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戦力求めて地下施設へ

 「次は人を集めましょうか。決して裏切らず、それでいて有能な方々を」


 暗殺者を排除した次の日、わたくしたちは森の中にある家で食事を摂りながら神殺しの為の方針を話し合っていた。ファウストの様な上位存在を殺すには、明らかにわたくし一人では数が足りない。もっとわたくしの運命の拘束力が強ければ無理も出来たのですが、まぁ、無いもの強請りをしていても仕方ありませんわね。


『具体的な候補はあるのか?一から探すのは面倒だぞ』


「貴方の力なら一からでも簡単でしょうに……まぁ、幸いある程度の目星は立っています。一人は声を掛ければすぐに来るでしょうから、違う人から行きましょうか」


 やり直しという苦行は大変ですが、時間という意味では有り難いものです。神殺しを決めたのは今回が初めてですが、元より安全の為に使えそうな人材は見定めておきました。机の引き出しの中から、一枚の書類を取り出しファウストへと手渡す。暫く、それを読んでいた彼は読み終わると同時に悪い笑みを浮かべた。


「貴方のお眼鏡にも適った様ですわね?」


『奴隷を選ぶお前のセンスがな。貴族趣味って訳でもあるまい?』


「当たり前でしてよ。役割を強制される立場であればあるほど、わたくしの同類である可能性が上がりますから」


 現状に満足している人間では困るのです。そういう輩は、今より良くなる可能性を此方が示しても、ほぼ乗ってきません。だって、今のままでも良いのですから余計なリスクを負う必要がありませんもの。故に、仲間を集めるのであれば現状に不満を抱きやすい奴隷の様な身分の低い者の方が可能性が高い。


『裏切るかもしれんぞ?失う物がない人間は、目先に釣られやすい』


「えぇ。だから、この目で確かめに行くのですよ」


 奴隷を見せ物にする地下施設がある街、コロッセスへ。








 ファウストを連れ添い、馬車を利用して二日間。わたくし達は、コロッセスへと来ていた。顔を見られない様に日傘代わりに布を被っていた為、わたくしだと気が付いた人は居ないでしょう。この街は歩く人達は、軒並み目つきが悪く明らかにただの一般人ではない。まぁ、それも当然です。此処は犯罪が日常のすぐ横にあるとても治安が悪い所なのですから。


「わたくしから離れないで下さいねファウスト」


「お前に死なれると困るしなジェーン。護衛ぐらいはしてやるとも」


 この街にいる間は、一人で動く事は出来ませんわね。まぁ、長居をする予定もありませんし目的を済ましてしまいましょうか。周囲から飛んでくるいやらしい視線を無視して歩いていると大きな身体をした男性二人に道を阻まれる。大きいですわねぇ……2mくらいはありそうですわね。


「女連れとは良いご身分じゃねぇか兄ちゃん」


「しかも結構な美人。ねぇ、お嬢さん?こんな男放っておいて俺らと良いことしない?」


 ……典型的な頭が軽い二人ですわね。しかも不潔で臭いですし。女性を誘う前に最低限の礼儀や格好はして欲しいものですね。思わず鼻を摘んでしまうわたくし。その行動が癪に触ったのか二人とも表情を険しい物にしました。


「女を見れば、下半身に従うしかない猿が体臭を貶されて怒る知性があるとはなぁ。いやはや、流石は犯罪の街か。人らしい生活すら満足に送れないとは」


 わたくしを庇いながら煽りに煽るファウスト。体格で言えばこの二人に負けている彼ですが、当然の事ながら臆する事なく、赤い瞳を愉しげに歪めています。


「なんだとテメェ……痛い目を見ないとわかんねぇ様だなぁ!」


 片方がファウストに向かって殴りかかると、彼は突き出された右腕を受け流しその巨体を盾にもう一人が介入出来ないようにし、下から顎を打ち上げた。巨体の男を僅かに宙に浮かばせるほどの威力を受けた彼は一瞬で意識を失いその場に倒れてしまいました。相方は、何が起きたのか全く分かっていない様です。


「な、何が起きた?おい!しっかりしろ!!」


 倒れた男を揺らすが、脳震盪を起こした人間がそう簡単に起きる訳もなく。ただやられたという事実を理解した男はキッと鋭い視線をファウストへ向けるが、飄々とした態度を崩すには面白みも迫力も足りない。


「図体の割に軟弱な身体をしている様だな。あぁ、勘違いするなよ。これはただの正当防衛だとも」


 人間に殴られた程度では傷一つ付かない悪魔が何か言ってますわ。


「力量差は分かっただろう?道を譲れ、時間を無駄にする気はない」


 そう言いながら男に向けて絶対零度の視線を向けると漸く、生物としての本能が危険を察知したのか男は倒れた男を放置してその場から無様に走り去ってしまいました。……仲間意識すらないのですね。


