模擬戦
「今日は連携戦闘の訓練をしますよー!隣の席の人と組んでもらいますからしっかり話し合ってくださいねー。」
担当のリヴィア先生から今日の日程が伝えられる。
入学から数日、何かとライラに振り回されること以外は割と平和な学園生活を送っていた。
「ガルシア君、今日はよろしく!」
「…よろしく。」
隣の席のガルシア君は狼の獣人の男の子だ、長身で強面だから怖い印象だけれど
実は人見知りなだけで話してみるととても優しくて良い人だった。
「ガルシア君は槍が得意なんだよね、僕も片手剣の前衛だから距離の詰め方の連携を重視した方が良いかな」
「…ああ。」
訓練に向けてお互いの戦い方を確認していく。
誰かと一緒に戦うというのは初めてだからちょっと緊張するな…。
そして、連携戦闘の訓練が始まった。
「それじゃあ訓練を始めます!と言っても初めてですので先ずはお互いの実力を測るためにタッグ戦をしてもらいます!対戦相手は私が独断と偏見で決めてます♪」
てっきり先生相手の訓練だと思っていたのに予想外だ。
「ではこの模擬戦用の魔法具を付けてください、これをお互いに付けた状態であればケガをすることはありません。」
そう言って先生は腕輪型の魔法具を配っていく。
それから呼ばれた順にタッグ戦が始まった。
皆それぞれの特色を活かした戦いをしており、見ているだけで勉強になる。
特に見応えがあったのがティアナさん達だった。
ペアの子と完ぺきな連携で一切近寄らせることなく勝利していた、もし僕たちの対戦相手だったらと考えるとなかなか厳しいかもしれない…。
「それじゃあ次はセイ君、ガルシア君ペア!」
そんなことを考えていたら僕たちの番になった、対戦相手は誰だろう。
「それからライラさん、ミィナさんペアです!」
よりにもよってライラ達が相手か、ペアの子は確か水系の魔法が得意だったはず…。
「…セイ。」
「うん、相性は最悪だね…。」
「…出し惜しみは。」
「したら負けるね。」
学年最強と言っても過言じゃない雷系のライラと水系のミィナさん、対して僕らはほとんど魔法は使えない、距離を詰めるどころか初動で負ける可能性だってある。
「じゃあ各自準備してください!」
お互いに位置につきてリヴィア先生の合図を待つ。
「では…始め!」
「くっ…!」
合図と同時、ライラから放たれた紫電が轟音と共に襲い掛かる。
僕たちは咄嗟に別々の方向へ飛退き、そのままの勢いで走り出す。
「手加減なんてしないんだから…!」
これでもかと容赦なく雷撃を放ってくるライラ、というか二方向同時に撃てるのずるくない!?
僕もガルシア君も回避で精一杯だ、それにミィナさんが何もしてこないのも気になる。
(少しでも距離を詰めないと…!)
回避を続けながらも少しずつ近づいていく。
流石に二人同時に狙うのは精度が落ちるのか、回避しつつもなんとか距離を詰めることができていた。
(もう少し…!)
あと数歩で攻撃が届く距離に入る、踏み込む足に力を籠める。
その時、足元に違和感を感じた。
そして、ライラが少し笑ってる様に見えて…。
地面が爆発した。
正確には地面から雷撃が突き上げるように襲ってきたのだ。
衝撃で吹き飛ばされて地面を転がりながらも何とか直撃は免れた。
よく見るとライラの周囲は所々湿っているように見える。
(そういうことか…!)
きっとミィナさんが地中に水魔法を使って雷撃の通り道を作っていたのだろう。
「まさか躱されると思わなかったけど…これで終わり!」
完全に動きが止まった僕に向かってライラが手を向けてくる。
ガルシア君が反対側から攻めようとしてくれているが、ミィナさんが魔法でけん制している。
そして、無慈悲に放たれた雷撃は僕に向かって直撃
しなかった。
「なっ!?…逃がさない!」
激しい土煙を飛び出した僕を見て驚くライラだったが、すぐに追撃を仕掛けてくる。
今度は僕だけに狙いを集中している分、狙いも正確で攻撃間隔も早い。
近づこうとすれば地面からの不意打ちにも気を配らなければいけない。
横方向の回避に専念しないと、これは近づくは難しそうだ。
ライラの手の動きに集中しながら回避を続ける。
手の向きから予測し、飛退きながら転がり、土煙を利用して狙いを反らす。
やはり近づくのは難しい。
ライラには。
短い攻撃間隔の合間を縫って少しだけ距離を詰める。
そして、地面と正面からの同時攻撃によってひと際大きな土煙が上がった。
(今だ…!)
僕は一気に飛び込んだ。
ミィナさんとガルシア君の間に。
そう、何度も回避を繰り返しながら、少しずつミィナさんの方に近づいていたのだ。
「えぇっ!?」
ミィナさんは驚きながらも僕に水魔法を放ってくる。
僕はそれを下から斜め上に、剣で斬り上げるようにして向きを反らした。
この絶好のタイミングで、ガルシア君が飛び出してミィナさんを槍で薙ぎ払う。
ミィナさんはそのまま背後のライラを巻き込んで倒れる。
「行くよ!」
僕はガルシア君に向かって声を掛けながら全力で走り込んでいく。
(流石…!)
ガルシア君はすぐに振り返って両手を足場を作るように組んで待ち構えてくれる。
僕は躊躇なく飛び込み、ガルシア君は合わせるように足を押し上げてくれる。
ライラは体制を崩しながらも地面の罠を使って攻撃してくるが
それすら飛び越え、一気に距離を詰めて二人まとめて斬りつけた。
「はい、そこまで!セイ君ガルシア君ペアの勝利!」