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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第四十六話 演者勇者と偽勇者1

「君達に、偽勇者の討伐を命じる」

 ハインハウルス王国国王・ヨゼルドに新しい任務があると知らされ召集されたライト騎士団。真面目な表情で告げられた任務は偽勇者の討伐であった。――って、

「……国王様、偽勇者の討伐って、まさか」

「勇者君、ごめんね。王様の命令には逆らえない」

 ハッとして見れば、ライトの隣のレナは、既に剣を抜いて――

「のわー! 待って待って待った! 国王様どういう事ですか!? 俺何かやらかしたんですか!? 流石にここへ来ていきなり討伐は酷過ぎませんか!? 助けて!」

「ライト、落ち着いて、貴方の事は私達が守りますわ。レナ、剣を納めなさい。私の命令ですわ」

「はーい。――ってことは、逆に王様に逆らうということに……王様申し訳ありません、姫様の命令には逆らえません」

 そのままレナが抜いた剣をヨゼルドに向けようと――

「のわー! 待ってくれ、待つんだレナ君! エカテリス助けて!」

 …………。

「あれ何でパパ相手だと止めてくれないの!? ライト君の時は直ぐに助けたのに!」

「自業自得ですわ。本当にライトに対して何かするつもりなら論外ですし、そうでないにしろ説明が足りません」

「これからするつもりだったのに……」

 エカテリスに冷たくされて嘆くヨゼルド。最早見慣れた光景であった。――ここまで来ると早とちりした自分が申し訳なくなるライトである。……早とちり、なんだよな?

「まずは根本的な誤解を解こう。決してライト君をどうにかするという話ではない。ライト君は王国公認の演者勇者であって、今回討伐命令を下すのは非公認の偽勇者だ」

 言いたいことはわかったが、非常にややこしい話であった。……つまりは、

「俺とは違って勇者様の無許可の偽者が出てきた、ってことですか?」

「うむ。モンテローという地方の街に、最近勇者が滞在しているという話が出てきている。残念ながら未だ本物は見つかっていないので、名を語る偽者の可能性が高いのだ」

「許せませんわね、勇者様の名を語ろうだなんて……! お父様、兵は何千人出せますの? 出陣ですわ、このエカテリス、偽勇者という極悪人を血祭りにして参りますわ!」

 流石の勇者愛、最早戦争を起こす気満々のエカテリスであった。――年頃の女の子、しかも王女様が血祭りとかいいのかな、とライトは別の心配が生まれる。

「お待ち下さい姫様、お気持ちはわかりますが、恐らく国王様は戦争の指揮を執らせる為に我々を呼んだのではないかと思われます」

 と、エカテリスの横にいたリバールが冷静に分析。制止した後、視線をヨゼルドに移し、自分の考えに対する回答を求める。

「リバール君の言う通りだ。早期発見、というのもあるかもしれんが、偽勇者は今のところまだ世間を脅かす程の事をしている様子はない。なので、まずは調査から始めて欲しい」

「つまり、偽勇者の目的を探り、その理由次第では裏に何かが存在しているかもしれない。その根っ子まで断ち切るには、少数精鋭の私達が適任、というわけですね」

 そのソフィの補足でライトも理解を得る。――個人の悪戯の感覚でいるのならこら駄目でしょ、君逮捕……で済むかもしれないが、これがライトのバックに王国がいる様に、大きな組織絡みだと小手先の対応だと後々厄介な事になる可能性があるのだ。例えば他国の策略云々だった場合、下手なミスは逆にこちらが追及される事になるし、何よりその場合演者勇者ライトを抱えているハインハウルスが圧倒的に不利になる。それを防ぐ為に、まずは少数精鋭で対応力が高いライト騎士団での調査、という事なのである。この場合演者勇者ライトというのもポイントであり、彼の存在は偽勇者からするとこちらの弱点であり、同じ位強みでもある。そういう意味でも、ライト騎士団に適任の任務なのであろう。