「こういう輩は力を示せば簡単に折れてくれるから助かるものだ。さて、目的地はこの先だったなジェーン?」


「えぇ。そうですわ」


「次の猿に集られる前に行くとしようか」


 態と大きな声で周りを挑発する様に言う彼に呆れながら歩き出す。周りの視線に敵意の様なものも加わった気がしますが、わたくし達は目的地である地下闘技場の入り口まで邪魔される事なく到着した。入り口に立っている男に多少色を付けた金額を渡し、招待状無しの状態で地下へと降りるとそこには、外の閑散とした寂しさはなく欲望が熱を帯び、渦巻く地下施設が広がっていた。


「カジノに、娼館、闘技場。お前らってこういうの好きだよな」


「優越感に浸れるってのは、大切ですから」


「運命が定められてるって知ったら、此処の連中はどんな顔を魅せてくれるだろうか」


 此処にいる者達は皆、自分で自分の運命を切り開いてきたと思ってるかもしれませんが神によって定められたレールを歩いているに過ぎないと思えば滑稽さすら感じてしまう。まぁ、わたくしとて神殺しを成すまでは変わりありませんけど。


「此処ですわね」


 目的地である闘技場へと辿り着く。どうやら賭け金を用意しなくても入場自体は出来る様なので中に入り、試合を観戦する。どれもこれも目を惹く試合はありませんが、暫くするとコールが入った。


『さぁ!!本日の大一番、我々が誇る一級の戦士の死合です。皆々様、賭け金のご用意をお願い致します!!え?もう賭けてる?それは申し訳ない、当たり前の事を聞きましたね!さぁ、此度も見る事が出来るのかその手腕は鮮やかとして表現する言葉を持ち得ない異邦の首狩り!!白銀輝かせ、首を飛ばすその流麗な太刀筋を我々に見せて欲しい!!』


 コールと共に会場に入ってきたのは、身体中にこれまでの戦いを刻んでいる様な傷の多い身体を薄い布切れだけで隠し、手入れのされていない黒髪が特徴的な小柄な奴隷。その手には刀と呼ばれる極東の島国の者が好んで使うとされる武器が握られていた。

 彼女が現れると同時に歓声は上がり、観客達が彼女の登場を待ち望んでいた事がよく分かる。


『この歓声、彼女に向けられる期待の大きさを良く表しています!さぁ、この重圧に見事打ち勝つ事が出来るのか!?本日の対戦相手の入場だ!!その筋骨はまるで山脈の様!!並み居る対戦相手の悉くを握り潰し、本日の挑戦権を手に入れた蛮族だぁ!!』


 そんな彼女の対戦相手は先程紹介された通りの筋骨隆々な男であり、手に持っていた鉄の棒をただの握力のみでへし折っていた。此処から聞き取ることは出来ませんが、何やら対戦相手の彼女に向けて言葉を放っている様子。表情から察するに彼女の事を舐めているのでしょう。


『では、殺した方の勝ち!!死合、開始ぃ!!』


 コールの合図を聞き先ずは男から仕掛ける。その図体に見合わず、素早い動きで彼女に接近すると腕を伸ばし掴み掛かろうとするが、瞬間、光が反射し白銀が輝いたかと思えば男の腕が宙を舞っていた。


「ガァァァァ!?!?!?」


 醜い悲鳴上げると同時に再び、白銀が煌めく。


「ほぅ?」


 頬杖を突きながらファウストが興味深そうに声を発すると既に男の首はなく、鮮血が彼女を濡らしていた。刀に着いた血を払い、慣れた手つきで納刀した彼女は自身が被った血には興味がないのか拭う事をせずに、歓声に背を向けて出てきた入り口へと戻っていった。


「お前が欲しがる訳だ。だが、どうやって引き抜くつもりだ?稼ぎ頭を手放すほど此処の連中も愚かではあるまい?」


「そう焦らないで下さいな。言ったでしょう?先ずは、この目で力量を確かめてからですわ」


 そう言うとしばらくポカーンとした顔でわたくしを見るファウスト。貴方、そういう顔も出来ますのね。


「ククッ、なるほど。だが、死ぬなよ?俺が与えた能力も決して絶対ではない」


「えぇ。それに今のわたくしが何処まで戦えるのか試してみたいですし」


 次の日、わたくしはジェーン・ドゥの名で闘技場の戦士としてその場に立っていた。

 


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