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壊された者と壊れている者

「さてと次は彼をおぶっ!?」


「姫ー!何を難しい顔をしているのですか?」


「……エリ、後ろから勢いよく抱きつくのはびっくりするのでやめてくれませんこと?」


「えぇー!スキンシップ大切にしていきましょうよ!ボクは可能ならずっと姫にくっ付きたいくらいです」


 きっと尻尾があればぶんぶんと振られているんだろうなと思うぐらいの忠犬っぷりですわねエリ……でも、お願いですから考えている時とかに抱きつくのはやめて下さいまし。敵意が無いので気がつけないのよ……とは言え、言い過ぎるとしょんぼりしてしまいますしどうしましょうね。


 彼女を仲間にしてから数日間の月日が流れましたが、この甘えたがりは慣れませんわねぇ。とは言え、わたくしとファウストでは雑になっていた食事、人が寄り付かない森とは言え見張りもせずにスヤスヤ出来るほど肝も据わっておりませんので其方も熟してくれるのはとても有難いのですよねぇ。


「そうでしたわエリ。そろそろ、もう一人仲間が増えますので今夜の見張りはわたくしが担当しますわ」


「え!?聞いてないよ、何処の馬の骨が姫に近づくの!?」


 話したけどくっついて聞いてなかったのは貴方でしょうに……頭を掴んで一度エリを引き剥がしファウストに預かってもらう。彼の事は嫌いではないけど苦手そうなので、こういう時は押し付けてしまいましょうね。


「……ガキの預かり所じゃないんだがなぁ」


「ガキじゃない!……そりゃ、姫に比べれば背も小さいし身体付きも貧相だけどさぁ……」


「一々、凹むな面倒くさい」


「お前が言ったんだろう!?」


「はいはい、仲が良いのは結構ですので話を聞いてくださいな?」


 ね?っと笑みを向ければエリは顔を赤くしながら黙り、ファウストはいつもの様に聞く体勢を取ってくれる。


「これから来る人は少し前にちょっとばかり危険な事をしながら会いに行きましたの。軽く挨拶をしただけですけど、彼ならそれだけで十分だと思いますわ」


「誰の事を言ってるかは粗方、想像はついたが本当に来るのか?」


 ファウストが怪訝そうに眉を顰めながら問いかけてきたのに対して微笑みながら頷く。彼はきっと来る事でしょう、やり直した時間の中で、飽きるほどわたくしは知っていますから。












 それは膨大なやり直しの時間の中の一つでした。わたくしは、愛する人に家族にそして国に売られて仲の悪い隣国、ノスアラル帝国のとある将軍一族に、和平交渉の材料として嫁ぎに出された事がありました。珍しく国内で死なないパターンですかと当時は思いながら、能面の様な顔で帝国へと向かう馬車に乗っていたのですがそこに現れたのが彼でした。


「ミリアリア様!!ユーズがお助けに参りましたぞ!!」


 秘密裏に話されていた件をどうやって知ったのかは不思議でしたが、ユーズはたった一人でその場にいたアースラ国の正規軍、五十人、ノスアラル帝国の護衛部隊十名の合計六十人を突破し、わたくしが乗っていた馬車まで到達したのです。ですが、その時点で素人目にも瀕死だと分かる傷を負っていた彼は、遅れて現れた我が国の最強に対して成す術もなく死んでいきました。


「……ゴホッ……望まぬ人生を歩ませてしまうぐらいであれば……!」


 そう言いながら心臓があるべき場所に大きな穴を空けた彼は立ち上がり、わたくしの命を絶とうとしたのです。そこでファウストが、時間を巻き戻してくれたのでこうして生きていますが。


「……やっぱり来ましたわね。ユーズ」


「はっ。このユーズ、御身の為であれば例え何処なりとも馳せ参じましょう……と言いたいところですが、今回ばかりは貴女様のお父上が放った暗殺者が居なければ割り出せなかったでしょう」


 そして今、彼はわたくしの期待通りこの隠れ家へと現れました。きっかけがあの暗殺者だと思うと縁というのも不思議なものですわね。

 傅く彼が身に付けている鎧は銀ではない真っ黒な鎧であり、マントは黒から白に変わっており立場が変化した事を身に付ける装備が指し示しています。


「考えはあの日から変わらないかしら?」


 ユーズの自室へと訪ねたあの日、わたくしがなにかを言うまでもなく国や王子キラに対して忠義のカケラも感じられない暴言を放っていたユーズ。

 わたくしの問いに一切の曇りがない瞳を向け、感極まった様子で口を開く。


「一切、変わりありません。我が忠節は貴女様と共に」


 真っ直ぐにわたくしを敬愛し、騎士としての忠節もそして異性としての愛情も捧げてくれるユーズに優しくわたくしが微笑むと、彼は鉄仮面と呼ばれた顔を赤く染め上げそれを隠す様に頭を下げてしまった。

 わたくしやエリの様に人ならざる者との契約は行っていない様ですが、いずれファウストの伝手でも借りて契約を結ばせる事にしましょうか。


「では、そうですわね。もし、国を生まれ故郷を滅ぼせと命じたらやってくれます?」


 裏切る事はないと分かっていても問いかけてしまう。それはきっと、わたくしの心が弱いからでしょうかね。


「貴女様がそれを望むのであれば。例え、生まれた国であろうと我が刃を振いましょう」



 ユーズ・メトラウドは壊れている。そう表現するのが正しい男だ。ミリアリア以外の全てが塵芥のゴミと等しく、全てどうでも良い存在でしかない。それは、親や友人であってもだ。ミリアリアがキラに裏切られた事で、ファウストの手を取り永劫の時間を繰り返した事で壊れてしまった後天的な狂人であるのなら、ユーズは生まれ落ちたその時から壊れた狂人である。


 生まれ落ち、定められた運命によって壊された者と歪な者。共に世界に叛逆するのならこれほど整った駒はいないのではないだろうか?


「ふ、ふふっ!!貴方、知っていたけど本当にネジが外れてしまっていますのね!」


「貴女様がそう言うのならそうなのでしょうな」


 愉しくて愉しくて仕方がないといった様子で嗤う彼女を美しいと恍惚とした顔で見上げるユーズ。


「それでは共に歩んでくださいな。破滅しかないこのわたくしの覇道を」


「最期の時まで、いえ地獄の果てまでお供いたします」


 差し出されてた手を取り恭しく手の甲にキスをするユーズ。この瞬間彼は、体の内側が熱を発している事に気がついたが、長年の忠義が認められた瞬間、それを嬉しく感じない訳がないと即座に頭の片隅へと追いやるのだった。

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