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第六十七話 幕間~願い事二つだけ

 ライト騎士団に、魔導士兼ライトの魔術講師として、ニロフが加入した。

 ニロフはリッチキングという、アンデットの最上位も最上位のモンスターであり、どれだけ人間臭い紳士であっても、見た目は骸骨。どれだけ一部の人間が理解していても、しつこい様だが見た目は骸骨で、モンスターである。

 ライト騎士団として活動する以上、隠れる、隠すには限界がある。さてこの問題をどうしようか、となった時、ニロフは自らサラフォンに相談、合作し、頭全体を覆い、顔面が仮面になっているマスクを作成した。

 体は魔法使いのローブ(新調した)、腕は手袋、足はブーツ。以上で確かに骨の部分は見えないのでモンスターであることは一応隠せるのだが、仮面の時点で怪しい(サラフォンとニロフは格好良いと二人で絶賛)。

 出来る限り自然に馴染ませたい。ライト騎士団にとってもニロフにとっても。――と、ライトは考えていたのだが。

「……あ」

 ライトの視線の先、見覚えのある仮面ローブの後ろ姿。ニロフである。そして、

「すみませんニロフさん、お荷物持って貰っちゃって」

「いやいや、我も偶然なので気になさらず。それに女性一人で運べる荷物量でもないですからな」

 隣には女性使用人。ライトは名前は憶えていないが顔は見覚えがあった。どうやら彼女の荷物を運ぶのを手伝っている様子。

「助かりましたニロフさん、ありがとうございます」

「我などで良ければいくらでも手伝いますからな、いつでも声をかけて下され」

「そうだニロフさん、今度日ごろのお礼にお茶会に招待してもいいですか? 皆ニロフさん来てくれるなら喜びます」

「おお、宜しいのですか? 我で良ければ喜んで参りますぞ」

 そんな約束を交わしつつ、笑顔で運んで貰った荷物を受け取ると、その女性使用人は部屋へと入っていった。

「ニロフ」

「おお、ライト殿」

 女性使用人の姿が見えなくなったのを確認し、ライトはニロフに声を掛ける。

「城での生活は問題無さそうだね」

「ええ、既に城内の女性陣の名前、年齢、趣味、ほぼ把握させて頂きましたからな」

「…………」

 てっきり「皆さんよくしてくれてますぞ」とか返ってくるのかと思ったらとんでもない答えが返ってきた。――え、この城に来て何日目だっけか。女性陣のデータほぼ把握とか。普通にお茶会に誘われてたしな。

「安心して下され、団長であるライト殿には無償でマル秘データを提供出来ますぞ」

「いやいやそんな交渉がしたくて話しかけたんじゃない」

 というわけで、ニロフはライトの心配を大きく飛び越えて、城の生活も問題ない所か、「ライト騎士団に最近入った謎の仮面の人、謎だけど紳士で素敵!」と女性陣に人気が出ている様子。――まあ、怪しまれるよりかはいい……のか?

「ヘイ彼女、ストップ! ストッププリーズ! ちょっと話聞いてくれないかな!」

 と、そんな二人の所に、軽快な声――とは裏腹の、女性が成人男性に足首を掴まれてでもそのまま引きずって歩くという普通は有り得ない光景が。

「……またやってる」

 ……要は、スケベ本を見つけて処分に移動するハルと、それを阻止する為に足にしがみ付くも引きずられているヨゼルドである。

「お疲れ様です、ライト様、ニロフ様」

「お疲れ様、ハル」

「お疲れ様ですぞ、ハル殿」

「この光景を異常だと認識してくれた初々しいライト君は何処へ!?」

「いやあだってネタがわかれば別に驚く話でもないですし」

 慣れって怖いな、とライトは思った。

「っ、そうだニロフ、ニロフならわかるだろう私の気持ちが! 最新号だぞ、我慢出来ないのがわかるだろう!?」

 ヨゼルド曰く、ニロフはヨゼルドにとって「スケベの師匠」。理解してなんとかしてくれるのではないかという期待を持ってヨゼルドは助けを求める。

「……ふむ」

 一方の助けを求められたニロフは、一瞬考える素振りを見せると、

「若、あまりハル殿を困らせてはいけませんな」

 ヨゼルドを嗜めに動いた。

「な……ニロフ、どうしてだ!?」

「別にスケベを止めろとは我は言いませぬ。しかし何事も節度を弁えて楽しまなければなりませぬぞ。ハル殿は若にとってとてもよくしてくれる使用人なのでしょう? そのハル殿を困らせてまで楽しむスケベなどいかがなものかと」

