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3.レベル上げのひみつ

 僕たち4人はある廃墟に来ている。

 住宅街にある一軒家だ。人が住まなくなってからしばらく月日が流れているように思われる。

 

 僕は異世界に来てから初めての廃墟探検だが、かつてと同じように、何が起こるのかわからない不安と、新しい体験ができるという期待が入り交じっている。


 廃墟に来ることになった経緯は、先日の話し合いに遡る。


 ◇ ◇ ◇


 話は3日の自由行動日の間にそれぞれが到達したレベルについてだ。


 僕はレベル3、元基と詠美はレベルが2になっていた。しかし二千華はなんとわずか3日間を経ただけなのにレベルが1から8へ。この早さには何かある。


 彼女の話を聞いてみる。


「モンスターを倒すと経験値が入りますよね。ではその経験値の量というのはどうやって決まるのか、先輩方は調べていましたか?」

「いや、そういうのは敵の強さとかで決まるものだろ」


 元基が言う。確かに通常、僕がプレイしてきたRPGでも敵の強さに応じて経験値は変わっていたものだ。


「私のレベルが一気に上がったのは偶然でしたが、ギルドでレベル上げに関する情報はないかと文献を調べました。その中に、経験値の量がどのように決まるかはモンスターのレア度によると書いてありました」

「レア度ってモンスターのステータスを見たときに表示される、AとかEとかのあれか?」

「そうです。この街周辺ではモンスターのレア度がEばかりでしたね」


 元基への返答を聞いていて、徐々に僕にも二千華の言っていることの意味がわかってきた。


「そして私のレベルが一気に上がったのは、レア度の高いモンスターを倒したからなんです」

「なるほど、でもレア度が高いモンスターなんかいたかな?」

「それが、幽霊です」


 急に話が核心に来たようだ。


「ギルドで皆さんと別れてから、私は安宿で寝泊まりしていました。ところが一番安かったという理由で選んだ部屋が、ただの部屋ではなかったんですね。後からわかったのですが、以前の宿泊客が部屋で自ら命を断っていたといういわくがありました」

「なんでまたそんなところに……」


 さすがに僕も心配になる。


「しかもあまり掃除がされていないどころか、前の客が忘れていったような酒のビンがテーブルにあったりして、環境的には劣悪でした」

「それは辛かったな」

「明日は別のところに泊まろうと思いながら寝ていると、夜中に何かに首を絞められているような感覚があり、苦しさで目が覚めました」


 二千華による怪談を聞いている気になってきた。


「暗闇の中に憤怒の表情で私の首を絞めている男性の姿がありました。半透明で体の向こうが透けています」

「幽霊だね」

「幽霊ですよね。まさか宿泊中に襲われるとは思っていなくて。武器も手元に置いていなかったんです」


 恐怖体験のはずだが淡々と話している。


「でも私、冷静でしたよ。その例のステータスを見ようとしていましたから。見ることができたので、モンスター扱いなんだとも思いました。なんとレア度がAで、名前が”簡易宿泊所で命を絶った男の霊”」

「えらく具体的な名前だな」

「はい。そしてテーブルの上にあった酒のビンをその霊にぶつけたら、なんか苦しそうな声を上げて消えました。そしてレベルが上がっていたんです」


 なんと彼女は単独で霊を倒している。


「えっ? なんかあっさりしてるな。ビンが当たって痛かったということか?」

「いえ、おそらく中のアルコールでやられたんだと思います」

「アルコール消毒!? 幽霊は菌か何かなのか」


 元基が混ぜっ返すが、二千華は本筋から逸れない。


「これはレベル上げの裏技と言っていいのではないでしょうか? 幽霊はレア度が高い上に、レベルが低かった私でも倒せました。では、幽霊を集中して狙って倒すようにすれば…?」

「僕たちも労せずして早くレベルが上がる、というわけか」


 ここまで口を挟まず話を聞いていた詠美が話し出す。


「二千華ちゃんの発見は尊いものだと思います。だけどいくつか疑問をクリアにしておきたいわ。具体的には3つ。1つ目、幽霊のレア度が高いとは必ずしも言えないのでは? 2つ目、幽霊を倒して経験値が多く入るならば、他の冒険者達にも幽霊は狙われているのでは? 3つ目、どうやって幽霊を探すのかしら?」


 実は僕にはその回答ができる。二千華に目配せしたところ、うなずいてくれたので話を引き取る。


「僕から説明してもいいかな。1つ目の疑問について。詠美はこれまでいた世界で幽霊を見たことがあった?」

「なかったわね」

「そうだよね、自称霊感持ちの人が霊を見たと主張するということはあっても、実際に見たことがある人は少ないんじゃないかな。見たことがあったとしても生きているうちに3回も4回も霊を見るという話もあまり聞かない」

「まあ、そうね」


 ここまでの同意を得る。


「そこで1番目の回答だ。これまでの世界と幽霊が出現する条件が同じだとすると、この世界ではそもそも幽霊の数は非常に少ない」

「しかも、この世界だと幽霊が倒せてしまいます」


 二千華が僕に続く。


「そう、そのために幽霊が増えたとしても、二千華がやったように、倒されて数を減らすことももあるんだ。だから幽霊はレア度が高いことになる」

「ふーむ……」

「そして2と3は答えが共通しているよ。この世界では心霊スポットの概念があまり広まっていない。霊が出るというスポットに冒険者が行ってその霊を倒してしまえば、そこはもはや心霊スポットではなくなってしまう」


 一呼吸置いて言う。


「だから僕たちが先回りして心霊スポットへ行って、霊を倒してレベルを上げよう。幸いにも元の世界で、僕たちは霊が出そうなところは熟知している。これは他の冒険者達よりも間違いなく有利なんだ」

「つまり泰二先輩が詳しい、廃墟や心霊スポットですね」


 ◇ ◇ ◇


 二千華は霊を倒したことでレベルが急に上がった。

 この情報を元に、僕たちは心霊スポットでモンスターとして登場する霊を倒すことで一気にレベルを上げる方針を決めたのだった。

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