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第七十一話 演者勇者の結婚行進曲4

「本当に、申し訳ありませんでした」

 場所は移り、ミコトが暮らす社の居住所内の一室。ライトはクッキー君納屋爆破に関して、あらためて謝罪。頭を下げた。

「上の方に言って、全責任を持って建て直しをして貰いますので……」

「もう、何度も謝らなくても大丈夫ですよ。わざとじゃないのはわかりましたから」

 ミコトは苦笑してライトを止める。実際ライトはここに来るまで謝ることしか出来なかったのでひたすら謝っていた。

「それに、元々あの納屋は古くて、近い内に取り壊しを検討していましたし」

「そう言って貰えると助かります……」

 ちなみに現場ではクッキー君が自動に戻り、大きな瓦礫等を片付けている。

「あ、いっその事古くていくつか壊して欲しい建物があるんですけど、お願いしようかな。私がこの街から居なくなったら頼み辛くなるし」

 あそこ、ここ……とミコトは指折り考えている様子。ハッとライトは本来の任務を思い出す。

「結婚、なさるんですね」

「ふふっ、変な事訊くんですね、兵士さん――あ、お名前伺ってもいいですか?」

「ライトです」

「ライトさんは、どうしてこの街にわざわざ来たんですか?」

「俺が勇者様の部隊に関連する兵士で……今回、勇者様が結婚なさる方とお会いするから、です」

「それが私。栄光ある勇者様と結婚するのを、拒む理由がありますか?」

 笑顔でそう告げるミコト。その笑顔には若干の無理と、自虐が見て取れた。

「……こっそり、規則を聞きました。結婚って、強制じゃない……つまり、断る権利があるそうじゃないですか」

「…………」

 ちなみに、これはライトが本当の勇者だったとしても、相手は持っている権利だとマークから確認済みであった。

「正直、俺はあの勇者様を快くは思ってないです。確かに魔王を倒す為に戦っているのかもしれないけど、でも……あんな、ですよ? ミコトさんは、街の人達を大切に想っている、優しい方なのに、それを……」

「ライトさん、正直者。出世出来ない」

「あ、いや」

 ふふっ、と笑いながら、ゆっくりとミコトは近くの椅子に腰かけた。

「でも、そうだなあ。……ライトさんみたいな正直な人だったら、こんなに悩む事、なかったのに」

「え?」

「ライトさん。ライトさんは、誰か大切な人の期待を裏切った事って、ありますか?」

 当然ミコトは知る由もないが、それはライトの心を抉る質問。――ライトは大きく息を吹く。

「……一度、本当に大切な人との大切な約束を、守れなかった事があります」

 脳裏に浮かぶ、絶望の、失望の、諦めの視線。自分の無力さを認識出来ず、出来もしない約束をし、助けようとして――結果、「彼女」は、居なくなった。

「許して貰えるとは思ってません。それでも、あの日の過ちを二度と犯さない様に、今は努力しているつもりです」

 自分が無力なのは変わっていない。それでも、自分の努力でその無力さが少しでも、ほんの少しでも薄くなっていくのなら。その想いで、ライトは今も立っている。

「……立派だなあ、ライトさんは」

 フッと、ミコトはライトから視線を外し、そう呟く。

「立派なんかじゃないですよ。もし立派だったら――」

「少なくとも、私よりは立派。私は、ただ逃げてるだけ。大切な人達から冷たい目で見られるのが怖いから、逃げるだけ」

 ライトの言葉を遮り、独り言の様にそう告げるミコト。その表情は、酷く寂しい。

「…………」

 ライトは唯一持っていた勇者装備である真実の指輪をこっそり使ってみる。すると、

(「ミコト……コリケット澱巫女……大きな後悔……過去の罪……」……罪、か)

 想像していたよりも重い言葉が浮かび上がった。名前、役職、そしてその次に出てくる言葉が後悔と罪。

 街の人皆に愛される巫女は、一体過去に何があって、何を隠してるんだ……?

