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先ずは準備から

「そうですか。では、お幸せにキラ様」


 突然告げられた婚約破棄に一切、動じる姿を見せず光を受ければ輝く腰まであるプラチナブロンド髪が特徴的なミリアリアはただただ冷めた切った声でキラ相手に頭を下げた。その姿に周囲の貴族達は言葉に出来ぬ恐怖を覚えたという。


「わたくしはこれで失礼致しますわ。もうこの場にいる意味もありませんので」


 いっそ取り乱せば笑いの種に出来た。無様に泣き叫んでくれれば、彼女の父親に恥をかかせる楽しみも生まれた。そんな貴族としてタチが悪いとも言える感性を持っていた者達は、動揺など一切見せず澱みなく外へ出て行くミリアリアを黙って見送るのだった。


『ククッ、見たか?連中の間抜けヅラ、傑作だったなぁ。食いもんに出来ると踏んだ娘がこうも鉄仮面じゃ呆気に取られるよなぁ』


「相変わらず趣味が悪いですわね。でも、まぁ、所詮その程度の役割しか持たない人達ですから」


『捨てられる程度の運命であるお前がそれを言うか?』


「えぇ。言いますわよだって──」


 頭の中に響く悪魔の声との会話をしながらミリアリアは、振り向く。そこには、豪華絢爛な王宮が建っていたが今の彼女にはただの劇場にあるハリボテの様なものにしか感じられなかった。


「舞台を貶す資格は、舞台を降りた者にしかありませんもの」







 王宮の外を歩くミリアリアを窓から眺めている男がいた。銀色の鎧に身を包み、黒い肩掛けマントを羽織るこの国において、2番目の強さを誇るとされる騎士、ユーズ・メドラウトである。誰もがその表情に変化があったところを見たところがないという仏頂面だが、今の彼の目を見ればその話を信じている者達は卒倒するだろう。


「(あぁ……本日もお美しい……)」


 そっと窓に手を置き愛おしい者を見るユーズ。そうこの男、王族を守護する役目である騎士でありながらその未来の伴侶であったミリアリアに恋をしていたのだ。彼女の姿が見えなくなるまで見送ったあと、漸く彼はその違和感に思い至る。


「……む?本日のご予定では、王子と共に懇意になさっている貴族の方々とお食事のはず。何故、こんなにも早くご帰宅を?」


 しかも仲が良く必ず王子が見送りをしているというのに今回はその姿もない。彼は、言葉に出来ない不信感とほんの僅かな期待を胸に王子達が集まっている場所へと足を運んだ。そして、それが彼の運命の転換期であった。

















「ふぅ。なんども此処に来ていると流石に安心感を覚えますわね」


 わたくしの運命が変わった場所。国の近くにありながら、背の大きな木々が青々と生い茂り例え日中でも薄暗い森の中に用意していた簡易的な家の中でお茶を飲む。未来を知っていれば、用意も簡単ですわね。力仕事は、悪魔に任せればやってくれましたし。


『そう願われちゃやらざるをえんからな。しかし、世界は広いが悪魔に家を建てさせるのはお前ぐらいだろう』


 黒い靄が集まり、わたくしの共犯者である悪魔が対面に座る。言葉の割には悪い人相を愉しげに歪めている辺り、この悪魔の享楽主義な所がよく分かりますわね。


『それで?先ずは、どうする我が共犯者よ』


「そうですわね……とりあえず、剣を貸してくださいます?」


『おう。構わないが、一体何に使うんだ?』


 何もない空間から剣を取り出し、わたくしに渡してくれる悪魔。鞘からゆっくりと刀身を抜き出すとランプの灯りを反射してキラリと光る。これ、確か国宝に指定されてる剣じゃなかったかしら?手癖の悪い悪魔ですわ。気づいたら、倉庫番の人の首が飛びそうですわね。どうでも良いですけど。


「こうするんですわ」


 腰まである髪を一纏めにし、剣でざっくりと斬る。首元まですっきりとした髪を片手で整え、切った髪をわたくしの共犯者の目の前に置く。


『失恋すると人間の女は髪を切ると聞いたが、それか?』


 何処でそういう知識を付けてきてるんでしょうねこの悪魔は。まぁ、それもありますが本質は違いますわ。


「先ずはお金が必要です。これを売ってきてくれます?既に売り場には話をつけて、男性の方が売りに行くと伝えてありますから」


『くくっ、今度は使いっ走りをしろと?全く、厚顔無恥な娘だ』


「別に良いんですのよ?わたくしが行っても。でも、余計な事で美味しい絶望を食べる前にわたくしが死ぬ可能性も上げてもよろしいのですの?」


『そいつは困るなぁ。そいつ目当てに無償でお前の願いを聞いてるんだから、タダ働きになってしまう』


「なら、お願いしますわね?」


 肩をすくめてニヤッと笑った後に髪を手に取り、再び靄となり消えた。恐らく、髪を売りに行ってくれたのでしょう。あの悪魔とも長い付き合いですが、相変わらず能力の原理がよく分かりませんわね。自分が靄として消えたり現れたりするのはまだそういう生物という事で分かりますが、手に持ったものまで靄にして一緒に移動できるとは。


「……まぁ、考えても仕方ありませんか。共犯者である事は変わりありませんし」


 さてと戻ってくるまでの間、剣の素振りでもしておきましょうか。ご丁寧に置いていってますし。外に出て剣を正面に構える。今でこそ手に馴染んでいますが、初めはこんな物を振るう事になるとは微塵も思っていませんでしたので、数回振り回すだけで息を切らしていましたわね。


「ふっ!」


 剣を真っ直ぐに振り下ろし、片手に持ち替え腕を伸ばしながら振り上げると同時に身体を回転させながら、もう片方の手で鞘を振り上げ、再び正面を向いたタイミングで剣を突き出す。……違和感はありませんわね、ちょうど良い重さです。一度剣を納刀し、そのまま背後に現れた気配に向けて剣を引き抜く。カキンッと火花をあげて、剣と剣がぶつかり合い動きを止めた。


『おいおい、共犯者を殺す気かぁ?』


「態々、気配を絶って背後に現れるのですからてっきり斬られたいのかと」


『教え子の力量を調べてあげようという親切心だとも』


「……」


『クハハ、ゴミを見る様な目をするな。ほれ、売ってきたぞ。かなり質が良かった様で、金貨5枚だそうだ』


 渡された袋の中には確かに金貨5枚が入っていました。そこまで高値で売れるとは……なんだか怖いですわね。まぁ、手に入ったのなら良しとしましょう。


「では、食糧を買いに行きますよ」


『今度は自分で行くのか』


「えぇ。勿論、貴方も一緒ですし、街中で殺された経験は未だありませんから」


 剣を悪魔に預け、家に戻り質素な服に着替え、悪魔と共に街へと向かった。さて、良い物が手に入れば良いのですが。

感想など待ってます。

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