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武人の二人

 異能の力をユーズに見せよう。ミリアリアのその提案からユーズとエリが互いに向き合っていた。


「シィ!」


 力の元になっている蛇の様な音を呼吸と共に発しながらエリの刀が振るわれるが、ユーズは完全に見切っており抜刀の瞬間から既に身を捻っており、エリの刀は数秒前のユーズがいた場所を虚しく斬り裂く。簡単に避けられた事に驚く彼女だが瞬きの間に刀を納刀しており再び、抜こうとした刹那ピクリとも刀が動かなくなった。


「……速いが、それだけだな。そこが女の限界だろう」


 あまりな発言であるが、事実エリは刀を蓋する様に添えられたユーズの手を退ける事が出来ていない。全力で力を込めているのにも関わらず、片手で力んだ様子も見せていないユーズの筋力を超えられていない。


「馬鹿にしないでよね!」


 だが、あまりにも無表情で淡々と告げられた為にエリの顔に青筋が浮かび全身を鱗が包み瞳が縦に割れた。


「む」


「とりゃぁぁぁ!!」


 目の前で起きた変化に驚きつつもユーズは直感に身を任し、僅かに押し返された刀から手を離し大きく後方に飛び退くと同時に、白銀が煌めき刀がマントの先端部分を浅く斬り裂いた。刀が引き戻されると同時に目にも止まらぬ速度でエリは詰め寄ると一呼吸の間に二回刀が振るわれる。


「……」


 首元に迫る一撃を上体を僅かに逸らす事で避け、続く第二撃として放たれた突きを自身の剣を盾にする事で防ぐユーズ。彼が持つ剣はロングソードでありその刀身は横に広くなっている為横向きにする事で、簡易的な盾として使用可能だ。


「なるほど……それが、人と異なるものと契約する事で得る力か。確かに身体能力が向上している様だな」


「むぅ。そんなに冷静に分析されると腹立つな、少しは驚いても良いと思うんだけど」


「驚いているとも。だがまぁ、これぐらいならどうとでも出来る」


「え、ちょ!?」


 グッと腰を落とし剣を握る腕にビキビキと血管が浮かび上がっていくその光景に不味いと判断したエリが、居合を放つと同時にユーズの剣が振るわれ、刀と剣が接触した瞬間刀ごとエリが三メートルほど吹き飛ばされた。驚愕しながらも器用に身体を捻り、木に叩きつけられる事なくスルスルっと勢いを殺しながら登りなんとか事なきを得るエリだったが、全身から冷や汗が噴き出していた。


「刀は折れなかったか。良い武器だな」


 本来なら父から譲り受けた刀を褒められた事を喜びたいエリだったが、契約していないただの人間である筈のユーズが見せた圧倒的とも言える力を目の当たりにして言葉を返せない。

 先ほどの一撃で土が抉れているのを踏み直しながらユーズは数歩エリの方に近づき、立ち止まる。


「来ないのか?私がミリアリア様の敵であれば、お前は主を見捨てた臆病者の誹りを受けても否定できぬぞ」


 異能を知るのが今回の目的だったが、吹き飛ばされて怯えから戻ってこないエリへと同胞として最低限度の言葉を投げかける。もし、このまま来ないのであれば主から見えぬ場所で始末するつもりで。


 だが、発言と同時に向けられた濃厚な殺気を受け要らぬ考えだったかと思考を捨て、剣を構える。


「漸く得たボクの幸福なんだ。捨ててたまるか!」


「その意気は良し。であれば、示してみせろ!」


 今度は吹き飛ばされる事なく剣と刀がぶつかり合った。力で圧倒的に負けているというのなら、馬鹿正直に受け止めなければ良いと判断したエリは女性特有のしなやかな身体を使い、剣を通して流れてくるユーズの力を腕ではなく全身で受け止め、それでも足りない分を地面へと流していた。


「シィ!」


 刀は剣と違いぶつけ合っていて良いものではない。その判断から刀を寝かし、ユーズの剣を受け流すと同時に流れる動作でユーズの横をすり抜け背後から刀を上から振り下ろした。


「ふん!」


 振り返りながら籠手で刀身を横から叩き、攻撃を去なすと同時に片手で剣を横薙ぎに振るう。刀が逸らされ前のめりに体勢を崩していたエリだが、迫る剣をそのまま全身を地面スレスレまで倒す事で避けがら空きになっていたユーズの股をくぐり抜け体勢を整えて、ユーズと向き合う。


「……強いね。貴方」


「この身はミリアリア様に捧げるもの。この人生はその為にあると定めれば、存外ただ鍛えるだけの日々というのも悪くなかったからな」


「そっか。羨ましいな、ボクはまだ出会ったばかりだから。でも、姫は譲らないよ彼女はボクが護るんだ」


「ほぅ?俺を前に忠義を語るか」


 本当に僅かだが、ミリアリア以外には一切波打つ事のなかったユーズの心が目の前のエリに対して揺れ動きその揺れは表情にも現れ、無表情だった鉄仮面に本当に小さな笑みが浮かび上がっていた。


「語るさ。それは決して譲れないボクの歩む道だからね」


 笑みと同時に向けられた闘気にエリは刀をいつでも抜刀できる様に構える。武人である彼女はその闘気をよく知っており今、この瞬間彼が自身を塵芥の存在ではなく、向き合うべき相手だと認識した事をその本能で理解し、負け時と闘気をぶつける。


「喜ばしく思うよ。お前があの王族に仕える騎士ではない事実を」


「少しはボクを認めてくれたって事で良いのかな?」


「あぁ。少なくとも共にミリアリア様を主と仰ぐ事は認めよう」


「……上から目線で腹立つなぁ」


「事実だ。否定したければ、この一撃を防いでみる事だな。エリ・ミクラ」


 剣を上段に構えるユーズ。全身の筋肉が隆起し、血管がはっきりと浮かび上がる。蛇としての機能で温度が視覚として感じ取れるエリの目には、体温が上がり湯気の様なものが立ち昇っているのが見える。彼の身体から迸っていた闘気が剣へと集まっていき、それが頂点へと達した時その一撃は振り下ろされた。


「これが我が忠義の一撃!!」


「ッッ!!!!」


 瞬間、エリは自分が真っ二つになる光景を幻視すると同時に刀を引き抜き自分を守る──のではなく、抜刀した勢いそのままにユーズの首へと放たれた。


「……どちらも気迫が凄すぎて殺し合うのかと思いましたわよ」


「少々、熱が入ってしまいました、申し訳ありませんミリアリア様」


「ごめんなさい姫。でも、これは我慢出来ませんよ。武人して」


 両者は死んでおらず顔スレスレで止まる剣と、首スレスレで止まる刀。互いに殺すつもりで放ち、互いに寸止めした様だ。同時に武器を納め、エリは人の姿へと戻っていく。


「まぁ、これで契約の力は理解してくれましたね」


「はい。人ならざる力、確かに戦いの中で有利に運ぶ事でしょう」


「えぇ、ですから貴方にも「要りません。私の全ては貴女様に捧げるものです」……へ?」


 あぁやっぱりこうなったというエリの呟きが静かな空間に響くのだった。きっと、ミリアリア大好きな二人にしか通じない理屈理論があったのだろう。この後、ミリアリアがどう説得してもユーズが首を縦に振る事はなかった。

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