表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/383

第七十八話 幕間~浪漫輝くカスタム計画

 勇者の花嫁騒動から数日経過したある日。――コンコン。

「どうぞ、開いてますよ」

 魔具工具室の部屋のドアがノックされ、サラフォンは返事。――警戒なく対応するのは、訪ねてくるのはほぼ知り合いしかいないのでサラフォンも緊張しないからである。

「失礼致しますぞ」

 ガチャッ。――ドアを開け、入ってきたのはニロフ。案の定、知り合いというか、ライト騎士団の仲間の一人であった。

「ニロフさん、いらっしゃい。――どうしたんです?」

「実はサラフォン殿に相談がありましてな」

「ボクに?」

「ええ。まずは、これを見て頂きたい」

 パチン。――ニロフが指を鳴らすと、

「ハァイ」

 魔法陣が生まれ、そこから勇者花嫁騒動で活躍(?)したクッキー君が登場した。

「あ、噂には聞きました、この子がクッキーくんですよね」

「ええ。実は、これを改良したいと思ってましてな」

「改良?」

「正確には、もっと格好良くしたいと。そこで、魔具制作、及びデザインのセンスに優れるサラフォン殿にアドバイスをと思いまして」

「格好良く、かあ……」

 うーん、とサラフォンがクッキー君をマジマジと観察。

「イャン」

 恥じらうクッキー君だが、スイッチが入って来たらしいサラフォンには届かない。

「とりあえず、ボクが作ってる銃を持たせてみます?」

 変わりにクッキー君に届けられたのは、片手で引き金、片手で銃身を支える、連射式の銃。

「カ・イ・カ・ン」

 謎の言葉を放ちつつ、クッキー君も撃つ真似をして構えてみる。

「ふむ。何と言うか、時代の最先端を行くような気がするフォルムですな。格好良い」

「あっ、やっぱりニロフさんはわかってくれますか?」

「ええ。浪漫を感じます」

「浪漫……! そう、そうなんです、浪漫なんです!」

 サラフォンの目が光る。――ニロフお気に入りの仮面は、サラフォン作である。その辺りのセンスは通じる物がある様子。

「ライトくんもこの浪漫をわかってくれるんだけど……でも、中々他の人には通じなくて」

「まあ、浪漫も人それぞれですからなあ。――そうだ、いっその事団員の浪漫を詰め込んでみるというのはどうでしょう?」

「皆の浪漫を?」

「それぞれの浪漫を取り入れたら、サラフォン殿の浪漫も理解して貰えるやもしれませぬ。クッキー君がその架け橋となるのです」

「そっか……そうかもね、相手の事も理解して、初めて自分の浪漫も伝わる! ニロフさん、皆に訊きに行きましょう!」

 かくして、サラフォンとニロフによる、クッキー君浪漫カスタム化計画が始まったのであった。



「浪漫、ですか……」

 それぞれの浪漫を取り入れようアンケート、一人目、ソフィ。

「コンバット! リロード! ファイア!」

 ちなみにクッキー君は銃を持ったままほふく前進中。

「私は戦闘、装備に浪漫、拘りはないのですけど……あ、少し待って下さい……ええ、うん……」

 ソフィは考える様子を見せながら一人で相槌。サラフォンが頭上に「?」マークを浮かべていると。

「「アタシ」がアピールしてきました。巨大武器での戦闘が浪漫、って言ってます」

「おおソフィ殿、狂人化バーサークのコントロールが出来るように?」

「以前に比べたら、多少の意思疎通が出来るようになったんです。勿論まだまだ自由には行きませんが、場合によってはこうやって私のままコンタクトを取る事も出来るようになって」

 偽勇者騒動の時に直接対話して以来、少しずつであるがソフィはコントロールが出来るようになってきていた。抑え込むのではなく、シチュエーション次第でしっかりと任せる、という想いもあるせいかもしれない。

