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第六十四話 演者勇者と老占い師7

 ガキィン!――響き渡る、斧と突撃槍の激しいぶつかり合い。

「ははっ、さぞかし名前のある有名な騎士だったんだろうなぁ! アタシが最後に悔いなく終わりにしてやるよ!」

 甲冑を纏い、骨の馬にのるモンスターに、ソフィは真正面から、正に力尽くでぶつかる。相手もモンスターとしても騎士としても優秀なのだろう、その力尽くのソフィに一歩も引かず、激しいぶつかり合いは更に激しさを増す。

「うへえ、最早標本じゃん……」

 方やレナが対峙しているのは、骨の竜。骨の翼で軽く空を飛び、

「ギャオオオオオ!」

「うわ」

 骨の口から氷のブレスを吐く。剣に炎を貯め込み、振り抜いて相殺するレナ。

「うーん、仕組みがわからん。――まあいいか、考えても仕方ないし」

 呑気な言葉とは裏腹に、こちらのぶつかり合いも徐々に激しくなっていった。

「亡者達、このエカテリス=ハインハウルスがこの世への未練ごと断ち切ってさしあげますわ、成仏なさい!」

 そしてその他大量に出現したスケルトン軍団を相手にするエカテリス、リバール、マーク。倒し漏らし、また不用意にライトに近付いてくる物はハルが処理、更に全体の援護でサラフォンがライフルを撃つ。――ライト騎士団の戦いは、ひとまずは作戦通り順調であった。その一方で、

「ォォォォォ……!」

「ほっほっほ、儂もまだまだやれるわい! ずっと引き籠ってたのはお主だけじゃないぞ、ニロフ!」

 ガルゼフとニロフの戦いは、激しい魔法波動のぶつかり合い、両者一歩も引かず、一進一退の攻防が続いていた。どれだけライト騎士団が頑張っても、ガルゼフの勝利なく今回の戦いの勝利はない。

 距離があるから見れるものの、ライトはきっと近くであれを見ろ、と言われても波動と飛び火とで、とてもじゃないが見ていられないだろう。圧倒的迫力。まるで今まで読んできた勇者の物語のワンシーンを見ているような、そんな感覚になる。

 物語ならここで苦戦しつつも勝利、大魔導士万歳、だろう。――しかし。

「サラフォン、わかる範囲でいい。ガルゼフ様とニロフの戦い、どうなってる?」

 気にならずには当然いられない。ライトはつい横のサラフォンに尋ねてしまう。

「ボクは魔法は専門外だから、ハッキリとした事は言えないけど……純粋な魔法に関しての技術に関しては、ガルゼフ様が一歩上だと思う。……でも」

「……でも?」

「ニロフさんは、周囲のアンデットから力を吸収し、それを使うことでガルゼフ様に劣らない威力と技術の魔法を連発してる。何より、周囲から吸収出来るってことは、「疲れない」ってことだから……このままだと」

 サラフォンは言葉を濁すが、意味は十分伝わる。――ガルゼフの、敗北。

 例えガルゼフが負けても、ライト騎士団の力を持ってすればニロフは撃破出来るかもしれない。でもそれは、果たしてハッピーエンドと言えるのか。甘い考えだとわかっていながらも、ライトにはその考えが過ぎって仕方がない。

「極炎散花!」

 迸るリバールの忍術。炎の花が骸骨達を飲み込み、燃やし尽くす。だが数秒後、その灰となった箇所から新たなる骸骨が産まれる。

(まだ新しく出てくる……出てくる限りニロフはエネルギーを補給出来る……ジリ貧だ……)

 エカテリスとリバールが主となって雑魚骸骨を蹴散らしても、数が減っている様子があまり見られない。何処からともなく産まれ、あらたに向かってくるのだ。

「皆、持ちこたえてくれ! 出現場所もランダム、ストックが尽きるまで最悪叩かないといけないのかもしれない!」

 一生懸命戦況を見ていたライトだが、法則は見当たらない。長期戦の覚悟を団員に伝える。

「了解ですわ! スタミナ温存、乗り切ってみせます!」

「アタシ達もさっさと片付けて援護に入るぜ!」

「私を混ぜるなー……まあ、さっさと片付けるのはそうなんだけど!」

 各々の返事。……その、一方で。

「ライトくん。――ボクは、いつでもニロフさんを撃てるから」

 サラフォンの小さなその一言。合図さえあれば、誰よりも早く、一撃、狙撃が可能である、と。

「わかった、その時は頼む。でも……俺が指示するまでは待ってくれ。もう少しだけ、待ってくれ」

 ライトとしては、今直ぐにでも、サラフォンをガルゼフの援護に回したかった。それが一番確実で、有効な作戦なのは明らかだった。それでも、踏ん切りがつかない。――自らの手で、手だけで、決着を付けたいと願うガルゼフの想いを、無下にする勇気が湧いてこない。

「わかった」

 サラフォンも何か感じる物があるのか、それ以上は食い下がらない。直ぐに他団員の援護に戻った。

「ォォォォ!」

「ほっほっほ、この歳でここまで命の削り合いをせねばならんとはのう! 二十は若返るわい」

 その間にも続いていた、ガルゼフとニロフの一騎打ち。いくつもの魔法波動、魔法球が生まれてはぶつかり合い、激しく爆発四散。戦いが開始され時間が経っても、未だ互角の戦いを続けていた。――続けていると、思われていた。

「……っ……ふぅ……」

 だが、徐々に表れる変化。――ガルゼフの、息が荒くなってきている。

 どれだけ優秀で実力があっても、百歳を大きく過ぎた老人、疲労が出てくるのは当然の結果。一方のニロフは元々がアンデットなのに加え、周囲からエネルギーを吸収し続けている状態。どちらが優勢なのかは、明らかになりつつあった。