「ぐはっ……!」

「ニロフ様……!」

 正論過ぎる正論に止めを刺され、手を離すヨゼルド。一方のハルは感謝と感激の視線をニロフに向けた。

「ありがとうございます。ヨゼルド様を諦めさせてくれる方は、そういらっしゃらないので助かります」

「いえいえ、何事も節度が大事ですからな。ハル殿もお仕事頑張って下され」

「はい。それでは失礼致します」

 一礼すると、ハルはその場を後にした。

「ううっ……ぐすっ……」

 一方のヨゼルドは床に倒れたまま泣いていた。さてどうしようか、とライトが考えていると。

「若、若がハル殿に見つかったのは最新号、と言ってましたな」

「そうだ……今日発売でこっそり買ってきたばっかだ……まだ最初の数ページしか見てないのに……」

「今日発売ということはこれですかな」

 と、ニロフは不意にその辺の壁を押す。するとガコッ、と壁が少ししぼみ、ニロフが押した壁の隣の部分がカパッ、と開き、中から雑誌が一冊出てきた。――って、

「えええ何その隠し倉庫みたいなの!?」

 ニロフはこの城で暮らし始めて数日しか経過していない。いったいいつの間にそんな物を。

「それは……最新号……!」

「こんなこともあろうかと、我が用意しておいたのですよ」

 そのままニロフはその雑誌をヨゼルドに手渡す。

「若、ハル殿を困らせてはいけません。つまり、ハル殿が困らなければいいのです。前述通り我はスケベを止めろとは言いませぬ。なので、困ったら我を頼って下され。力になれる時があるかと」

「ニロフぅぅぅぅ! 流石私が師と仰いだ男だ!」

「ちなみに我のお勧めは四番目に出てくる女子ですな。表情が良い」

 ニロフは既読済みの様子。ぐっ、とニロフが親指を立てると、ヨゼルドもぐっ、と親指を立て、雑誌を抱えて小走りにこの場を去って行った。

「何だろう。凄いわ、色々と」

 ヨゼルドの背中を見送りながら、ライトは感想を零す。それ以上の言葉が見つからなかった。

「主も若もスケベばかりが先行して失敗する箇所がありましたからな。我は開眼したのです。紳士あるスケベこそ真のスケベだと」

「そんな真面目に語られても」

 紳士もスケベも目指していないライトとしては反応に困る所である。――まあ、皆に迷惑を掛けてないならいい……のか?

「そうだライト殿、ライト殿に二点程、お願いがあるのですが」



「……いや、確かに新しい女は誤解を招くから連れてくんなとは言ったが、だからって何だそいつは」

 場所は移り、ハインハウルス城下町、武器職人アルファスの店。ライトはニロフが新しい杖がオーダーメイドで欲しいと言うので、真っ先に思い当たったアルファスを紹介しようと思い連れてきた所である。

「あ、その、確かに見た目は仮面で怪しいかもですけど、人柄は――」

「お嬢ちゃん、君のお母さんが病院に運ばれたよ、我と一緒に行こう」

「何処の誘拐犯だよ!? 折角俺が弁明してるのに自分で自分の首絞めるなよ!?」

「外見の事言ってんじゃねえ。まあ確かに仮面怪しいけど。――中身人間じゃねえだろ。上位のアンデットか?」

「おお、流石はライト殿の剣の師匠ですな、我をしっかりと見抜くとは」

 見抜かれた以上黙っているわけにはいかないので、ライトは大まかに事情を説明した。

「成程な。あの爺さん、何かあるんだろうなとは思ってたが、そういう人だったのか」

「あらためまして、我の名はニロフと申します。アルファス殿のお考え通り、種族はリッチキング。ですが、ご厚意によりライト騎士団に所属させて頂くことになりまして、それでアルファス殿に我専用の杖を作成して頂けないかと思いましてですな。代金でしたらこの辺りの古代の宝石の一つ二つ」

