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第四十三話 演者勇者と魔具工具師13

「うわっ!」「きゃあっ!」

 ドシンドシン。――ライトとイセリーは、見事に同時に尻もちで着地。

「痛てて……イセリーさん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。――ありがとうございます」

 ライトは先に立ち上がり、イセリーに手を貸して立ち上がるのを手伝う。パンパン、とイセリーも服を叩きながら立つ。お互い怪我は無さそうだった。

「二人で魔法陣踏んで、ワープしちゃったのか……何処だここ」

 見渡す限り木、木、木。――つまり森の中である。時間も更けてきており、目の前のイセリーがギリギリ認識出来る程度の視界しか確保出来ない。

「あ、そうだ」

 ライトは鞄から勇者グッツを漁り、一つの小箱を取り出す。――覚えておいて良かった。

「勇者様、それは?」

「勇者グッツの一つ、「勇者の灯箱」。使い捨てだけど、最初から魔法が注入されててそれを利用して一定時間明かりになるんだ」

 カチッ。――スイッチを入れると、松明を使ったような明るさが二人を包む。大分視界も確保出来るように。

「凄いですね、流石勇者様です」

「いや、これ作ったのサラフォンなんだ」

「サラフォン……ラーチ家のサラフォン様ですか?」

「うん。普段はお城で魔具工具師として在籍してる。他にも色々作ってくれて、相称して勇者グッツって呼んでる。俺も滅茶苦茶助かってる」

 事実、ピンポイントでライトは何度も勇者グッツに助けられている。その功績は大きい。……功績、大きいじゃないか、サラフォン。やっぱりもっと自信を持っていいんじゃないかな。

「あ、ここもしかして……お屋敷の南東にある森かもしれません」

「! イセリーさん、場所わかるの?」

「南門を抜けて少しの所にある森に似ているんです。舗装されている道もあるので、そこに出れれば戻れます」

「戻れるチャンスがあるなら動いた方がいいか。――道、探してみよう」

 明かりを確保出来たし、山のように地面が険しいわけでもなかったので、その明かりを元手に二人は歩いてみる事に。――そのまま歩く事一、二分。

「勇者様、あちらを! 道ですよ!」

 イセリーが声を上げる。促す先には確かにある程度舗装された道。それと――

「ということはお屋敷はあちらの方角……これで戻れます、急ぎましょう!」

「っ!? イセリーさん待って、駄目だ!」

 速足で道へ出ようとするイセリーの腕を掴んで急いでライトは引き留める。――イセリーが促す先には道と……生まれてくる淡い魔法陣。

「! そんな……こんな所にも……!?」

 直後、その魔法陣から、ワープ前に屋敷で見た物と同じモンスターが生まれた。二人に一気に緊張が走る。

「イセリーさん落ち着いて、まだ向こうはこっちに気付いてない」

 距離が多少あり、先に発見出来たお陰か、多少ライトは冷静に分析出来た。モンスターのウロウロしている様子からしても、こちらを感知したから出てきたのであって、発見に至った様子ではなかった。

(落ち着け、落ち着くんだ俺、レナは居ない……俺が何とかしないと、イセリーさんが)

 しかし位置、距離からしても、発見されるのは時間の問題な気がした。――今から森の奥へ逃げるか? いや駄目だ、森の奥にもこの魔法陣が敷かれてたらそれこそ終わりだ。屋敷へ行くか、見つけて貰うか。何とかして合流しないと二人共助からない。

「っ!? あ、あ……お屋敷が……!」

「イセリーさん? 何が――」

 突然更に狼狽える様子を見せるイセリー。ライトが急いで視線を追うと、肉眼で十分見える範囲にキリアルム家の屋敷があり、炎を巻き散らして――って、

「燃えてる……!? 屋敷が、燃えてるのか……1?」

 火の手が上がっていた。屋上と思われる箇所から、この位置でもハッキリとわかるレベルの火の手が上がっていたのだ。

「もう、お屋敷はモンスターの手に落ちて……お父様、お母様、姉様……みんな……」

 ガクッ、と膝から崩れ落ちるイセリー。突然現れた大量のモンスターにより、屋敷は陥落、炎上。家族の安否も絶望。そう考えたのだろう。無理もない光景ではあった。――だが、ライトは違和感を覚える。

(俺達がここへ飛ばされて数分、流石に早すぎる……皆まだあそこにいるんだ、そんな簡単に負けるはずがない……ならあの炎は何だ……? 炎、炎……!?)

 ハッとしてもう一度屋敷を見る。燃えている。屋上が燃えている。――屋上「だけが」燃えていた。

「っ、そうか、そういう事か!」

 そして辿り着いた仮説。――最早それに懸けるしか、ライトには道はなかった。

「イセリーさん、走れる?」

「勇者、様……?」

「君を助ける。君の家族も助ける。俺を――ううん、俺の仲間達を、信じて欲しい」

 ライトはそう言うと、鞄を漁り、再び勇者グッツから一つ取り出す。そして――



「はあああああっ!」

 スタタタッ、ドガバキッ!――気合の連撃で、また一体、モンスターが塵となって消える。

「えーっと、これでもない、これでもない……あっ手が滑っ――」

 ドカーン!――こちらはよくわからない爆発ではあるが、一体、モンスターが塵となって消えた。

「サラ、絶対に無理は駄目よ、必ず私に背中を預ける感覚を消さないで! 落ち着けば貴女の道具で倒せる!」

「う、うん、わかった、気を付ける!」

 さてこちらキリアルム家屋敷内廊下。ハル&サラフォンのコンビが召喚されたモンスターと遭遇、戦闘中である。前者連撃で倒したのがハル、後者謎の爆発で倒したのがサラフォン。

