泣き虫の魔王アルテードさまは強くなりたい! ヘッポコ二代目魔王は勇者を倒す為に努力するのです!
短編の可愛い魔王と勇者のヘッポコ騒動の話が書きたくなったので書いてみました。
よろしくお願いします
ここは魔王城の玉座の間。
そこで勇者はたった一人で剣を構え、魔王と対峙した。
魔王は見るからにおぞましい姿、巨大な体躯に全身筋肉の塊、そして杖と剣を持った、言うなら昔よく見かけたテレビゲームの魔王のような姿だった。
「……」
魔王は沈黙している。
勇者は女神から与えられた真実の瞳という宝石を高く掲げた。
すると宝石から光が放たれ、魔王の姿は一瞬でかき消されてしまった。
「フーッハッハッハ、よく来たなゆうしゃよ! われがま王アルテードであるぞ」
「お前が魔王か、ボクが勇者だ!」
そこにいたのは魔王の威厳なんて全く感じられない可愛さの少女で、銀髪ロングのぱっつんヘア、胸は申し訳程度にも無いペッタンコ、そして外見は角と翼のついただけのコスプレしている女の子そのものだった。
「フーッハッハッハ、よく来たなゆうしゃよ! われがま王アルテードであるぞ。よくぞわがすがたをみやぶったな、ほめてやろう」
「何回同じ事を言うんだよ、お前が魔王か、ボクが勇者だ!」
魔王アルテードはセリフをミスってしまったので、もう一度言い直したのだ。
彼女は角の生えた少女の姿で、翼を広げて玉座から空に舞い上がった。
「グベェッ!!」
だが悲しいかな、この城の天井は彼女の想定よりも少し低かった。勢いあまって止まることを忘れた彼女は派手に頭を打ってその場に落下した。
魔王とは威厳のある存在。万を超える屈強な魔族を束ねるだけの能力を持つ者である。
それだけの魔力、実力、カリスマ、そして美しさや力強さ、そういったものが必要だと言えよう。
魔王は絶対なのだ!
だが、二代目魔王には全てが足りなかった。
先代魔王、エクスルデイモスは全てを供えた究極の魔王だった。
しかし、先代魔王エクスルデイモスは、娘のアルテードの作った料理に入っていたソクシタケのせいで、食中毒で一年苦しみ、最終的にはリタイアしてしまった。
四天王はそれぞれが忙しすぎて、次期魔王を継げる者はおらず、仕方なく一人娘のアルテードが次期魔王に就任することになった。
『アルティエッタ・エトワール・ドラウグル』
これがアルテードの本名。
しかしこの名前を言おうとしてリハーサルで何度舌を噛んだことか、仕方なく魔王軍は彼女を魔王アルテードで公式な名前にしているのだ。
こんな何もかもが足りない魔王がアルテードである。
「ワハハハハ、われがお前をたおしてたおしてたおしまくってやる! ギタギタのギタギタのメタメタにして泣かしてやろうぞ!」
威厳の欠片も無いセリフである。
四天王が忙しすぎて、魔王としてのセリフのリハーサルまで手が回らなかったのである。
忙しい中、四天王の筆頭である大将軍は、どうにか名前を噛まずに言えるようにするだけで精いっぱいだった。
大将軍は魔王軍四天王最強の男である。
先代魔王の時は問題なく実務をこなしていたが、先代魔王が食中毒でリタイアした後は、魔王軍の実質的な雑務を全てこなすことになってしまい、ストレスによる消化不良で毎日胃薬が欠かせないようになってしまった。
そして、先日勇者にフルボッコにされ、ついに本人もリタイアしてしまったのだ。
そんなこんなで勇者はあれよあれよという間に魔王軍を倒し、ついに魔王城まで到達してしまった。
「ゆうしゃよ、死ぬ前に名前くらいきいておいてやろう、さあ名のるがよい」
「ボクの名前は西京優! 異世界日本から来た勇者だ! お前達を倒して元の世界に戻してもらうんだ!」
「さいきょうするぐ、さあ来い、ま王アルテードの強さ見せてやる!」
「ボクはするぐじゃなくて優だ! 行くぞ! 魔王アルテード!!」