「えーっと……巨大武器、っていうと、ソフィさんの斧なんかよりももっと大きい感じです?」

「ええ。身の丈を越える大剣、斧を軽々と振り回し、圧倒的迫力破壊力で突き進むのが「アタシ」の浪漫みたい」

「ニロフさん、クッキーくんはそういう大きい武器、持てるかな?」

「持つ事は可能ですが、扱うとなるとまた別ですな。身長が足りませぬ」

 クッキー君の身長は案外小さく、百六十センチ程であった。

「素材をもっとつけて大きくする事って出来ないかな? 魔力の供給が必要なら、リュック型の供給機を背負わせれば」

「ふむ、供給機という考えは我にはなかったですな、流石です。確かにそれなら巨大化も可能やもしれませぬ」

「巨大化……! 何か、響きが格好いいです! 鋼鉄のボディ、圧倒的存在感、響き渡る金属音!」

「巨大ゴーレムも浪漫ですなあ」

「はい! ソフィさんありがとうございます、いい意見が聞けました!」

 そう笑顔でお礼を言うと、サラフォンとニロフは次の人の所へと向かうのであった。

「…………」

 …………。

「……私、クッキー君自体の巨大化が浪漫って、言ったかしら? 武器は……?」



「成程、クッキー君に浪漫を……」

 浪漫取り入れようアンケート、二人目、リバール。

「ビッグボーイ! ビックボディ!」

 ちなみにクッキー君はマッスルポーズでひたすら巨大化した時のイメージを膨らませている様子。

「ちなみに、姫君関連はややこしくなるのでそれ以外でお願いしたい」

「ご安心下さい、姫様は浪漫などという言葉では片付けられない、私の中でこの世の神秘ですので。姫様のはにかんだ笑顔だけで、白米三杯は食べられます」

「す、凄い……! リバールさんのスタイルの良さは、そこにあったんですね……!」

 ライトもしくはハルがいたら、感心してる場合じゃない、と多大なるツッコミが入っただろう。

「さて、浪漫……とは違いますし、私の姫様関連の行動力レベルに達する人間はそういないと思いますが、いざ、という時の食糧及び食事事情を大切に出来ると素敵というか、ありがたいですね。戦場に赴いている時は特に」

「大事な意見ですな。我は食料を頂かなくても活動出来ますが、他の皆様はそうはいきませぬ」

「それなら、クッキーくんに皆が安心して出先でご飯が食べられるようにしてもらいましょう! 安心してご飯……安心……ニロフさん、写真って用意出来る?」

「出来ますぞ」

 この世界の写真は、魔力をカメラ式の道具に込めて使うのだが、中々コツが必要で、誰もかれもが扱える物ではなかった。

「良かった! リバールさんの意見を参考に、一番安心出来るのはやっぱり――」



「僕の浪漫?」

 アンケート三人目、マーク。

「シャッターチャンス! カモン! ゴハン! カモン!」

 ちなみにクッキー君はスプーンで食事をしつつそのスプーンでカメラのシャッターを押そうとしていた。非常に行儀が悪い。

「えーと、話を聞く限りだと、浪漫というより、クッキー君のパワーアップ的な意図が込められてますよね?」

「ええ。我々はその兼用を目指しております」

「でしたら、浪漫とは違いますが、空間認知能力を強化してみてはどうです? 偵察先の地形把握等で使い易くなるでしょう。サラフォンさんが得意ですから、その辺りのノウハウがクッキー君も使えるようになれば大分違うのでは」

