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誘うは破滅の道

「そう言えば聞いていなかったのですけど、具体的に世界を滅ぼす算段ありますの?」


『あ?そんなもんねぇよ』


「喧嘩売ってますの?」


 街への道中でふと気になった事を聞いてみればあまりにも無責任な言葉に思わず、イラッとしてしまう。なんなら睨みつけましたが、横を律儀に歩く悪魔はケラケラとした笑いを浮かべて受け流す。はぁ……契約する相手間違えたかしら?


『答えを急くな急くな。お前次第って事だ。人間全部を殺したいのか、それとも役割を決定した存在を殺したいのか。どっちだ?』


 そう言われて考える。わたくしが殺したいと思う存在……それは間違いなくこの世界でありその仕組みを生み出した存在がいると言うのなら、ソレを殺したい。キラ達に対する復讐心などとうの昔に風化して、忘れ去りましたし。そうですね、わたくしが心の底から殺したいと願う存在はこの世界を生み出した存在ですわ。


「そんな存在がいるんですの?わたくし達の運命を決定する様な上位者が」


 そう言って隣を見ると悪魔がニヤリと意地悪く嗤う。


『俺だってお前らからすれば、上位存在だろう?まぁ、俺はお前らに役割など課していないが』


「……なるほど。居るんですわね?」


『あぁ、居るとも。身勝手にお前ら人間を見下し、世界という箱庭の中で遊戯の如く、お前らを生み出し役割を与える傲慢で強欲かつ、俺の様な反乱分子を見逃す怠惰な神というべき存在がな』


 愉しげに、辛辣に、悪辣な表情を浮かべるソレは正しく彼の存在を指し示す言葉通り、悪魔と呼べるモノでしょう。見る人が見れば恐怖する顔かもしれませんが、共犯者であるわたくしから見ればとても頼もしく安心する表情です。


『悪魔に安心するとはお前も大概、狂ってるよな』


「的確に人の心を読むのやめてくれます?それと、そろそろ街ですのでお話は一旦後に。街でわたくしの名前を呼ぶ時は、ジェーンもしくはジェーン・ドゥと呼んでくださいな」


 ミリアリアは、王宮を家を追われ行方不明。この状態の方が色々と動くのに好ましいですからね。全く、運命でこちらの役割を縛られてさえいなければ、もう少し派手に動けるのに。


『了解。そんで、俺の名前はどうする?』


 そう言えば彼の名前を考えていませんでしたね。呼ぶのが必要になれば心の中で念じれば良いと思ってましたが、場面次第では隣にいる男性の名前を呼ばないのは不自然ですわね。チラリと横を見ればどんな名前を与えられるのか楽しみしている悪魔の顔が映る。子供ですか……全く。


「……そうですわねぇ。ファウスト、そう呼びましょうか」


『ほぅ?何処となく唆られる良い名前だ。気に入った、今より俺はファウストと名乗る事にしよう』


 あら、パッと浮かんだ名前を告げただけですが存外に気に入ったようですわね。ちょうど良かったですわ、悪魔、共犯者と呼んできましたが、固有の名前が無かったのは不便でしたので。っと、街に着きましたわね。アースラ国において、商業が最も盛んな街であるコーマン。相変わらず、人が多く自分の商品を売ろうとする客引き達の声が響き渡っていますが、誰もわたくし達を気に掛ける素振りはない。


「良かったですわ。この街は変わらず、他人に無関心で」


 客商売としてはどうかと思いますが、事実ここの街の人達は他人に興味がありません。あるのは、お金を落とすかどうかのみ。人という種族が生きていく上で社会を形成し、そこで経済を生み出すのは当然ですけどこの街ほどそれに囚われてる街はないのではないでしょうか。


「……ファウスト。屋台には行きませんよ」


「しゃーねぇ諦めるか。悪いなおっさん、うちの財布が許してくれないようだ」


 屋台のおじ様に手を振りながら、戻ってくるファウストを軽く睨みつける。本人はどこ吹く風の態度で口笛を吹く始末……はぁ、お金には限りがあるんですから頼みますわよ本当に。それにしても、久しぶりに口を動かしてるのを見ましたわね。いつもは念話ばかりでしたから。


「先ずは何から買うんだ?」


「重い野菜からです。柔らかいお肉などは後回しですわ」


 そんなことを話しながらわたくし達は買い物を進めていく。何回もやり直すうちに、目利きを鍛えたわたくしに隙はありませんわ。新鮮な物から購入していく。重くなる前に籠をファウストに受け渡し、更に買い物を続ける。途中から飽きたのかファウストが欠伸をし始めましたが、それを無視して一時間。買い物が終わり、一度休憩の為にわたくし達は近くのカフェで座っています。


「随分と買ったな。金貨、一枚とは」


「生きていく上で必要ですから。まぁ、これだけあれば一ヶ月は保つでしょう。それにしてもまぁ、家出娘一人探すのに随分と気合入れてるじゃありませんか。追い出したのは其方だと言うのに」


 街中で見つけたわたくしの顔が描かれた行方不明者探しのビラを眺める。婚約破棄に、家名に泥を塗ったと追い出した癖にわたくしを探すとは……売りに出すつもりでしょうかね。悉く、勝手な人達ですわねぇ。


「そう邪険にしてやるな。奴が動いてるだけかもしれんぞ?」


「……そうですわね。もし彼の方が、動いてるのであればこちらから出向きましょうか」


 紅茶を一口飲む。んー……悪くはありませんけど、普段飲んでる物よりは劣る味わいですわね。熱湯に入れてる時間が長すぎて少し香りが飛んでしまっているし、雑味も出てます。















「ふざけるなよあの愚図王子……何が他に好きな人が出来たからだ!婚約破棄された令嬢がどれだけ惨めな末路を辿ることになるか、分からぬ歳でもなかろうに……」


 もし誰かに聞かれれば、死刑ものの発言をしながらイライラが抑えられないのか部屋の中をあっちこっち歩き回る男。普段の鉄仮面など全く、見せずその顔には憤怒が浮かび上がっていた。


「フェルト家もフェルト家だ。一切、庇う事も異議も申し立てる事なく、あっさりと娘を放り出して……」


 婚約破棄の話を聞いてからすぐに捜索願いと報奨金は用意した男であったが、既に3日が過ぎた。冷静だったのはそこまでであり、今は家にある物全て当たり散らしていた。普段冷静で、冷酷とも呼べる騎士がこれほどに取り乱すほど、彼がミリアリアという女性に対して寄せていた想いは、安い物ではなかったのだ。


「あぁ……必ず、見つけてみせます。そして、その時こそこの想いを貴女に伝えましょう!最早、我々に立場や身分と言った余計なしがらみはありませぬ。例え、フラれたとしても良い!その時は、安心して過ごせる場所を御用意するのみ」


 恍惚とした顔で両手を天に向け、重すぎる想いを口にする男の名前は、ユーズ・メドラウト。彼が辿る運命は、『ミリアリアへの恋心から、国へと反旗を翻し死ぬ』事である。ミリアリアは、繰り返す時間の中で彼が辿る運命をその結末を知っていた。だからこそ、彼はミリアリアにとって決して裏切る事のない大切な駒になる資格があったのだ。


「──こんばんわ。良い月ね。ユーズ・メドラウト様?」


 月を背にし、闇夜に溶け込む黒いドレスを着たミリアリアという魔女が妖艶な笑みを浮かべ、騎士へと優しく手を差し伸べる。

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