「ごめんください」

 と、不意にそんな声が。――ライトには馴染みある声だった。

「どうぞ、開いてますから」

「失礼します」

 ミコトが促すと、姿を見せたのは、

「……貴女は」

「先程は、どうも」

 ソフィだった。そして隣には何故かクッキー君。

「このゴーレムを介して、ある程度の事を把握させて頂きました。勇者様に代わり、軍を代表して謝罪させて頂きます。私は勇者様の側近、一兵士の口約束より権力を持っていますので、保証の件はご安心下さい」

「そうですか、ありがとうございます」

 両者共言葉だけだと普通だが、空気がとげとげしい。――無理もないだろう。先程勇者を平手打ちした女と、それに激怒して首筋に愛用の両刃斧の刃を当てた女。無かったことには出来ない。ライトは内心冷や冷やしていた。

「私はそれを伝えに来ただけですので。――さ、貴方もいつまでもここで油を売っていないで戻りなさい」

「あ、はい」

 ライトも促され、ソフィに付いて一旦出る事にする。軽くミコトに頭を下げ、社を後に――

「――本気で、結婚する気なんですか?」

 ――しようとした所で、ソフィが一旦足を止め、そうミコトに投げ掛ける。

「ご迷惑ですか?」

「私は貴女の意思を伺っているつもりですが。権利がある貴女がすると言えば、私に止める権利はありません」

「……ですよ、ね」

 一瞬の躊躇いと、歯切れの悪い返事。――それを耳にすると、ソフィは再び歩き出した。ライトも急いで後を追う。

「…………」

「…………」

 そのまま無言で歩く二人。あれ、どうしたのかな、とライトが思っていると、

「団長、救出が遅れて申し訳ありません! ご無事でしたか!」

 社の敷地を出た瞬間、ガバッ、とソフィがそう食い入るように迫ってきた。一応社内では警戒していた様子。――って、

「え、ちょ、救出って」

「あの女に今度は何処をぶたれたんです!? 腹ですか背中ですか!?」

「いやいやいやいや」

 ソフィには最早ミコトはただのDV女にしか見えないらしい。連れ込まれて何かされたと勘違いしている様子。

「別に何処も殴られてないから。というか殴られる為に連れていったわけじゃなくて、俺が謝罪の為に」

「靴を、舐めさせられた……!?」

「落ち着いてくれ! どんなだよ!」

 ライトは一連の流れをソフィに説明。真実の指輪を使った事、結果も伝えた。

「後悔と、罪、ですか」

「その辺を上手く解決というか流れで掴めれば、向こうも断る事を視野に入れるかもしれない。彼女の事をもっと調べる必要がありそうだ」

「そうですね……とりあえず、元神官で神聖魔法の使い手として意見を述べさせて頂ければ、あの建物自体は伝統が関係して雰囲気が違うだけで、存在自体が可笑しな物ではないと思います」

 ミコトに会いに来る前に、ある程度の調査をソフィはしていた様子。――建物に関してちゃんと肌で感じる伝統があるらしい。そんな物は感じ取れないライトとしては尊敬と驚愕を受ける。

「成程……じゃあ、ミコトさん本人に関する何か、って事かな」

「罪、だけなら現在進行形かもしれませんが、後悔、となれば確実に過去の事。――調べるにあたって団長だけに頼ってしまうのは心苦しいのですが」

 ソフィも初登場で「勇者の女」アピールをしてしまっているので、あまり出しゃばっても情報は得られない可能性が高い。

「大丈夫、そこは俺が頑張るよ」

『我もこちらからサポート致しますぞ』

「お、ニロフ、復活か」

 クッキー君から声がした。

『迷惑かけましたな。その分頑張らせて頂きます』

『ライト様、ハルです。お二人共十分反省して頂きましたのでご安心下さい。それからクッキー君の副操舵は私が管理させて頂きます』

「ありがとう、ハル」

 ヨゼルド相手に厳しい説教をするハルなのだ、ニロフでもレナでも大丈夫だろうと思ったライトの思惑通りとなっていた。――って、あれ?