 そして――ついに、均衡が破られる。

「……がっ……!」

 ズバァン!――ニロフが放った魔法波動の内、一本を完全には防ぎ切れず、ガルゼフは腕に攻撃を浴びてしまう。五割は防いだが、残り五割が反応し切れなかったのだ。

「ほっほっほ……やってくれるわい……!」

 その口調とは裏腹に、汗をかき、苦しそうな表情を見せるガルゼフ。――その表情が、ライトの躊躇いを掻き消す。

「サラフォン!」

 サラフォンの名前を呼ぶ。それが狙撃の合図。サラフォンも瞬時に標準を合わせ、引き金を――

「止さんか! これは奴と儂の戦いじゃ!」

 ――引こうとした瞬間、ガルゼフのその声。サラフォンの指も止まる。

「ライト君、約束じゃったろ、奴だけは儂がやると。勇者たるもの例え演者でも約束は守らんといかんぞい」

「ガルゼフ様、でも!」

「なぁに、まだまだこれからよ。――奴は、儂の大事な友じゃよ。儂がやらねばならんし……奴にやられるなら、儂も本望じゃ」

 そう言うとガルゼフは再び詠唱、魔法波動を放つ。

「……っ」

 そして、新たに生まれるのは、ライトの憤り。――ガルゼフは、本当にニロフの事を想っている。だからこそピンチになっても助けを借りないで自分の手で戦いたいし、やられても……とどめを刺されても、構わないと思っている。

(貴方がそれで良くても……そんなの、納得出来るわけ、ないでしょう……!)

 更にライトが見据えたのはガルゼフ――ではなく、ニロフ。ガルゼフが命を賭けている。こうなる前は、本当に最高の相棒だったのだろう。その相棒を、いくら暴走しているとはいえ、自らの手で終わりにさせていいのか。もしそうなってしまったら、全てが終わった後、ガルゼフは勿論、ニロフも救われない。

 ニロフだって、助けてやりたい。――この時初めて、その感情がライトの中でハッキリ生まれた。

(何か……何かニロフの暴走を止める方法を……ガルゼフ様の事を思い出す方法を……!)

 思い出して欲しい。認め直して欲しい。きっとニロフだって、ガルゼフの事を最高の相棒だと思っているはずなのだから。その想いと共に、ライトは勇者グッツを必死に漁る。――何か、何か使える物ないか……!

「っ! 駄目元で!」

 鞄から飴玉を一つ取り出し、口に含む。

「ワオーン!」

 そしてライトは吠えた。――突然の出来事に、戸惑う他団員。

「勇者君……緊張のあまり壊れたんだね……」

「ワンワン!? ワオン!」

「サラ、一体ライト様に何したの!?」

「え、ちょ、ボク何もしてないよ! ライトくんが飴玉を――あ、「ワントーク」舐めたの!?」

「何ですのその可愛い名前の飴玉……」

「その、魔力を使って、一時的にワンちゃんとお話出来るようになれる飴玉です」

「まさか団長、それ使ってニロフと会話しようってんじゃ」

「ワン!」

 ちなみに、ライトの台詞の内容は頭から「ニロフ!」「違え!? 壊れてない!」「鋭い!」である。

「ワォンワォンワン、ワワン!(フィーリングで届き易いかもしれないだろ!)」

「ライトくん、お腹空いたの? でも駄目だよ! ペットフードは人間が食べても美味しくないよ!」

「……サラフォンさん、流石に忍術でも犬語はわからないのですが、ライト様は恐らく食べ物の話は今していないと思われます」

 ライトとしては藁をも掴む想いなので、至って本気である。しかし残念ながら周囲には伝わらない。当然だが、ニロフにもまったく届いていない。――畜生、駄目なのか、もっと、もっと何かないのか!?

「ほっほっほ、ライト君は面白いのう。でも、ありがとう。君は君なりにニロフを戻そうとしてくれているんじゃろ?」

「ワフ……(はい……)」

「その気持ちだけで十分じゃよ。これは儂にしかやれんし――どんな結果になったって、儂は受け止めるわい」

「…………」

 勝手に決めるなよ。ほんの一握りの可能性に賭けて何が悪いんだよ。どんな結果を貴方が受け止めたとしたって――俺が、受け止め切れないんだよ!

「……っ!」

「ライトくん!?」

 ライトは飴玉を口に入れたまま、次々と新しい包みを開ける。「ニャントーク」「チュウトーク」「ピヨトーク」「コントーク」「ウッキートーク」……数々の飴玉を、全て口の中に放り込む。

 何でもいい、ちょっとでいい、頼む、届いてくれ、俺の……いや、ガルゼフ様の、想い!

「~~~~~~~っ!」

 そして最早何の動物かもわからない音をライトは発する。そもそも口の中が飴玉だらけで上手く声を発するのも一苦労。人間の耳には呻き声なのか叫び声なのか、異次元の歌なのかといった謎の音にしか聞こえない。

 誰もがライトの気持ちを汲んでも、それは無理だろう、と思った――その時だった。

「…………」

 ニロフの動きが、止まった。今までガルゼフしか見ていなかったその顔が――ライトを見ていた。

「ォォォォ……」

 次いで聞こえる、ニロフの呻き声。この呻き声は、ニロフ出現当初からここにいる全員が何度も聞いている、分別不能の声。ガルゼフさえもわからない、ただのモンスターとしての呻き声だった。

 だがその時、ライトの耳に、ライトの耳だけに、違う言葉が流れ込んで来た。


『我の名を呼ぶのは……誰だ?』

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