1.心霊スポットに行ったはずが異世界だった
大学の文学サークルに所属していたこの僕、立山泰二と、荒俣元基、清見詠美、松本二千華の4人。
僕たちは夜の心霊スポットを訪れた際に、全身黒づくめの女の霊を見てしまい、その瞬間に異世界に転移していた。
◇ ◇ ◇
サークルでオカルト好き勢はそれほど多くない中で、数少ない同好の士である僕たち4人は、共に行動することが多かった。
僕と元基、詠美が同い年で2回生、二千華が1歳年下で1回生にあたる。
僕はオカルトの中でもいわゆる心霊スポット好きに属する。不法侵入になるところへは入らないが、誰でも入れる開放された有名心霊スポットには行ったことがあった。
また廃墟関係や投稿系ホラーのDVDをよく観ているため、かなり知識は増えたと自負している。
あの日は僕の提案で、夜の心霊スポット探訪に向かっていた。関東地方でもとりわけ霊の目撃談が多い墓地だ。
墓地周辺の茂みに立っている、全身が真っ黒の服を着た、髪の長い女性の霊の姿を見た途端、僕たちは意識を失った。
◇ ◇ ◇
墓地で倒れたはずの僕が、再び目を覚ましたのは地面の上だった。墓地ではない。だが外だ。舗装されていない道の上に寝ている。時間帯はおそらく朝か。
周囲を見るとそこには元基、詠美、二千華の姿がある。他には誰もいない。
足元には紋章のようなものが土の上にそのまま描かれていたが、意味はわからない。オカルト儀式に詳しい二千華ならば何か知っているかもしれないが。
とにかく自分が置かれている状況を考えると、なんとなく予想が付いた。これが話に聞く異世界転移というものか。なぜそう思ったかというと、目の前に見える街が中世のたたずまいをしていたためである。
僕が目覚めたのが皮切りだったかのように、3人も目を覚まし始めた。意外なことに全員がなんとなく自らがどういった状況にあるのかを理解したようだ。
「ここは異世界だよね」
皆がうなずく。
なんだ、みんなそういうのはある程度詳しいのじゃないか。議論のためにはそれに必要な情報の共有が必要だ。全員が乗り遅れることなく事態に入り込めていると話が早くて助かる。
なぜ自分たちがこの世界に来たのか、元の世界には戻れるのか、その場合条件は何か、といった疑問がそれぞれの口から出されたが、もちろんここで答えなど出るはずがない。
道の真ん中で議論していても仕方がない。視線の先に見える街へ向かうことにした。
ちなみに二千華に地面の紋章について尋ねてみた。
「うーん、もっと紋章について調べておくべきでしたか…フリーメーソン…イルミナティ…」
ブツブツと呟いていたものの、何に関係するものかはわからなかったと見える。
◇ ◇ ◇
街までやってきた僕たち4人は情報収集を始めた。日本語が通じたり冒険者ギルドがあったりするのは予想していた通りだったが、実際にその恩恵にあずかれると涙が出そうになる。
そしてこの街の名前は「スカルアンドボーン」であることを知った。
ギルドの店員にレベルや職業の概念について説明してもらい、冒険者として登録の段取りもしてもらった。
この世界には冒険者互助会があるらしく、新米を応援する活動もしているらしい。そのため新規登録者にはこの世界で使える通貨である「ゴールド」が支給されたのもありがたかった。これで衣食住はしばらくなんとかなりそうだ。
皆で説明を聞いたので、今後の目指す方向について話し合う。
「やはりレベルを上げることが必要だと思う。それによっていろいろなところに行けば、元の世界に帰る方法もわかるんじゃないだろうか」
とにかく僕の思っていることを主張してみる。
「異議なし。RPGでもレベル上げ、最近はレベリングって言うんだが、これは基本だからな。皆でレベルを上げて早く帰ろう。」
元基が同意してくれる。ホラー映画を観るのが好きなのが元基だ。リーダーシップを取るタイプではないが細かいことには気がつく性格だ。
「冒険者としてやっていくのは仕方ないと思うけど、どうやってレベルを上げていけばいいのかな。例えば戦うのに向かない職業になる可能性もあるわけだし、モンスターを倒そうとしたら逆にこっちが死んじゃうこともあるでしょ」
詠美はやはり不安そうだ。彼女は元基と付き合っており、その影響でサークルに入った。読む小説は文学系や恋愛もの中心だがホラーも守備範囲内。
「まずは自分たちがどの職業になったかの確認が必要ですね。さっきの説明だと目に力を込めたらレベルも職業も含めたステータスが見えるそうじゃないですか。やってみませんか」
二千華が建設的な発言だ。ボブカットが似合っている。彼女はフェノメノン路線、つまり不思議な現象全般が好きだそうで、そういった雑誌を部室で読んでいるのを見たことがあるし、流行りのオカルト儀式にも手を出すことがあると聞いた。
それぞれの職業を見た結果、僕は『魔術師』、元基は『兵士』、詠美は『僧侶』、二千華は『狂信者』となっていた。
「なんだよ二千華の狂信者って。誰の信者なんだよ。どういう特技があるんだよ」
元基が疑問に思ったことをストレートに言う。
しかし当の二千華はニヤリとしている。
「狂信者ですか…個人の資質によって職業が決まったりするものなのかも…?」
ブツブツ言い出した。
普段は真面目に敬語で喋る二千華だが、独り言の際や僕と2人で話しているときはもう少し砕けた喋り方になることが多い。僕はなめられているのかもしれないが、彼女と話していても嫌な感じはせずむしろ心地よい。
「あと、剣の素振りをしたり、魔法の本読んで勉強したりするだけでも経験値は入ってくるって話だったね。となると必ずしもモンスターを倒したり依頼をこなしたりしなくても、時間さえかけられればレベルは上がるっていうことか」
僕がいったんまとめてみた。
「ずっと4人で一緒というのもなんだし、実際に依頼をこなすときは4人一緒で行くのは賛成だけど、普段はそれぞれ生活の場が必要だと思うの」
詠美が主張する。
特にそれには反対する意見もなく、プライベートは尊重する方向となった。もっとも付き合っている元基と詠美がどのように過ごすかはなんとなく予想が付いたが。
それぞれが支給されたゴールドでこの日以降の宿を取り、ひとまず3日後に再びギルドに集合することに決定した。
3日後までに各自がレベリング、情報収集、装備の買いそろえなどを行うこととし、3日経つ前に連絡を取りたいときはギルドに取り次いでもらう段取りとなった。
◇ ◇ ◇
2日後に僕がギルドに行くと、二千華からの伝言があることを受付に教えてもらった。
『私、レベル上げの裏技を思いつきました。これにはきっと泰二先輩が必要になりますから、楽しみにしていてください』
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