「で、もう一人は?」

『……っ……おお……足、足が……』

 かすかに聞こえる呻き声。――レナは今の今まで正座させられていて、足が痺れた様子。

『レナ様、揉めば一気に治りますよ』

『勘弁して……というかニロフは何で平気なのさ……』

『いや、我、骨ですし』

『ずるい……!』

 本任務で戦力未知数のレナは、復活まで今しばらく時間を必要としそうであった。――と、そんな会話をしながら歩いていると。

「だから、この街を思って――!」

「それはでも――!」

「だから、大切なのは――!」

 何やら騒ぎ声が聞こえる。一人二人ではない。ライトとソフィは顔を見合わせ、そちらへ行ってみる事に。――すると。

「結婚反対! ミコトちゃんを、あんな勇者の嫁にしたら、この街の恥だ! 何よりミコトちゃんが可哀想だ!」

「勇者様だぞ! それに可愛い女の子に優しいなら、ミコトちゃんにも優しくしてくれるだろ! 将来ミコトちゃんは幸せになれる!」

「いーやなれないね! 新しい女が出来たらああいうのはすぐポイだ」

「男達はミコトちゃんを甘く見てるのよ! ミコトちゃんなら勇者だってイチコロよ、ミコトちゃん一筋に出来るわよ!」

「私達の若い頃は、あんなのはなくてねえ……ミコトちゃんが、幸せなら私はどっちでも……」

「いっその事、社を壊せばいいんだ! あんなのに囚われてるから何もかも駄目なんだ!」

 街の広場で、数にして二十人以上はいるだろうか。話し合い――と言えば聞こえがいいが、一触即発の激しい意見のぶつかり合いが行われていた。議題は無論、ミコトの結婚に関して。

「……凄いな」

「良くも悪くも、彼女がこの街において重要なポジションにいる、というのがよくわかる光景ですね……」

 ライトもソフィも、つい呆気に取られてしまう。

『まー、仕方ないでしょ。あの子が結婚するしないは、この街自体にも大きく影響する。全員が、とは言わないけど、一部は確実にあの子の幸せより自分の幸せを考えてるでしょ。そうでなきゃ、意見がここまで対立することなんてないよ』

 足の痺れが治まったか、レナがレナらしい意見を述べてくる。

「まあでも、意見が割れてるってのは、色々話が聞けるチャンスでもあるんだよな」

 意を決して、ライトはその広場の中央へ行く。そして、

「皆さん、自分はハインハウルス軍の者です! 皆さんの意見が聞きたい、お話させて貰えませんか!」

 そう大きな声を出した。――のだが、

「だから、結婚は絶対に駄目だ! お前達は何を言ってるんだ!」

「お前等こそ何言ってるんだ! 皆の為を思えば!」

「皆の為って何よ! 大事なのはミコトちゃんで」

「つまりは、あの社が!」

 ヒートアップし過ぎて、ライトが眼中に入らない様子。え、どうしよう、と思っていると――ポン。

「……え」

 ライトは一人で広場中央に行ったと思っていたのだが、しっかりソフィも付いて来ていた。ソフィはライトの肩を叩き、自分が一歩前に出る。

「――っらああ!」

 ズバァァン!――そして、思いっきり愛用の斧を地面に叩き付け、衝撃波を発生させた。殺傷力は無いものの、その勢いに流石に人の注目が集まる。

「テメエらだけでうだうだ言ってて終わる話か、ああ!? 軍が勇者が関係してんだから、こっちが話しないと解決しないだろうが! それで話を聞いてやるって言ってるんだから大人しくしやがれ!」

 ライトを無視されて腹が立ったか、狂人化バーサークしたソフィが、強引に集まった人達を黙らせた。

「おう、こんなもんだろ」

「……うん、まあ、うん」

 確かに話は訊けそうだが、ちゃんと話をしてくれるか若干不安になるライトなのであった。

『ハル、あれはいいの? 正座は? ねえ正座』

『え……と、ギリギリセーフですね』

『ずるい! 基準がわからない! ハルは私に何の恨みがあるの!?』

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