「さ、流石、マークさんは意見がこう……勉強出来る人、みたいな感じで凄いです! 確かにクッキー君には知性が感じ難い所があるかも」

「差し当たって眼鏡をつけさせましょうか。イメージが大分変りますぞ」

「それだ! ニロフさん流石! クッキーくんこれかけて!」

 何処からともなく眼鏡を取り出し、サラフォンはクッキー君にかけさせる。

「大分良くなったけどあと一押し欲しいなあ……」

「なら眼鏡にギミックを追加してみたらいかがでしょう」

「それだ! ニロフさん流石! この眼鏡から魔力を使ってビーム出そう! 隠し技は浪漫ですよね!」

「いっその事目を光る仕様にしますか」

「破壊光線! 凄いパワーアップだよクッキーくん……! マークさんありがとうございました、マークさんの浪漫、凄い参考になりました!」

「え、いや、僕の浪漫は何処にも……ええ……」

 否定する暇もなく、サラフォンとニロフは次の人の所へと向かうのであった。



「浪漫ねえ」

 アンケート四人目、レナ。

「ビィィィィム!」

 ちなみにクッキー君は直射型ライトを目に当ててまるで目が光っている様に……見せたいらしい。

「浪漫というかなんというか、私の理想は全自動かな」

「全自動?」

「寝っ転がってて本人が動かないでも何でも勝手に道具とか装置とかそういうのが動いてくれる感じ。離れた所の火を操る位なら魔法で出来るんだけど、私炎以外の魔法はからきしだからさー。ちなみにニロフはそういうの出来るの?」

「我も主もどちらかと言えば戦闘寄りの能力持ちでしたからなあ。そういう生活に特化した魔法使いなら出来るやもしれませぬが。逆に言えば、攻撃はある程度オートも可能ですぞ。まあ、自分で撃った方が分かり易いし早いから我は使いませんが」

「でも、手数が多いのは格好良いです。ニロフさん、クッキーくんは自分で魔法を撃つ事は?」

「我が操縦していれば出来ますが、自動では無理ですなあ」

「手数欲しいなら、それこそサラフォンの武器の出番じゃないの? 沢山持たせたらいいじゃん」

「沢山持たせる……そうだニロフさん、手を増やしましょう! 手が四本、六本になればそれだけ何か持てるし使える! 特に今のままだと片手は絶対埋まっちゃうから必要です!」

「? 埋まる片手は何を? 燃料タンクですか?」

「レナさんの浪漫を叶える為に寝っ転がる時の枕を手で」

「え、ちょ、別にクッキー君に楽して貰っても嬉しくない、私自身が楽したいだけで――」

「ありがとうございましたレナさん、参考になりました! ニロフさん行きましょう、最後の仕上げです!」

「了解ですぞ」

 こうして、意気揚々と二人はレナの所を後にするのであった。

「…………」

 …………。

「……何か、嫌な予感するけど、まあ私のせいじゃあるまい。知らなかった事にしよう」



「見せたい物?」

「そう! ハルに完成品を見て貰って、それで判断して貰おうと思って」

 そして翌日。クッキー君の改良に成功したサラフォンは、ハルに改良後のクッキー君を品定めして貰う為に魔具工具室へと案内していた。

(珍しいわ……いつも勝手に作って勝手に完成させてるのに、私の判断を仰ぐなんて……どういう風の吹き回しかしら)