「出発を明日後とし、準備に入って欲しい。頼んだぞ」

「わかりました。早速支度にかかります」

 まずは団室で話し合いかな、と思っていると、

「ヨゼルド様。今回から私も、遠征の方に参加させて頂きたいのですが」

 その申し出はハルだった。――ハルはご存じヨゼルド専属使用人。他の団員と違いそこまで積極的に任務には参加出来ず、ましてや遠征など論外だと思われていたが、ハル自身からその申し出が出てきた。

「ハル、遠征来てくれるの?」

「私も曖昧な立場でいつまでも参加していたくないですから。――それに、まだ「心配」ではありますし」

 チラリ、とハルが視線を向けるのはサラフォン。ライトが最初に出会った時と比べ大分独り立ち(?)出来始めているが、まだまだ心配という事なのだろう。

「うう……ごめんねハル、ボクの為に」

「いいの、貴女は頑張ってるんだから、気にしないで。それに、団員としてちゃんと参加したいっていうのも本当だし。――ライト様、今までの活動が中途半端だった分、今後精進させて頂きますので、サラフォン共々宜しくお願いします」

「今までが中途半端なんて思ってないけど……でも、来てくれるのは嬉しいし助かるよ。ありがとう」

 キリアルム家の騒動時、ハルも召喚されたモンスターを単独で何体も撃破していたのはライトは後に耳にした。リバールと同じく戦える使用人だったということは戦力としても参加はありがたいし、ここ最近は個人的にも最初に比べて随分仲良くなれた気がしていたので、そういう意味でもライトはハルの参加は嬉しい限りであった。

