第四十四話 演者勇者と魔具工具師14
「さて、この辺りが潮時ですかね」
騒ぎも徐々に確実にライト騎士団と仲間達のおかげで落ち着いてきたキリアルム家の屋敷――を、少し離れた所から見つめる一人の女。ナトラン家長男、ヤンカガの従者「だった」、クレーネルである。
「若様、残念です。貴方の心意気なら、神様はお選びになってくれるかもしれないと私としても期待を寄せていたのですが、所詮その程度ですか。しかも最後は絆されて。――神様への冒涜ですね。きっと貴方には、直に天罰が下るでしょう。今回の事で捕まる、大怪我を負う? その程度だと思わないで下さいね」
勿論、ヤンカガを暴走させたのはクレーネルである。彼の心の隙間に「力」を注ぎ込み、今回の事件を勃発。自分は早急に距離を取り、更に魔法陣を作りモンスターを召喚させ続けていた。
「しかし……失敗の原因が私にもあるかもしれません。私もまだ未熟という事なのでしょう。――神よ、帰還したら、正式に謝罪をさせて頂きます」
ハルが考えていた様に(パーティ会場内での召喚は力を与えられたヤンカガによるものだが)、屋敷内外での今回の召喚は全てこの黒幕と言ってもいいであろうクレーネルが行っていた。――圧倒的、尋常ではない魔力と技術である。そのクレーネルであるが、今回自ら戦闘には参加していないとは言え、被害も控え目に事態は収束させられてしまいそうであった。原因は勿論前述通りライト騎士団の精鋭が、このパーティに参加していた事である。――ライト騎士団。勇者と仲間達。
「にしても、勇者、ですか。その名に相応しい人間が揃っているのですね」
逆に自らが戦闘に参加していたらどうなっていたのか。数、シチュエーションにもよるが、クレーネルも負ける気はしなかったが、決して無事では終わらないだろう。
「勇者様、私達は神様のご意向に沿って生きているのです。どうか今後、私達とぶつかり合う事のない様に、願っていますよ。――私としても、世界を救おうとしている英雄を無暗に消し去りたくはないですから」
そう言い残すと、闇夜の影の中に、スッ、とクレーネルは姿を消すのであった。
「はっ、はっ……イセリーさん、大丈夫? 絶対、無理はしないで、イセリーさんのペースに合わせるから」
「大丈夫です……はっ、はっ……頑張りますから……!」
イセリーの手を取り、イセリーに気を使いながらライトは懸命に走る。目的地は勿論「明るく灯された」キリアルム家屋敷。
単純に体力はライトの方があり、更にはドレスという走るのに到底及ばないイセリーの格好。思うように速度は出ないが、それでも二人は懸命に走る。
「ギャオオ!」
「!」
途中、次々に周囲に突然召喚されるモンスター、
「ギャアア!」
そして召喚された直後、屋敷屋上から撃たれてると思われる魔法の弾丸で瞬時に消滅するモンスターを片目に、二人は屋敷を目指していた。――ライトの予測は当たっていた。分かり易く屋上を照らしていてくれているのがレナで、その屋上から狙撃でモンスターに微動もさせず消滅させているのがサラフォン。
(サラフォン……凄い……凄いなんてもんじゃないだろ……!)
訓練場でも射撃姿を見かけ、その格好良さに興奮したが、今は実戦。勿論距離も相当あり、例えば熟練の魔法使いでも、この距離のモンスターを倒すことは出来ても、その直ぐ近くにいるライトとイセリーを傷付けずに済むかどうかと言われたら、まったく別次元の話である。それをサラフォンはやり遂げている。一度のミスも起こさずに。――命の危険、イセリーの安全を考えると同時に、ライトはサラフォンの腕前に興奮を感じざるを得ない。
徐々に、でも確実に近付いてくる屋敷。それに反比例する様に、出現するモンスターの数は減っていき、屋敷の前に辿り着く頃には、モンスターの出現、気配は無くなっていた。――それは、事態の収束を意味していた。
「ふーっ……イセリーさん、大丈夫だった?」
「はい。食後のいい運動になったかも、ですね」
イセリーも、そんな冗談が言える位気持ちが落ち着いていた。――本当に、彼女に怪我が無くて良かった。
「勇者君っ!」
と、そんな事を思っていると、上からそんな声が降ってきた。――降ってきた?
