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第九十一話 幕間~トライアングル・ハート 前編

「あ、そうだセッテ、お前に言ってない事があった」

 ある日の昼下がり、武器鍛冶屋アルファスの店にて。不意にアルファスがそう切り出してきた。

「? 何ですか?」

「俺とフロウ、昨日結婚したから」

「へえ、そうなんですか」

 普通のテンションで普通に切り出された。――結婚。アルファスさんとフロウさんが結婚。あれ? 結婚……?

「ってえええええ!? ちょっと待って下さい、何で急にそうなるんですか!?」

「お前がフロウとの事はちゃんと報告しろって言っただろ」

「確かに言いましたけど突然だし大事だし急だし! フロウさん来たのだって」

「まあ、運命って奴だろ」

 ガーン、という重低音がセッテの心に響き渡る。――運命。運命? 違う、運命を持っているのは私の方で!

「私の、私の気持ちはどうなるんです!? アルファスさんだって知ってたでしょう、どれだけ私がアルファスさんの事を想ってるか!」

「まあな、それに関しては俺も思うことがある。というわけで、こんな物を用意した」

 ぐい、とアルファスが奥から何かを引っ張る。すると、

「やあセッテ君」

「国王様?」

 何故かハインハウルス国王・ヨゼルドが店の奥から出てきた。――え、いつから居たんだろう。

「お前の新しい人生として、国王の側室っていう枠を用意して貰った。俺のコネだぞ」

「セッテ君の様な美人さんなら私は大歓迎だ」

「ええええええ!?」

 私の気持ちを想ってくれた結果がこれ!? 国王様の側室!? というか何で国王様もオッケーなんです!?

「違います、私は急いで誰かと結婚したいわけじゃなくて、あくまでアルファスさんと――」

「おう、というわけでさっさと連れてってくれこいつ」

「任せなさい。さあセッテ君、一緒にお城へ行こう。むふふのふ」

「ちょ、待っ、離して下さい! アルファスさん、私は――」



「あの時からずっとアルファスさんの事が!」

 ガバッ!――急いで起きるとそこは見慣れた部屋、自分の寝室。

「あれ……もしかして、夢……?」

 時刻も昼下がりではなく早朝。カーテンを開け、朝日を浴び、軽く自分の頬を叩いてみる。――やはり先程までの光景は夢だったらしい。ふぅ、と安堵の息が漏れる。

「……でも、油断は出来ないんですよね」

 突然アルファスの元に弟子入りし、居候を許可されたフロウ。独特な空気感を持っていたが、見た目は女性のセッテから見ても小柄で可愛らしい顔立ちをしていた。そんな女性と一つ屋根の下。いつ自分を差し置いてハプニングが起きるか、さっき見た夢が現実になるかわからない。

「そんなのを認めるわけにはいきません! むふふのふなんて私はいらないんです! というかむふふのふって何ですか! それでも国王ですかもう!」

 謎のとばっちりツッコミをヨゼルドに浴びせつつ、セッテは決意を新たにする。

「負けませんよフロウさん! アルファスさんのお嫁さんになるのは、私なんですから!」



「おはようございます!」

 バァン、と勢いよくアルファスの店のドアを開け、セッテは登場する。

「おはようございます」

「うす。――どうした、開店前じゃねえか」

 律儀に挨拶するフロウと、来る時間を疑問に思うアルファス。――時刻は開店三十分前。セッテの登場時間は大体が開店直後位であった。

「フロウさんに、先輩としてこのお店の事をちゃんと教えてあげようと思いましてね!」

 流石に昨日私が帰った後何してましたか、何もしてませんよね、証拠を出しなさい、とは訊けないセッテ(実は訊きたい)。

「お前はこの店の何なんだ……一応店長は俺で、お前従業員じゃねえんだぞ」

 呆れ顔のアルファス。

「心配をかけてすまない。精進して、一日でも早くセッテが来なくてもいい様に私は務める」

 そしてセッテの申し出を真摯に受け取るフロウ。――ああ、その真剣な眼差しが痛いですフロウさん。私の邪な気持ちが……いやいや負けられません! 私が来れなくなったら駄目です!

