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第六十三話 演者勇者と老占い師6

「あれがセイロ空洞か……」

 ヨゼルドにセイロ空洞への出発を依頼された翌日、ライト騎士団とガルゼフは昼には空洞前に到着していた。大きな崖に出来た大きな洞窟が視界に入ってくる。そしてその入口を囲むように駐屯している軍の部隊。人数にして数十人が確認出来た。

「というか、俺達が来る前からもう結構な人がいるんだな」

「ほっほっほ、実際何かあったら本気で喰い止めないと歴史に残る災害になるからのう。まあでもこの人数がいても場合によっては喰い止められんて」

 アッサリとそう言い切るガルゼフ。否応にもライトの緊張が高まる。

「まあ安心せい。そうならない為にも儂らが中へ入るんじゃよ。そしてそうさせない為に儂が覚醒させて貰ったんじゃよ。なぁに、君らが居てくれれば儂も安心なんじゃ。ライト君もどっしり身構えておれ」

「は、はい」

 ポンポン、とライトの肩をガルゼフは軽く叩く。――ガルゼフの方が色々抱えていてプレッシャーがあるはずなのにそれを感じさせない。ライトは驚きと同時に、自分もしっかりしなければ、と気持ちを切り替える。

 やがて馬車も止まり、メンバーは降りて最後の支度へ。マークは直ぐに先着していた部隊に話を訊きに移動していた。――実際に降りてわかった。周囲はまるでこれから戦争でも起きるんじゃないかと思う空気である。大勢の騎士兵士、魔法使い達。神官達に至ってはこちらを見てひそひそと内緒話を――

「……?」

 そう、アンデット対策か、神官の部隊と思われる十数人がいるのだが、到着してこちらを視界に入れると同時にひそひそと内緒話を始めていた。明らかにこちらを意識して、つまりライト騎士団とガルゼフに対してだろう。

「……チッ」

 と、ライトがそちらを気にしていると舌打ちしたのはソフィ。――ちなみに既に狂人化バーサーク状態。

「ソフィ? どうした?」

「……あいつら、アタシの昔の知り合いなんだよ。「私」がアタシにならなかったら、アタシはそもそも「私」のままあっち側の人間だからな」

「ああ……」

 ソフィは狂人化バーサークしたての頃、自分ですら気付いておらず、周囲に違和感と混乱を与えていた。残念ながら冷たい目で見られた事もあっただろう。その当時の知り合い。しかもソフィは王女、(演者だが)勇者と共に行動している。色々言いたい事があったのかもしれない。

「別にアタシは何言われてもいいんだ、でも団長の集中を途切れさせるのは気にいらねえ。――つーわけでちょっと黙らせてくる」

 そう言うと、ソフィは指を鳴らしながらズンズンとその神官の部隊へ向かって歩いて行って――

「――ってストップ、何か不穏な素振り見せながら行ってない!? 黙らせるってどうやってやるつもり!?」

「一人二人減ってもアタシらが中で頑張ればいいだろ」

「おいぃぃぃ! 野蛮なの駄目、暴力沙汰駄目! 落ち着いて、俺もう大丈夫、気にしないから!」

 止めて良かった。狂人化バーサーク状態のソフィだと一欠片もジョークではないのだろう。大事な作戦前に仲間割れとか洒落にならない。

「ふふふ、勘弁してあげて。彼女達も、羨ましくもあるのよ。王女様、勇者様と一緒の部隊にいるんですもの」

 と、そんなライトに喰い止められてるソフィに声をかけて来る人間が。見れば剣を持ち鎧を纏った女騎士が笑顔でこちらにやって来ていた。

「アンジェラさん!」

 と、その女騎士を見てソフィの進軍(?)も止まる。

「知り合い?」

「アタシに騎士の道を勧めてくれた人だ。いっその事全力でこっちに来ればいい、ってな」

「初めまして、勇者様。今回、現場での指揮を執っています、アンジェラといいます」

「ライトといいます。宜しくお願いします」

 アンジェラは年齢は三十前後位だろうか。ライトでは見ただけで強いかどうかはさっぱりだが、これだけの人数の指揮権がある所を見ると、やり手なのだろうとライトは思った。

「噂は聞いてますよ。国王様に勇者役に選ばれ、瞬く間に圧倒的少数精鋭の騎士団を結成。各地で活躍していらっしゃる」

「いえ、俺は特に何も」

 騎士団結成したのエカテリスだし、各地作戦で活躍してくれるのは仲間達だし。

「あらご謙遜を。レナとソフィ、この二人の手綱を握っていられるのは凄い事ですよ?」

「いえ、その、俺は特に何も」

 手綱ごと引っ張られる時ばっかりだし。――ああ、止めてくださいアンジェラさん。俺心の中で作戦前にダメージが重なる。

「ソフィも、伸び伸びと出来ている様で安心したわ。やっと自分の「居場所」を掴んだのね。その調子で今回も宜しくね。あの子達は私がちゃんと話をして落ち着かせるから。――それでは」