「え」
ブワアッ、スタッ!――声と一緒に、レナが屋上から飛び降りて来た。地面付近で自らの炎魔法で爆風のクッションを作り、見事に着地。本当に降ってきていた。
「勇者君、怪我は?」
「大丈夫、俺もイセリーさんも何処も怪我一つしてない。皆のおかげ――」
「良かった……!」
皆のおかげだよ、ありがとう。――そう言いかけたライトを、そのままレナは抱き締める。
「……レナ……?」
「ごめん。――私の、せいだったから」
「レナの……せい?」
勢いのまま抱き締められたライトは、どうしていいかわからずそのまま会話が進む形となった。――レナの見た事のない様子に、驚きを隠せない。
「私は、君の護衛。それなのに、君を必要以上に危険な目に合わせた」
確かに、演者勇者に就任してから、今回が一番の危険だったかもしれない。今までは必ずレナを始め、誰かが近くにいたし、守れる位置にいた。事実守って貰って来た。今回はそれが一定時間、確実に射程外となってしまった。――それでも。
「でも、守ってくれたじゃないか。位置を照らして、サラフォンを直ぐに連れてきてくれたのはレナだろ?」
サラフォンとハルを連れ、屋上からのフォロー。適格な判断である。……しかし、レナはそれを認めない。
「それは結果論だよ。一つ食い違えたら君もイセリーもここには居ない。――私にはそれを防ぐ義務と、何より防ぐだけの実力があった。でも私はあの時、判断を間違えた。……私の、ミスなんだよ」
ワープする直前、レナと雷鳴の翼の一騎打ちの様子をライトは思い出す。見ていて何かいつもと違う、心に不安を残すレナだった。そして今のレナも同じく、何処か壊れそうな雰囲気を漂わせる。――レナなりの、何かがあるのだろう。それを今問うつもりは到底ないが、それでも彼女のミスを認めないのは、彼女の為にならない。ライトはそう感じた。
「……わかったよ、レナ」
ライトは軽くだが抱き締め返し、レナの罪を受け入れる。
「でも、リカバリーは完璧だったのも事実だから。レナのミス、リカバリー、その両方を汲んだ上で――俺はこれからも護衛としてのレナ、仲間としてのレナを信じるから」
そして、何も変わらず、寄り添うことで彼女が安心出来るなら。そう思い、今の精一杯の想いをレナに伝えた。
「ありがと。――もう、私のミスで、君を傷付ける様な事は起こさせない。約束する」
「うん」
そう言うと、ゆっくりとレナは抱擁を終え、体を離す。その表情は落ち着いた、時折見せてくれた優しい物に変わっていた。
「――そうだ、サラフォンは? 屋上からの攻撃、実際全部サラフォンだったんだろ?」
「うん。ソフィから出来るとは聞いてたけど、流石に驚いたよ。想像の斜め上を行ってた。私も勇者君も、本当に助けられた形になっちゃった」
フッっとレナが上を促すので見て見ると、心配そうにこちらを上から見ているサラフォンと目が合った。
「サラフォーン! ありがとうなー! お陰で、俺もイセリーさんも、怪我一つないぞ!」
屋上に行く時間ももどかしく感じたライトは、ついその場で大声でお礼を叫ぶ。――直ぐに伝えたかった。感謝の気持ちを、感動の想いを。
「凄かった、本当に凄かった! サラフォン自身も、サラフォンが作ったその銃も、他の誰にもない、唯一無二の才能じゃないか! 胸張ってくれ、自信持ってくれよ! 俺と、ここにいる俺の仲間達が証人だ! サラフォンは、ハインハウルスが誇る、最高の魔具工具師だよ! 俺は、君と友達になれた事、誇りに思う! だから、諦めるなよ! 絶対に、絶対に、魔具工具師、諦めないでくれよ!」
サラフォンにそのままライトは笑顔でピースサインを送る。言葉の返事こそ聞こえなかったが、サラフォンは、目に涙を溜め、それでも笑顔で、ゆっくりと頷くのだった。
「なんや、ええ顔出来るやん。生きてる目、持ってるやんか」
一方の屋上の片隅。――雷鳴の翼が、ライトを抱き締めるレナの姿を見ていた。ライトの為に必死に駆け回り、今こうしてライトの無事を確認するレナの目は、自分に怒りのままに切り掛かって来た時とは違う、強い想いを持った目をしていた。
「まあでも無事で良かったわ、イセリーちゃんも。確かにウチのせい言われてもしゃあない所もあったしなあ」
ポリポリ、と頭をかきながら反省。――アカンなあ。まだまだ未熟やな、ウチも。
「さてと、落ち着いたみたいやし、そろそろウチはお暇――」
「させて貰えるとでも思ってるんじゃねえだろうな、ああ?」
その声に振り替えると、二人の人影。ライト騎士団で、特に雷鳴の翼の行方を追っていた、ソフィとリバールであった。……というか、
「え、ちょ、金髪のお姉さん雰囲気違い過ぎやんけ!? あれもっと清楚な感じやなかった!?」
「その変な口調になってるテメエに言われたくはねえわ」
二人共、今の口調になる前、騒ぎになる前の警備の時に会って話をしていた。その件もあってソフィは正体に気付き、彼女を追っていたのである。
「ちょ、ウチの地方の方言馬鹿にせんといてやー、伝統あんねんで」
「はぐらかすな。そもそもアタシ達は雷鳴の翼を捕まえる為にこのパーティに参加してんだよ、わかってるだろ」
「いやあ、まあ、そうなんでしょうけど、とりあえず皆無事やし、ウチももうイセリーちゃんに手を出す気も無いし、一件落着でええやん」
「それは貴女が決める事ではないですね」
その時、既にリバールが雷鳴の翼の後ろに回っており、その言葉と共に愛用の短剣を振るっていた。――ガキィン!
