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幕間:ボクが仕えるべき姫

「ふぅ……長居は遠慮したかったのですぐ帰る事にしましたけど、エリと戦って交渉して休み無しってのは中々に疲れますわね」


「連中が必要ないからと馬車をくれたのが幸運だったな。奴隷を引き連れて、公用の馬車とか何言われるか分からん」


「その辺気にするのですね。人間らしいじゃないですか?」


「ふん。付き合いが長いから移ったかもしれんな、やれやれ体調で悪くなったらどうしてくれる」


「失礼な」


 ……時間は経ったけどやっぱり実感が湧かないなぁ。どうやらボクは、ジェーン・ドゥを名乗ってたミリアリアに負けて連中から折檻されて、気絶している間に所有権が胡散臭い片眼鏡から目の前で馬車を操縦してる雰囲気が明らかに人間じゃない男と楽しげに談笑してる彼女に変わったらしいんだけど。


「どうかしまして?エリ」


 あまりにもジロジロ見すぎたかな。んー……落ち着いて話せる良いタイミングだし聞いちゃおう。


「どうしてボクを買ったの?家事とかは一通り出来るけど、それが目的ならわざわざリスクを背負う必要はないし……もしかして夜伽の相手を所望してる?」


 考えられる事をつらつらと上げていくとミリアリアは暫くポカーンとしていたけど、やがて楽しそうに上品な笑い声を出し、揺れる馬車の中をバランス崩す事なくボクの近くにそっとやってきて座った。そのまま、ボクの手を優しく取る姿はやっぱりそういうのが希望なのかな?なんて思えた。


「ずっとを刀を握って、戦ってきたのでしょう?貴女が積み上げてきたものが今此処にありますわ、それに身体中の傷も。極東ではホマレ?にするのでしたよね。夜伽の相手をして貰うのも楽しそうですけど、わたくしが貴女に求めているのは純然たる力ですわ。どうか、わたくしの元でその力を振るっていただけませんこと?」


 手からそして、身体の傷へ。最後にはボクの頬に触れながら見惚れる様な美しい笑みを浮かべて彼女は、ボクの力が欲しいと言ってくれた。


「……その為にボクと戦ったの?」


「えぇ。貴女の力を直接確かめたかったですし、わたくしが仕えるに値する人物だと証明もしたかったので」


 容姿から欲したわけではない。

 お金のために欲したわけではない。


 ただ、純粋にボクと云う個人を見てその力を欲して、死ぬかもしれない危険な橋を渡ってまでボクを欲してくれた。その事実に心の臓が、高まり体温が上がっていくのをボクは理解した。


「もう二度と、誉も得る事はなく……矜持は腐れ落ちていくものだと思っておりましたが……ボクはまだ父の様に誰かの為に戦えるんですね……」


 みっともなく涙を流しながら、止めることの出来ない言葉が口から出て行く。


「そうですわ。極東の剣士、エリ・ミクラ。その命、その技をわたくしに捧げなさい。さすれば、わたくしが貴女の生きる理由に、戦う理由になりましょう」


 その言葉にボクは涙を拭い、仕えるべき『姫』を見ると、ちょうど馬車の隙間から月明かりが差し込み姫を照らしており、ボクはまるでそれが後光の様に感じられ更に、心の臓が高まり漸くボクの止まったままだった退屈な運命が動き出したのだと実感した。


「ミリアリア姫、ボクは貴女に仕えます。この命が潰えるまで、御身を護り必要であれば夜伽のお相手も致しましょう。ボクの全てを姫に捧げます」


 父様、ボクは真に仕えるべき姫を見つけました。どうか、我が道行を見守っていてください。

 

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