「まあいいわ。俺それじゃ工房の支度すっから、フロウは売り場の掃除とかしててくれ」

 そう言い残し奥へ消えるアルファス。

「では私はアルファスさんのお手伝いを」

 後に続くセッテ。

「そうか、店長の手伝いをすればいいのか」

 その後に続くフロウ。

「――って何で二人共俺の後について来るんだよ!」

「アルファスさんの傍にセッテありです」

「セッテの動きを見習えば店長の助けになると」

「お前が原因じゃねえか! 高らかに宣言したならフロウを惑わすな! フロウ、工房に関しては後で少しずつ教えてやっから今は店の支度してくれ」

「わかった」

「あうぅ!」

 素直に売り場に戻るフロウと、首根っこを掴まれ、アルファスに引きずられていくセッテなのだった。



「……客の入りって、毎日こんな感じなのか?」

「ええ、まあそうですね」

 フロウの疑問に、嘘をつくわけにもいかないのでセッテは素直に返事。――開店して一時間程経過したが、客はまだ一人もいない。

「近くにデイモンド商会がありますから、そっちにどうしても行っちゃいます。デイモンド商会自体が変なお店なわけでもないですし」

 大きく有名なお店のそう遠くない位置に、こじんまりと構えるアルファスの店。中々客は流れてはこない。

「まあでも、店長の武器を中途半端な人間に出回らせても問題になるかもな。中級者位なら、デイモンド商会に行くのを私でも勧める」

 フロウは何本か店の武器を手に取りながら自分の意見を述べる。

「フロウさんから見て、アルファスさんの武器ってどの位凄いんです?」

「元々私が流れ者の剣士だったのは話したな? 各地を回って、彼以上の鍛冶師を見た事がない。例えば店長の武器が量産されたとしたら、世の中の戦局が変わるだろうな。まあ、店長一人で作ってるから不可能な話ではあるが」

「へえ……」

「剣士でもないのにその店長に刮目しているセッテは正直凄いと思う。よく見つけたものだ」

「ふふ、まあアルファスさんあっての私ですし」

 アルファスも自分も褒められて、悪い気はしないセッテだった。

(……にしても)

 実際フロウとアルファスは何があって今に至ったんだろう、という率直な疑問がセッテには浮かぶ。先日の店のやり取りだけで弟子入りしたいは客観的に見ても流石にないだろう。フロウの太刀をアルファスが折ってしまった、とも言っていた。

 人を認めるハードルが高いアルファスが認めてる辺り、フロウもかなりの実力者である事がセッテにも推測出来る。一体何があったのか気になるが、何となく訊けない、ある意味勘の鋭いセッテであった。

「まあでも、アルファスさんも生活の為じゃなくて趣味というか自分の目的の為にこのお店をやってるって言ってますし、特別繁盛しなくてもいいみたいです。それに」

「ごめん下さい」

「ちゃんと常連さんはいらっしゃいますし、ね」

 ドアが開いて、入って来たのは使用人服のリバールだった。

「エカテリス王女様のお付きのリバールさんです」

「新しい従業員の方ですか? 初めまして、リバールといいます」

「フロウという」

 その挨拶の直後、数秒間お互いの目を見るフロウとリバール。

「……ふふっ」「……成程」

「え?」

 そして、お互い納得した様な表情を見せる。意味がわからないセッテはお互いを交互に見る。

「あのアルファスさんが人を雇うなんて、とは思いましたが、流石一筋縄ではいかない方の様ですね」

「王女付きのメイドがどうしてこの店に、と思ったが、その見た目とは裏腹にここに足を運ぶだけの事はありそうだ」

 要は、空気感だけで、お互いがお互いの実力の高さを見抜いたのである。セッテとしては意味が浸透すると感心するばかり。

「この時間に客は珍しいと思ったらリバールか」

 と、やり取りに気付いたアルファスが奥から出てくる。

「こんにちは。メンテナンスをお願いしたくて」

 そう言うと、リバールは愛用の短剣二刀流を差し出す。アルファスはそれを受け取り、鞘から取り出し、刃を見定める。

「ふむ、今回は結構使い込んだんだな。ちょっと深く弄った方がいいけど、お前のそれは俺が作った奴じゃねえ。俺が少し手を入れても大丈夫か?」

「はい、アルファスさんの腕でしたら構いません」

「そっか」

 アルファスはその返事を聞くと短剣を鞘に戻す。

「了解だ、明日までには出来る。代用品はいるか?」

「お借り出来ると助かります」

「フロウ、あの棚の下から二番目に入ってる二刀流短剣、渡してやってくれ」

 指示の通りに引き出しを開けると、アルファス作であろう、クオリティの高い短剣二刀流が出てくる。

「……流石だ」

 つい漏れるようにフロウは感想を小声で口にしてしまう。

「私もそう思います。ですから、安心してお願い出来るんです」

 聞こえていたか、リバールも同意。フロウはリバールにその短剣を手渡すと、何処へともなくリバールはそれを仕舞う。

「それでは、宜しくお願いします」

 そしてそう告げると、店を後にした。

「成程、王国御用達、国家に関わる超一流は店長の腕を知っていて、足を運ぶわけか」

「はい。勿論、アルファスさんが認めないとどれだけ凄くても見てあげませんけどね」

「人間的にアウトな奴に武器作る程俺は腐っちゃいねえからな。……まあ、個性的な奴は多いが」

 思い浮かべても、自分が請け負う相手は一癖も二癖もある人間が並んだ。今来たリバールは元忍者の王女溺愛者だし、他にもパッと思い浮かぶのは掴み所のないやる気が見られない奴、戦闘になると性格が豹変する奴、最近は人間じゃない奴まで客に増えた。――ちょっと待て、寧ろ普通の奴の方が少ない。

「…………」

「アルファスさん?」

「なあセッテ、俺って変か?」

「私にとって世界一ですけどそれが何か?」

 ああそうか、客じゃない奴も変なのしか周りにいねえや。――諦めが速いアルファスだった。

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