「うおっ、銀髪のお姉さんもヤバイやん、速過ぎやん! 勇者とその仲間達半端ないわー」
「――っ」
だが、その攻撃も雷鳴の翼は左手に装備していた小手の甲の部分でガード。――リバールの速さに、付いて来ている。ソフィ、リバール共に雷鳴の翼の実力の高さを痛感する。だが、
「リバール、そのままキープな。――全力でぶっ飛ばす」
この状態にソフィが加われば、流石に雷鳴の翼に勝ち目はなかった。それは本人も認識していた様で、
「ちょ待、堪忍してーな! わかった、情報提供するから! それでチャラにして!」
降参ポーズを見せると、何処からともなく一枚の折り畳まれた紙を取り出し、ソフィに手渡す。広げてみれば、
「……魔法陣?」
「今回のあのキモいモンスター呼んどった奴や。得体が知れへん相手やから、今後のウチの活動に支障が出るかもと思て念の為にコピーしといたんよ。軍にならこういうの解析出来る人とかおるんやろ? ウチはコピーは出来ても解析は出来へんから」
「……心拍数の様子からして、嘘は言っていないですね」
「うわウチの後ろに人間ウソ発見器がおる」
勿論リバールの言葉ありきではあるが、ソフィとしても何処か嘘を言っている様には見えなかったので、受け取った紙を仕舞い、リバールに目で合図。リバールが短剣を下ろすと、雷鳴の翼はふーっ、と溜め息。
「おおきにな。んじゃ、ウチはお暇するわ」
「覚えておけ。次アタシ達の手の届く所でくだらない事をしてみろ。命の保証すらしねえ」
「言われなくてもおたくら敵に回してもアカンのは痛感したわ。普通にやたらとぶつかり合う気起きへん。――おたくらも、ウチをそういう意味で「マジ」にはさせんといてな。そいじゃ」
笑顔でそう告げてくるが――場合によっては、命を懸けてでも戦う覚悟はある、という事である。掴み所がないが、侮れない存在なのを認識せざるを得ない。
雷鳴の翼はそのまま屋上の柵をヒラリと飛び越えると、一瞬にして姿を消すのだった。
「凄かった、本当に凄かった! サラフォン自身も、サラフォンが作ったその銃も、他の誰にもない、唯一無二の才能じゃないか! 胸張ってくれ、自信持ってくれよ! 俺と、ここにいる俺の仲間達が証人だ! サラフォンは、ハインハウルスが誇る、最高の魔具工具師だよ! 俺は、君と友達になれた事、誇りに思う! だから、諦めるなよ! 絶対に、絶対に、魔具工具師、諦めないでくれよ!」
その言葉と共に、笑顔でピースサインを送ってくるライト。無事であった事の安堵、自分が失敗せず援護出来た事の安堵、そしてこれ以上ない程自分への賛辞の言葉。サラフォンは涙で視界が滲み、言葉も上手く出ない。笑顔を作って頷いてみせるので精一杯だった。
やがてライトはレナに促され、屋敷の中へ。緊張が解れたサラフォンは、その場でへたり、と座り込んでしまった。
「お疲れ様」
「ハル。――ハルもお疲れ様。それに、ありがとう。ハルの励ましが無かったら、ボクきっと失敗してたよ。一生消えない後悔をしてた」
座り込んでるサラフォンの両肩に笑顔で両手を乗せるハル。その温もりが気持ちを落ち着かせてくれたか、先程まで上手く出なかった言葉もちゃんと出るようになっていた。
「言ったでしょう? 貴女は、出来るって。――貴女の実力よ。私も、ライト様の言葉に同意よ。もっと自信を持って」
「自信、か……」
立て掛けた狙撃用魔法銃を見る。正直、自分では未だ信じられない。でも、あれが自分の本来の実力だと言うのなら、実力が発揮出来たのは、大切な人達がいてくれたから。――大切な人の為なら、強くなれるのかもしれない。本当に、胸を張れる日が来るかもしれない。
