最初の戦い
セイ視点の回想からです。
咆哮を上げながら向かってくる巨体に向かって
僕は地面に倒れこみそうなほど姿勢を低くしながら走り込んだ。
ソイツはその鋭利な足で突き刺すようにして攻撃してくる。
一回でもまともに受けたら致命傷だ。
辛うじて躱しても、地面を揺らす衝撃だけで身体のバランスを崩しそうになる。
避けて避けて、体力の続く限りとにかく時間を稼ぐ。
しかし、そんな無理が長く続くわけもなく
ひと際重い一撃の衝撃で抉れた地面と共に凍った湖面に吹き飛ばされてしまう。
握っていた剣も飛ばされた勢いで手放してしまった。
(もう少し…時間を…!)
ふと、足の付け根に突き刺さったままの兄さんの剣が目に留まった。
意を決してもう一度、凍った地面を蹴りつけ、走り込む。
懐に入る直前で身体を反らして滑り込んで攻撃を躱す。
地面を揺らす衝撃を利用して飛び上がった。
狙いは…。
(兄さんの剣…!)
突き刺さった剣の柄に右手を伸ばし、もう少しで届くと思ったその時。
何かが僕の右腕を切り飛ばした。
それは鎌のような形状をした尻尾だった。
必死過ぎて興奮していたからだろうか。
利き腕を失ったというのに痛みを感じない。
噴き出した血が顔にかかり視界も悪い中、思考は冷静だった。
空中で身体を捻り、左腕で脚に付けていた短剣を抜く。
ライラのくれた、雷撃付きの短剣。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
身体を回転させながら、突き刺さった剣に向かって叩きつけた。
付与された魔法が発動する。
眩い閃光と轟音。
衝撃で吹き飛ばされて氷の砕けた湖面に落ちていく…。
最後に見えたのは黒焦げになって煙を上げている巨体だった。
「んで、目が覚めたら数年経ってたんだよ。いやぁ、びっくりだよね!」
「びっくりだよね!じゃないわよ!!!無事ならもっと早く…!というか右腕!しかもなんで入学してるの!?あーもう!聞きたいことが多すぎて頭が混乱してきた!」
すっかり成長したライラが僕の襟首を掴んで揺らしながら質問攻めにしてくる。
目が覚めたのは王都の病院だった、倒れたところを偶々見つけられて運ばれたらしい。
それから色んな人達にお世話になりつつ、あれよあれよという間に入学試験に合格し、今に至る。
フリーティリア王国。
大陸西側に位置するこの国は中規模国家であるが、魔蟲が多く生息する森林地帯に面しており、人類防衛の要として、周辺諸国から厚い支援を受けている。
とはいえ、戦時と言っても過言ではない状況が長く続けば男手は減ってしまう。
例え片腕であっても何かと重宝されるのだ。
騎士。
種族、性別、レベル問わず戦う力があると認められた者は騎士の称号を与えられてギルドに登録される。
ギルドからの依頼をこなして報酬を受け、強さや活動の評価に応じて階級が与えられ、高ければ高いほど優遇される。
騎士予備学園を卒業するとD級としての待遇を得られる為、志願者は多いのだと言う。
「ちょっと!聞いてるの!?」
この数年で変わったんだなぁと物思いにふけっていると、またライラが詰め寄ってきた。
というか近い…。色々と成長して大きくなったライラの整った顔を直視できず、目を反らしてしまう。
これじゃまるで僕が弟だな…。
「えーっと、こちらの可愛らしい殿方はライラさんのお知り合いですの?」
近くで様子を見ていたらしい女の子が声を掛けてきた。
金髪に特徴的な赤い瞳、魔族系統の子だろうか?初めて見るけど凄く綺麗な色だなぁ…。
つい物珍しさもあってまじまじと見つめてしまった。
「あ、ティアナさん。そう、セイ君は私の幼馴染よ。」
何嘘をついてるんだ?
「え。いや…」
「………」
怖い怖い怖い怖い!物凄い笑顔でこっち見てる。
こうして僕の学園生活は始まった。