 アンジェラはそう言うと、軽くお辞儀をして、神官達の方へと歩いて行った。

「あの人には感謝してる。アタシに武器を持つことを後押ししてくれた人だ。あの当時はそれでもギャップに悩んだけど……でも、お陰で今がある。アタシと「私」の両方を認めてくれた団長には感謝だし、今の仲間達にも感謝だ。謙遜は団長の良い所だけど、アタシが感謝してるってのは認めてくれよな」

「それじゃ、俺もソフィには感謝だから、お互い様だな」

 そう言って、お互い笑い合う。――お陰で、ライトの緊張も多少ほぐれる。

「ライト、ソフィ、マークが戻って来ましたわ。作戦会議ですわよ」

「わかった、今行く」

 そのままライト騎士団は空洞入口前まで移動。――空洞は大きかった。入口も見上げる程の広さ。

「現在、我々に託す事が国王様より通達されている様で、空洞内に部隊はおらず、全部隊外で待機中とのことです」

 マークが地図を広げながら、確認を取って来た状況を説明し出す。

「入口はここで……封印石はここ。ガルゼフ様、封印石はどの様な形になっていますか?」

「部屋への入口は一つ、かなり広めの広間に設置しておる。その広間自体にも封印の一種を施しておるしの。少なくとも儂らが部屋の中にいる間は、封印が解けても部屋からは出ていかんじゃろうて」

 逆に言えば突入し負けるような事があれば色々な物が終わる、という意味合いでもあるのだが。

「部屋に入ったら、儂が封印を解く。儂はニロフとの対峙に専念するから、お主らは「おまけ」が出てきた時、そちらの対応をお願いしたい」

「おまけ?」

「時間も随分経ち、ニロフが吸収した負の力も随分と薄まってはおるじゃろうが、それでも自力で封印を解こうとするだけの余力があるという事は、色々余計な輩が一緒に出てくる可能性があるんじゃよ。そいつらを叩いておいて欲しい。それさえやっておいてくれたら、後は儂がニロフをどうにかするだけじゃ」

「ガルゼフ様のフォローは」

「ほっほっほ、心配いらぬよ。ニロフの事はよーくわかっておる。戦いになったとしても、負けはせんわい。それに……儂以外の人間に決着を着けられても、奴が納得せんわい」

 それを言われてしまうと、手を出すわけにはいかなくなる。――その為に、正にその為に、今ガルゼフはここに奇跡をこえて立っているのだから。

「わかりましたわ。周囲はお任せ下さいませ。――ソフィ、ニロフ以外で大物が出た時、担当をお願いしますわ。アタッカーとしては勿論、あなたの聖属性はアンデットには圧倒的ですわ。これ以上の適任はいない」

「了解です。元よりそのつもりだし」

 エカテリスの指示に、ソフィは勝ち気な笑みで返事をする。ただでさえ強力なアタッカーが相性の関係で更に強力になる。頼りになる以外の何者でもなかった。

「もう一人、大物優先担当でレナ。聖属性程じゃないけれど、炎もアンデットには良く効きますわ」

「あれ、勇者君の護衛は」

「今回は他団員でフォローしますわ。安心なさい、ライトも」

「んー、まあ仕方ないっか。ウチのメンバーならどうにでも出来るし。――勇者君、もし勇者君がゾンビになっても守っ……臭いから嫌だなあ」

「縁起でもないしそういう問題!?」

 冗談じゃない所である。そうならない所に願うばかり。

「私とリバール、マークは小物を担当しましょう。ガルゼフ様、ソフィ、レナの邪魔をさせないように。直接戦闘が危ういならマークは私達、及びソフィとレナのフォローを」

「わかりました」

「了解致しました。――防ぐのであり得ない事ではありますが、私は姫様がゾンビになったら私もゾンビになります」

 謎の決意表明だった。嬉しいような嬉しくないような、エカテリスも複雑な表情である。

「ハル、サラフォンはライトの護衛を前提としつつ、全体のフォローを。ハルが二人を守りながらなら、サラフォンもライトの隣で遠距離攻撃が遠慮なく出来るでしょうし、そこは臨機応変で」