「ハル、ボク、目標出来たよ」
だったら――やるべき事は、決まっている。
「ボク、ライトくんの近くに立つのに、相応しい人間になりたい」
その目標は、何の迷いも恥じらいもなく、サラフォンの口から力強く語られる。
「魔具工具師として、人として、勇者ライトの隣にいても、誰にも不安を抱かれない、文句を言われない、そんな人間になりたい。――ううん、そんな人間になる」
そしてまた、その言葉はサラフォンだけでなく、ハルにとっても非常に大きい物だった。――幼い頃から彼女を見て来た。貴族の家に生まれ、整った容姿、突出した才能を持ちながらも、ただ何となく流されるような人生を歩んでいた。魔具工具師になる時ですら、何処か曖昧な心を残したままだった。心配で付いてきた。親元を離れても結局何も変わらなかった。自分のせいかもしれないと悩んだ時もあった。そんな彼女が、今ハッキリと、自分の意思を、前向きな目標を、力強く宣言していた。
「大丈夫。――貴女なら、きっとなれる。それも、保証してあげる」
嬉しくないわけがない。――まだまだ時間はかかるだろう。自分が手を貸す時もあるだろう。でも、彼女が前に進む為の一歩に手を貸せるなら、いくらでもこの手を差し出そう。……大切な、友人なのだから。
「えっと……それでね、その……ハルに、お願いがあるんだ」
「早速相談? 何かしら?」
ハルとしてもそんな気持ちが固まったばかり。喜んで話を聞こう、と思ったら。
「ボク……可愛く、なりたい」
「……えっ?」
それは――そんなハルにとっても、予想外の相談だった。
「魔具工具師として頑張る他に、もうちょっと、女の子らしくなりたいな、って……だから、ハルに、お化粧とか、ファッションとか、教えて貰いた――わっぷぷっ!」
言葉の途中で、ハルが思いっきりサラフォンに抱き着いた。――自分の事の様に、心がときめいた。目の前の幼馴染を、抱きしめずにはいられなかった。あのサラが、可愛くなりたい? 女の子らしくなりたい、ですって?
理由を問うつもりはない。ハル自身は予測出来ても、きっと彼女の中で、まだ曖昧な感情なのだろう。でも――
「……ふふっ」
「ハル……?」
つい笑みがこぼれる。――わかってる? その言葉を口に出した時点で、もう十分過ぎる位、可愛い女の子なのよ?
「教えてあげてもいいけど――厳しくいくわよ? 今まで自分で何もしてこなかった分を取り戻す為に、やらなきゃいけない事、山積みだもの。覚悟しなさい」
「う、うん、宜しくお願いします」
こうして、それぞれの結末を迎え、キリアルム家の事件は、幕を閉じるのであった。
そして、キリアルム家の騒動から、数日経過した。
結局軍の調査でも、ヤンカガは何者かに利用された事まではわかったが、当のヤンカガが精神的に病んでしまい、事件前後の事をまったく覚えておらず、そもそも自分自身の事も曖昧になってしまっている状態なので、結局黒幕が何者かはわからないままだった。
現在は雷鳴の翼がソフィに手渡した魔法陣から何かわからないか、軍のその手の専門家が調査中らしいが、結果が出るのはいつになるかわからないとの事。こうしてとりあえず、今回の件に関して、ライト騎士団の任務は終了となった。
そして本日、ライトはサラフォンに呼び出され、魔具工具室へ移動中であった。何の要件かは聞いていない。――何の用だろ?