「うむ。ハル君もライト騎士団なのだ、私の我が侭で行動を制限するつもりはない。君が行きたいの言うのなら構わん」

「ありがとうございます。それで、私が居ない間なのですが」

「はっはっは、心配いらん。私も子供じゃないんだ、ある程度の事は自分で出来る」

 満面の笑みでそう告げるヨゼルド。――何処か嬉しそうなのは気のせいではないとライトは思った。

「いえ、ヨゼルド様の手を必要以上に煩わせるわけには参りません。ですので」

 が、それを予測出来ないハルではない。パチン、とハルが指を鳴らすと、二人の使用人が姿を見せる。

「見込みのある後輩を養成しておきました。今後は彼女達をヨゼルド様直属使用人補佐、つまり私の補佐、私がいない間のヨゼルド様専任の使用人とさせて頂きます」

「ホランです。姉になります」

「ルランです。妹になります」

 現れた二人の順番の自己紹介にどちらが姉か妹かの補足が付いた。というのも、

「へー、双子じゃん。姉妹揃って使用人って珍しいねー」

 レナが口に出した感想はライトの心の中の感想と同じで、顔も声も瓜二つの双子だったからだ。

「彼女達は優秀です。私が居ない時は私に頼んでいた時と同様の働きをしてくれるので、遠慮なく仕事を頼んで下さい」

「そ、そうか、流石ハル君だ。――ただ別に、無理して気を使ってくれなくても」

「安心して下さい国王様、我々姉妹、ハルさんから完璧に教わっています。今は一人では役不足でも、二人合わせればハルさんと同じ活躍が出来ます」

「ああいや、君達を疑っているわけではないんだ。でもだな」

「そこで取り出すべきはこのチェックシート。これはハルさんに言われた特に注視すべき日々の重要ポイントが書かれています。朝の起床の時間から、隠し金庫の位置まで――」

「隠し金庫……? お父様、一体何を――」

「ノオオオオオ! 騎士団の諸君、私は忙しいのでこれで失礼する! 良い報告を待っている! じゃ!」

 ズダダダダダダ!――エカテリスが口に出しかけた疑問を振り切るようにヨゼルドが駆け足でこの場を去り、

「お待ち下さい国王様、今から私室清掃の時間です、他の場所で――」

「駄目ー! 十分、いや五分待って! 準備があるの!」

 スタタタタタタ!――そのヨゼルドを、双子使用人姉妹が駆け足で追う形で居なくなった。

「さ、流石ハルの後輩……足が速いね……!」

「いやあサラフォン、俺驚く箇所そこじゃないと思うぞ」

 そんな平和な光景を見つつ、ライト騎士団は新たなる任務の準備に入るのであった。



「それでは、最終確認をしましょう」

 そして任務を告げられて明日後、ライト騎士団七名は馬車に揺られながら、モンテローを目指して移動中。

「マーク君……いたんだ……」

「いましたよずっと!? 何も最近してなかったよねみたいな顔しないで下さい!」

 最終確認を読み上げようとしたマークをレナが弄る。――相変わらずマークは縁の下の力持ちなので、目立ち難いが日々ライトの事務官として仕事を優秀にこなしているのは余談である。

「オホン。――現在我々はモンテローに向けて移動中。目的は、最近モンテローに在籍してるという噂の偽勇者の調査です。我々ハインハウルス軍としては、ライトさんという存在がいる以上、当然放っておくわけにはいきません。彼の目的は何か調べ、然るべき処置を行う必要があります」

 もしかしたらスケールが違うだけで、その偽勇者も何か事情があるのかもしれない。そうだったら演者勇者として申し訳ないな、とライトはつい思ってしまう。

「作戦として、まずは素性を隠して接触、しばらく調査を行います。当然軍の所属という事も隠します」

 用意した馬車、馬車の操縦用兵士、各々の装備品も軍の品だとバレそうな物は既にカモフラージュされている。

「我々はライト騎士団という傭兵クラン、チームという事で通します。ライトさんが団長なのは同じですが、勿論勇者である事は隠します。――レナさん、呼び方を気を付けて下さい」

 レナは普段ライトを「勇者君」と呼んでいる。流石にそれはマズイだろう。

「ああそっか、どうしよっかな。――演者君」

「ごめんレナそれは流石に勘弁してくれないか」

 間違ってはいないのだが何か嫌だ。

「名詞で呼びたいなら団長でいいでしょう、レナ。私だけじゃなく、皆にとっても団長なのだから」

「しょうがないじゃあそれで。――色々候補あったのになあ」

 不服そうだがレナはソフィの提案を呑む。他の候補など怖くて訊けないライトである。――普通に名前で呼ぶのそんなに嫌なのかな。

「同様の立ち位置に王女様がいます。こちらはライトさん以外ほとんど王女様、姫様などという呼び方をしています。これは当然駄目ですし、お名前であるエカテリス、も駄目です」

「ですので、今から私の事は任務中はエリーと呼んで下さる? ライト騎士団副団長のエリー、それ以上でもそれ以下でもないですわ」

 いつぞやまで使用していた偽名が生きる時が再びやって来た。――流石に口調は直せないが、そこは他がカバーだろう。

「こ、これはもしや場合によっては呼び捨て、更にはエリーちゃんなどと呼ぶチャンスが……! 駄目よリバール、仕える主にそんな呼び方は……ああでも任務だから仕方がない……でも……ううん呼んでみたい……私はどうすれば……!」

 そしてエカテリスの横のリバールが悶え苦しんでいた。別に任務だから名前を変えるだけだから呼び捨てやちゃん付けじゃなくてもいいはずなのだが、そこは黙っておいてあげる他の面々なのであった。――ガタン。

「っと、どうしました?」

 そんな時だった。馬車が急停止した。急いでマークが操縦役に確認を取る。

「道の先にスライムが三匹程居座ってて……」

 顔を出して見て見れば、成程先に大きめのボールサイズのスライムが三匹、デン、と道を塞いでいる。あれでは流石に通れない。

「勇者君……じゃない、団長君、蹴散らしてくる? アルファスさんの所で訓練してるなら多分君でもやれるよ」

「え、そういうもの?」

「うん。危なくなったらウチのメンバーがフォローしてあげるからさ」

 実際ライトはモンスターと正面切って戦った事はない。――そう言われてしまうと、試してみたくなってきた。剣を確認し、腰を上げて――

「どりゃああああああ!」

 ――行ってくる、フォロー頼むね、と頼もうとした時、その掛け声が、周辺に響き渡ったのであった。

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