「止めろ止めろ、その宝石一つで俺の店何軒建てられると思ってやがる。ライトの仲間なら金はいらねえ。――ただ、俺は杖はそんなに作るの得意じゃねえぞ」

 いやその前にサラっと流れたけどその古代の宝石ってやばくないですかね、とは何となく口を挟めないライトがいたりする。

「俺は基本接近戦用の武器が専門なんだよ。弓とか杖とか、直接殴らねえ武器はそこまで上手く作れないぞ」

「いえ、ライト騎士団は少数精鋭の騎士団、いい機会なので我はバトルメイジを目指そうと思いましてな」

「あー」

「バトルメイジ……?」

 ライトには聞きなれない言葉であった。――え、ニロフは魔法使いじゃないの?

「バトルメイジっつーのは、杖に魔力を溜めて直接殴るタイプの魔法使いだよ。勿論魔法も使うが、状況に応じてアタッカーみたいな動きが出来る。下手なバトルメイジなんざ雑魚だが、上手い奴になると遠近両方戦えるから相手にすると厄介極まりねえ」

「へえ……」

 型に嵌らず色々なシチュエーションを考えていてくれるのかもしれない、と思うとライトはニロフに感謝する。

「まあ確かに、そういう杖なら俺の射程範囲内だ。――だけど、生半可な腕の奴には俺はライトの仲間でも武器は作ってやらねえぞ。……裏来い。適正テストだ」

「おお、宜しくお願いしますぞ」

 そのまま一行は裏庭へ移動。模擬戦用の武器を両者持つ。

「よし、何処からでもいい、来てみろ」

「では失礼致しまして、――ほっ!」

 バッ、とニロフが地を蹴り、アルファスに向かって杖を振るう。――ガキン!

「!」

 完全に防ぐアルファスだが、ピクッ、と表情が反応する。一方のニロフは、右から左から、縦横無尽に杖を振るう。――ガキン、ガキン、ガキン!

 ぶつかり合う度に響く音。――逆に言えば、ニロフの攻撃は見事にアルファスに全て危なげなく防がれている。表情を見れば、焦る様子もなく、ただジッとニロフの動きを見ていた。

「ストップ、もういいや」

 一旦間合いが開いた所で、アルファスが手を前に出し、終了の合図。ニロフも動きを止めた。

「ふぅ、流石ライト殿の師匠ですな、手も足も出ませぬ。ここまでの腕の持ち主とは」

「俺も剣士の端くれだからな、魔法使って来ない魔法使いに接近戦で負けるわけにはいかねえだろ。――お前のセンスと経験と戦い方はわかった。武器、作ってやるよ」

「おお、ありがとうございます」

 無事ニロフはアルファスに認められた。紹介したライトとしても一安心である。――あれ、このシチュエーション、エカテリスが俺にアルファスさんを紹介したのに何となく似てる……と思うと、アルファスの試験に合格出来なかった自分自身がエカテリスに申し訳なさを生む。……頑張らなきゃな、俺。

「よろしかったら、どうぞ」

 と、そこで一歩距離を置いて見ていたセッテ(当然の如くいる)が、いつもの様に飲み物を用意してくれた。

「ありがとう、セッテさん」

「ありがとうございます、奥方殿」

「ぶっ」

「奥っ……!」

「……あーあ」

 これは流石にニロフもわざとではない。セッテの存在感、仕草が自然過ぎたのでニロフは勘違いしたのである。――当然の如く吹いたのがアルファス、感極まったのがセッテ、諦めのリアクションがライトである。

