呼ばれ、このわたしは感情と呼ばれるようになって、わたしより大人な私ばかりが彼女に必要とされるようになったけれど、それでもわたしは、彼女に涙と笑みを届ける事だけは今まで以上に頑張った。もう二度と悲しめないなんて虚しい思いをさせない為に。


 彼女の彼に、あるいは将来の夫となる人に「好きな物は?」と問われた彼女は答えた。

 ――私はね、狂ったものと悲劇が好きなんだ。

 ――変わっているね。どうして?

 ――笑いたい時に笑わせてくれて、泣きたい時に泣かせてくれるからね。


 私によってずたぼろにされたわたしは、それでも彼女に笑みと涙は届けようと固く決めていた。

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