 成長の証……と思いたいが、何か嫌な予感がするハルがいたり。――と、そんな考察をしていると、サラフォンがドアを開け、手招き。そのまま入ると――

「ハァイ」

「ええええええ!?」

 そこには全長二メートル半になり、腕が六本になったクッキー君が、一本腕を枕に寝っ転がっていた。

「じゃーん! これがボクとニロフさんが改良したクッキーくん、名付けてクッキーくん浪漫カスタムだよ! 皆の浪漫を参考にパワーアップ!」

「……待って、ちょっと待って、一つずつ整理させて」

 あまりにもツッコミ所が多すぎて、ハルは頭を抱えた。

「まず、改良で大きくなった、というのは想像つくわ。色々加えた結果、動力も魔力供給も足りなくなる結果でしょう。腕が六本になったのも効率能率を求めた結果」

「流石ハル!」

「問題は次から。――まず、どうして寝てるの? 休日の働かない父親みたいなポーズだけど」

「レナさんのリクエストだよ。楽したいって」

「クッキー君が楽してどうするのよ……巨大化までさせておいて動かないんじゃ何の意味があるのよ……」

「寝返りはうてます」

「そういう問題じゃなくて!」

 クッキー君は二本目の腕でポリポリ、とお腹をかいていた。ますます動かないポーズである。

「次。眼鏡必要?」

「マークさん見てたら、賢い感じが欲しくなって」

「いらないわよ……実際賢くなったなら兎も角、そんなのかけなくても視界は良好でしょう……?」

「外すと自動で目が光るよ?」

「ああ、ならつけてないと……って何で自動で点くのよ! そこは手動にしなさい!」

 試してクッキー君が眼鏡を外すと、結構な勢いで目が光った。眩しい。

「……次。三本目の腕で食事をしてるのは?」

 クッキー君の前には皿、その上には簡単な食事が置いてあり、三本目の腕でフォークを持って食事をしていた(クッキー君は食事は必要ない)。  

「リバールさんが、王女様を思い浮かべただけで白米三杯は行けるって。それだけ食べてもあのプロポーション、凄いよね」

「ああ、確かに先輩は王女様絡みになると常識では測れない……じゃなくて! それでどうしてクッキー君がご飯食べるのよ!?」

「安心してご飯が出先でも食べられるといいね、って思って。他の人が美味しそうに食べてたら、食欲も沸くでしょ?」

「そうかもしれないけど……」

 そうかもしれないけどそれがクッキー君では、という言葉を言う気力も若干失せるハル。……だが。

「あと、リバールさんの王女様パワーを再現する為に、クッキーくんにはハルを好きになって貰おうと思って。ボクもハルがいてくれるのが一番安心するし」

「……は?」

 更なる追い打ちが襲ってくる。――え、何、私で安心?

「差し当たっては、ニロフさんにハルの写真集を作って貰ったよ。ボクがハルの写真なら沢山持ってたからいいのが出来たって」

「はい!?」

 ハッとして見て見ると、

「ビューティフォー」

 四本目と五本目の腕で、クッキー君はハルの写真集を嬉しそうに(?)眺めていた。

「ちょっちょっちょっ! 中身、どうなってるの!?」

「子供の時のハルとか、仕事してるハルとか、私服のハルとか」

 バッ、と取り上げて見て見ると、確かに色々な自分の写真が掲載されていた。幼少期、城勤めになる前の写真も確かに幼馴染のサラフォンなら持っていた。しかも実際に売られてもいいような丁寧な作り。

「一番の目玉は、去年の夏一緒に里帰りした時に海に行った時に撮った水着の写真かなあ」

「わーわーわー!?」

 ページをめくっていくと本当に出てきた。本人としては恥ずかしいことこの上ない。

「駄目、これは駄目! 没収!」

「ハルだってリバールさんに負けない位綺麗だから全然恥ずかしくないのに」

「私が恥ずかしいの! 兎に角駄目! 他の人には見せてない!?」

「見せてない……けど、もう一冊用意してあって、ライトくんにあげる予定だよ? ニロフさんが、ライトくんは絶対喜ぶって」

「なっ――」

 コンコン、ガチャッ。

「サラフォン、お疲れ様。なんか俺に見せたい物があるって――」

「駄目ー!」

 ドドドドドドドカッ!

「ぶはぁっ!」

 ハル、突貫。部屋に入って来たライトに向かって突貫。何の身構えもなかったライト、そのまま吹き飛ぶ。

「――ってライト様!? 大丈夫ですか!? 申し訳ございません!」

「成程……サラフォンは、俺に、ハルの新しい必殺技を見せたくて……ガクッ」

「違います! 違うんです、しっかりしてください、ライト様!」


 …………。


「――というわけで、全て元に戻しなさい。そして反省しなさい」

「はい」

「はい」

「メンゴ」

 結果、説教を喰らい、正座させられるサラフォン、ニロフ、クッキー君。そして、

「……どうしてハルも一緒に正座してるの?」

「私もライト様を事故とは言え吹き飛ばした時点で大きく反省なの!」

 一緒に正座して反省するハルがいたり。

 かくして、クッキー君浪漫カスタム化、めでたく中止。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