「? おや、違いましたかな、雰囲気からしてそうなのかと」

「いえ、合ってます。妻のセッテです。新婚です」

「違えええ! どさくさに紛れて色々飛び越えてんじゃねえ!」

「ニロフニロフ、実は」

 手短にライトは二人の関係をニロフに説明。

「ほうほう……そういう事でしたか。……アルファス殿」

「おう、ライトの説明を受けたな? 俺達は――」

「据え膳喰わぬは男の以下略」

「テメエどっかの国王とその辺りの思考回路同じタイプか畜生め!」



「いやあ、我が侭に付き合わせて申し訳ないですな」

「いや、いいよ。俺もやってみたい所はあるし」

 アルファスの店を後にして、しばらくして時刻は夜。ニロフの二つ目のお願いを叶える為に二人は城の大浴場へ。

「というか、風呂好きなの?」

「主に教わってから味を覚えましてなあ。個室の風呂でもいいのですが、時折こう広い風呂に入りたくなるのですよ」

 ニロフの二つ目の願いは「城の大浴場を貸し切りで入りたい」というライトにとって予想外のものだった。少し考え、偶然通りかかったリバールに相談してみると、見事にその時間を用意してくれ、今に至る。

 ザブン。――二人共体を軽く洗い、広い湯舟へ。程よい温度のお湯が気持ち良い。

「くーっ、たまりませんな。この解放感、手足を思いっきり伸ばせる感じが。――ライト殿ライト殿」

「うん?」

「湯舟に浮かぶ白骨死体」

「洒落にならねえ!?」

 ぷかー、と全身をお湯に投げ出しで浮くニロフは、喋らなければ正に「それ」であった。――ギャグなのだろうが笑うに笑えない。

「ああそうそう、頻繁には駄目だけど、偶にだったらまた用意してくれるってリバール言ってたぞ」

「おお、それはありがたい。ではまた今度も……そうだ、今度はライト騎士団の皆様も招待しましょう」

「……それ変な目で見られるやつじゃね?」

「ライト騎士団の女性陣は実に美しい方ばかり、裸が見たいと思うのは変ではありますまい」

「開き直ってた!」

 興味が無いとは言わないが、立場が危うくなるので出来ない。

「まったく……あ、そういえばリバールが軽いアルコールも用意してくれた。ニロフも飲むか?」

「いいですな、頂きましょう」

 小さめのコップに注ぎ、軽く口に運ぶ。――うん、美味い。

「……そういえばニロフってセッテさんの飲み物も飲んでたけど、普通に食べたり飲んだり出来るんだな」

「しなくても生きてはいけますが、味を楽しむ事は出来ますぞ。これも主に教わりましたからな。何なら我自ら男の料理とやらも」

「多才過ぎる……」

 ニロフの正体がモンスターというのがどうも信じられなくなるライトであった。

「しかし、この数日でよくわかりました。ライト殿は良い仲間に囲まれてますなあ。――何故「演者」なのでしょう? ここまでのメンバーを集められるなら、勇者でも構わないのでは」

「俺が集めたんじゃないからなあ……運良く集まってくれたというか出会えたというか」

 そういう意味では、今の仲間に出会えてなかったらもう今頃ギブアップしてるかもしれない、とライトはふと思う。

「集まってくれるのも才能の一つですぞ。溺れるのは良くありませんが、それでも皆ライト殿を慕っているから今の位置にいる、という事は覚えておくと良いでしょう」

「慕ってくれてる、か。それは俺も同じなんだけどな」

 皆の事を信頼してる。皆あっての自分なのだ。

「それに、もうニロフもその仲間の一人なんだからな。他人事みたいに言うなよ」

「勿体なき言葉。――我も、しかと胸に刻んでおきましょう」

 モンスターかもしれない。不思議な存在かもしれない。それでも――ニロフは、信頼すべき仲間になったのだと、ライトはハッキリと断言出来た。

「ライト殿。我は、いつかは主の元へ行こうと思っています」

 主の元へ。それはつまり、天国のガルゼフの元へ行くということ。

「それでも、今のライト殿を、ライト騎士団を見捨てて行くような真似は致しません。何も言わずに消える事もしませぬ。ライト殿の戦いが終わるその日まで、必ずやライト殿を支えることを約束しますぞ」

「ありがとう。色々頼ると思うけど、宜しく頼むな」

「お任せあれ」

 こうして、不思議な二人の入浴、酒盛りは、もう少しだけ続くのであった。

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