「畏まりました」

「り、了解です!――え、えっと、ボクは二人がゾンビになったら、困るから……どうしよう、ハルに相談……でもハルもゾンビ……ゾンビになってもハルに相談します!」

「……サラはその手の決意表明しなくていいわ。頑張って、誰もならなければいいだけのことよ」

 ゾンビになっても頼られるハル。それはそれでハルも困るだろう。

「ライト、貴方はとにかく戦場を広く見ていて。はっきり言って、何が起きるかわからない場所よ。ほんの少しの違和感、変化、見逃さず、いざとなったら指示を出して」

「わかった」

 厳しい事を言えば戦力にならないこその仕事ではあるが、それでも決して無駄ではない役目であることはわかった。ライトは自分が少しでも役に立てるように、気合を入れ直す。

「ほっほっほ、決まったかの? それじゃ行こうかの。奴も待ちかねてるじゃろうて」



「何だか……ここだけ、何処かの神殿みたいだ……」

 ついポツリ、とライトが感想を呟く。――空洞内に入り、先に進み、特に問題なく目的の部屋へ。道中は正に洞窟、と言った感じの雰囲気だったが、封印石のある部屋は、空間は洞窟なのに、空気が独特の、不思議な感覚をもたらしていた。結果として出たライトの感想、である。

「封印には聖魔法も大きく使われておるからのう。ライト君がそう感じるのも無理はないわい」

 そう言いながら、ガルゼフはスタスタと中央へ。勿論中央には封印石。まるで大きな墓石の様に、そこにそびえ立っていた。自然とライト騎士団は少し離れた場所からそれを見守る形となる。

「さて、本番じゃ。準備はいいかの?」

「抜かりありませんわ。作戦通りに」

「うむ。では行くぞい」

 ガルゼフが手をかざす。魔力を込めたのだろう、ボワッ、と一瞬大きな光を放つ。

「!?」

 瞬間、ゴゴゴゴゴ、と響きながら部屋が揺れる。そのままバリン! と大きな音を立てて封印石が割れた。

「オォォォォォォ……」

 そしてその封印石の割れ目から、灰色の煙が上がる。視界を奪う程だったが、直ぐに薄まっていく。そして晴れた視界の先に、

「あれが……ニロフ……!?」

 ボロボロのローブを纏った骸骨が立っていた。骸骨がローブを纏っただけのはずなのに、それは圧倒的存在感を示していた。

「久々じゃの、ニロフ。儂じゃよ、ガルゼフじゃ」

 その骸骨――ニロフに、ガルゼフは語り掛ける。

「随分長い間、本当に長い間、待たせてしまったの。まずは謝らせてくれ。すまぬ」

「…………」

 ガルゼフの問いかけに、ニロフは反応しない。それでもガルゼフは続ける。

「それも今日で終わりじゃ。もうお主は自由じゃ。さあ、思い出してくれ。一緒に帰らんか?」

「……ォォォ」

 ニロフが反応する。でも――同時に感じる、ビリビリ、という痛い感覚、空気。才能のないライトでもわかった。……ニロフが、魔力を溜めている。

「……思い出せんか。それとも怒っておるのか。そうじゃの、お主には背負わせ過ぎた。無理もない。じゃがの、儂もタダで許して貰おうとは思っておらんぞ。ほれ!」

 と、勢いよくガルゼフは、ニロフの前に数冊、スケベ本を――

「ってスケベ本置いてる!?」

「まずは今の時代を感じてもらわんと。ニロフも好きじゃったからの」

「格好良く言ってるけどスケベ本ですよ!? いつ用意したんですか!?」

 距離があるので大声でツッコミを入れるライト。素で何で、と言った感じの表情を見せるガルゼフ。――いや何ではこっちの台詞なんですけど!

「ォォォォオオオオオ!」

 そして直後、ニロフの魔力がはっきりと溢れ、爆発する。周囲に多くのアンデットモンスターを召喚し……スケベ本は、塵と消えた。

「若なら喜んでくれたのに……」

「そういう問題じゃないでしょう! 明らかに怒ってますよ!」

「なら仕方ない。――昔のように、魔法で語り合おうかの、お互い納得するまで」

 そう言い切ると、こちらも分かり易く魔力が溢れ出す。――年齢不詳の老人が出せるような魔力でも存在感でもない。……本番が、始まろうとしていた。

「勇者とその仲間達よ、周りのガヤを、頼むぞい」

「作戦通りに! 頼むぞ、みんな!」

 こうして、戦いの火蓋が――切って、落とされた。

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