ちなみにサラフォンは、どうやら両親を説得出来たらしく、もうしばらく魔具工具師として軍に籍を置くことになっていた。どう説得したのかは教えてはくれなかったものの、ハルとサラフォンの様子を見る限り、良い傾向である事は察せられたので、ライトとしても深くは追及しない事に。パーティ終わり、サラフォンの両親がライトに挨拶に来たのだけがライトとしては若干心に引っかかったのだが。――え、俺も何か関係してるんだろうか。
そんな回想をしている内に、魔具工具室の前へ。
「サラフォン、俺、ライト。入るよ」
ノックして、ドアを開けると、
「……あれ?」
入って直ぐに感じる違い。――部屋が、片付いている。いや確かに作業部屋なので色々な工具等はあるが、最初に来た時の様なゴッチャリした雰囲気とはまるで違う、しっかりとした印象を受けた。
「あ、ライトくん、いらっしゃい。わざわざ来て貰ってごめんね」
と、出迎えに姿を現したサラフォンは、相変わらずのボサボサヨレヨレ――
「……あり?」
――じゃなかった。勿論作業用に動きやすく、シャツにオーバーオールという格好だったが、決してボサボサヨレヨレではなく、髪の毛も綺麗に纏められており、ドレスアップした時の可愛らしさを十分に残した、言うなれば「工具女子」がそこにいた。
ふと見れば、ハルも部屋にいた。どういうこと、何があったの、という視線を送ってみると、してやったり、という笑顔を返された。ハルの性格、そして今の笑顔からして、ハルが直接手を出したわけではなさそう……つまり、サラフォンが自ら頑張った、という事になる。
「……ライトくん?」
「あ、いや、うん。――えっと、話があるって聞いたけど」
意図は掴めないままだったが、これ以上考えても仕方ないと思ったライトは、本題に入って貰う事に。
「うん。まずはライトくんに、受け取って欲しい物があるんだ」
そう言うと、サラフォンはライトに一つの箱を手渡してきた。開けてみると、
「……ハンドキャノン?」
サラフォンお手製だろう、片手で持てるサイズの魔法銃が入っていた。
「これ、ライトくんの為に作ったんだ」
「え、俺の為に?」
「うん。使い易く弾丸製にしてあるよ。勿論弾丸製だから弾が無くなったら駄目だけど、でもいざっていう時にライトくんの助けになってくれたら嬉しいな、って」
「つまり、俺専用ってこと? マジか、ありがとう、欲しかったんだよ! うわ、普通に嬉しい!」
ライトがこの手の品に憧れを持っていたのは本当で、自分用だとわかると、子供の様にテンションが上がってしまった。取り出して持ってみたり、構えてみたり、弾を入れる箇所を弄ってみたり。
「ふふっ、喜んでくれたみたいで嬉しい」
「いや、だって自分専用だし! 格好良いよな、デザインも良い! ありがとうサラフォン! 大事にするよ」
「そうして貰えると作った甲斐があるよ。……それでね、今日はもう一つ話が……っていうよりも、お願いが、あるんだ」
「お願い? 俺に?」
見ると、サラフォンの表情が一気に緊張していくのがわかった。そして、
「うん。えっと、その……ボ、ボクを、ライト騎士団に入れて下さい、お願いします!」
ガバッ、と勢いよく頭を下げながら、そうライトに告げてきた。
「え、サラフォン騎士団入ってくれるの? 大歓迎だよ、寧ろこっちから誘いたかった位だし」
「わかってる、まだまだボクは一人じゃ何も出来ない、情けない人間だって。でも、それでもライトくんとハルの傍で、頑張ってみたいんだ。足を引っ張らないように頑張るから、どうかお願いします!」
「いや、その、何を謙遜してるのかわからないけど、大歓迎だから」
「いや、そのねライトくん、ボク、これから頑張るから、その姿を見てからでもいいのでお願いします!」
「あ、いや、だから、俺としてはサラフォンが頑張ってるのは知ってるから全然ウェルカムなわけで」
「その、あの……あれ?」
「え?」
サラフォンがここでやっと顔を上げた。会話の一方通行。サラフォンのこの辺りはまだ改善されていない様で。……傍らで、ハルが笑いを堪えていた。
「ボク、入ってもいいの?」
「いや、その、だから、うん。――入ってくれてありがとう、これからも宜しく」
落ち着いて、あらためてそうライトが告げると、やっと浸透したようで、緊張の面持ちが一気に満面の笑みに変わった。
「やった、やったよハル! 今日からボクもライト騎士団だよ!」
「はいはい、おめでとう。――二人で、ライト様の為に頑張って行きましょう」
「うん!」
勢いのままハルに抱き着いてサラフォンは報告。勿論ハルは聞こえていたのでわかってはいたのだが、それでも優しく抱き締め返し、そう決意を語った。
こうして、また新たに一人、ライト騎士団に人材が加入したのであった。