そして勇者と魔王の血で血を洗う熾烈な戦いが三日三晩に渡って行われ……なかった。
「いくぞ! ゆうしゃ! われのさいきょーひっさつわざを見るがよい。スーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルアターック!!」
セリフの覚えられない魔王だったが、自身のカッコいいと思う必殺技の名前だけは何十回も練習したので噛まずに言えた。
そして魔王の魔力は勇者を包み込み、その絶大な魔力で勇者は消し炭になるはずだった……のだが、勇者は全くの無傷だった。
「え? 何かしたの?」
「こ、こんなはずは……うわああー!」
魔法の通用しなかった魔王は勇者めがけて駆け出した。
そして勢い余って足がもつれて転んでしまったのだ。
「ギャフン!」
「え??」
「う、ううぅぅぅ……びえええええーん!!」
魔王はある程度の強さはあった。
力はギガンテスやサイクロプスより強く、バンパイアロードよりも魔力は優れていた。
魔王を名乗るだけに、本来ならとても強いはずだ。
しかし勇者はそれをはるかに上回る強さだった。
彼の能力は不死身、なんと一日一回なら死んでも細胞さえ残っていれば即座に復活することのできる上、もう一度死んでも次の日には復活する最強チート能力の持ち主だったのだ。
その能力で勇者は何度死んでも復活し、ドラゴンやバンパイアロード、四天王すら倒し、世界最強になった。
そんな勇者に、ある程度強いってだけの二代目魔王が勝てるわけがない。
勝負は一瞬で終わった。
「うううー、われがこんなにケチョンケチョンにされるなんてー」
「あの、ボク何もやってないんだけど。それにゴメン、言っちゃ悪いけど……キミ弱すぎる」
「うわああああーーーんッ!!」
魔王は泣いた。
そりゃもうギャン泣きしていた。
その泣き声の超音波で窓ガラスは全て割れてしまい、大理石の柱にはヒビが入りまくった。
その泣きっぷりはどう見てもお子様だった。
魔王の威厳の無い少女は、いつまでも泣き続け、その超音波は微細なヒビを城中にいれてしまい、最終的には魔王城が崩壊してしまった。
幸い、魔族は全員が転移魔法や強靭な肉体を持っていたので犠牲者は誰もいなかったが、魔王城は跡形も無く姿を消して瓦礫の山になってしまった。
「あああー、われの城がー、びえええーん」
勇者は魔王を倒し、日本に帰ろうと考えていたが、目の前で泣き続ける少女が何だか可哀そうになっていた。
そして勇者は魔王に手を差し出した。
「そうだ、キミ。ボクの仲間にならないか?」
「え? われはま王だぞ。それがなぜゆうしゃのなかまにならねばならんのだ?」
「ボク、こんな弱い魔王を倒した形で元の世界に戻っても満足できないんだよ」
「ガーン、われ、そんなに弱いのか」
魔王は勇者に精神的にフルボッコにされて立ち直れなかった。
「え、ボク何か悪いこと言っちゃったかな」
「ゆうしゃ、いや、先生。われをもっと強くしてほしいのだ!」
「え? ま、まあいいけど。キミが強くなったら、今度は本気で戦うけどいいんだね?」
「もちろんだ! われ、ま王としてもっともーっと強くなって、さいきょうするぐとたたかうのだ!」
「だからボクは優だって……」
「われ、すぐるといっしょに旅をして、もっとも~っと強くなるのだ。よろしく」
そんなこんなで、勇者西京優は、なぜか魔王をレベルアップさせるために、そして魔王は自身が強くなって勇者にリベンジするために一緒に旅に出ることになってしまった。
この後美しく成長した銀髪の魔王アルテードとザ・不死身の称号を持つ勇者西京優は、二人で一緒に旅をし、時には喧嘩をし、時には協力してどんどん仲良くなっていき、別世界の侵略者大魔王イダイナールと戦うことになる。
だが、それはまた別の話であり、いずれ語る日が来るかもしれない。