 補足をすれば、決して召喚されたモンスターは弱くはない。一般人がはいそうですかでは当然倒せないし、もしその程度ならここまでの騒ぎにはならない。――要は、それを倒せるだけの実力が二人には備わっている、ということである。

 特筆すべきはハルであろう。今まで彼女は国王ヨゼルドの専属使用人という顔を持ち他の団員より多忙な為、ライト騎士団の前線で戦う事はなかったが、もう一つの顔に「気功拳闘士」という、体内の気功をコントロールし、常人を超える筋力脚力を持って戦う事が出来る、武闘家としての顔を持ち合わせていた。ライトが見かけた常人を超える脚力はそのせいであり、エカテリスが彼女をライト騎士団に勧誘したのもその戦闘力を見込んでの所も十分にあったのだ。

「でも、もうボク達だけでも結構倒したよね? 他の皆も戦ってるんだし、そろそろ殲滅出来てもおかしくないんじゃ」

「普通のモンスターならね。でも相手は召喚型のモンスター。つまり、召喚している人間を倒さない限り、ずっと召喚され続ける。大元を断ち切らない限り、終わらないわ」

「こ、この数をずっと召喚し続けてるって、凄いって言うか、マズいんじゃ」

 サラフォンの不安は最もである。本来なら一定レベル以上のモンスターを一体召喚するのでさえ、結構な魔力を使う。それを膨大な数、この屋敷と周辺に召喚し続けている。目的も素性もまだ不明だが、それでも危険な相手であるということは確かであった。

「でも、相手だっていつかは疲れて来るわ。その隙を逃さない様に、大元を特定して、いつでもライト騎士団が合流出来るようにしておかないと」

 様子を伺う限りでは、キリアルム家の私兵では召喚されたモンスターを相手にするので精一杯。これを操る大元大物を相手に出来るのは、ライト騎士団の精鋭メンバーでないと無理であろう事がハルには察せられた。――チャンスは限られている。でもその極僅かなチャンスを逃さなければ、十分に勝機はある。その想いを胸に、ハルは気功を練り、拳を振るう。

「見つけた! サラフォン、ハル!」

 と、そこに姿を見せたのは、

「あっ、レナさんだ! 良かった、元気そうだよ」

 ライト騎士団の精鋭メンバーの一人、レナであった。サラフォンの指摘通り、怪我等も無さそうで、炎の剣を振るい、モンスターを蹴散らしながらこちらへ走ってくる。

「……っ」

 しかし安堵のサラフォンとは違い、ハルは嫌な予感がした。――理由その一、真剣な表情で、先程の台詞からするに明らかに自分とサラを探していた。理由その二、そこにレナ「しか」いない。……レナの立場からして、傍にもう一人、居るべき人間の姿が見当たらないのだ。

「ごめん二人共、力を貸して。二人にしか出来ない事だから」

「ライト様の身に、危険が及んでるのですね?」

「えっ!? ラ、ライトくんが!?」

 そう。レナの護衛対象であるライトの姿が見当たらない。――ハルとしてもレナの実力の高さは十分に知る所であり、そのレナが見失ってしまうというのは、相当の事態であることを察せざるを得ない。

「事情は移動しながら話す、兎に角今は付いてきて、屋上に行くから」

 そのまま三人は固まって移動を開始。途中何体かモンスターを蹴散らしながらも、レナは事情を簡潔に説明した。――雷鳴の翼の事。その雷鳴の翼がモンスターを呼んでいるわけではない事。だがその雷鳴の翼の脱出用ワープでライトとイセリーが南東の森へワープしてしまった事。

「そ、それじゃ、直ぐにライトくんを助けにいかないと! え、森へ行くんじゃないの!? 屋上に行ってる場合じゃないんじゃ」

「そう、直ぐに勇者君を助けないと駄目なの。一秒でも早く、安全を確保しないと。森に行ってる場合じゃない」

「森にいるライトくんを助けるのに、森に行ってる場合じゃない……? ハッ、そうか、心の森を切り開いて、太陽の光を浴びなさいっていう意味なんですね!」

 サラフォンが哲学的な答えに勝手に辿り着いている一方で、ハルは冷静に分析。レナの狙いに気付く。

「成程、レナ様が何故私とサラを探していたのか、そして屋上に行く理由、合点がいきました。――必要なのはサラで、それをサポートする為の私、なのですね? お任せ下さい」

「ありがと、助かる」

「ハルは心の木こりで、ボクはそのハルの為に斧を準備すればいい……!?」

 誤解が続くサラフォンをそのままに急ぐと、やがて見えてくる屋上への階段、扉。バン、と勢いよくそのまま開くと、

「おりゃおりゃっ!――あ、やっと来おった、待ちくたびれたで!」

 そこには意外な姿が。――レナと別れた、雷鳴の翼であった。屋上でモンスター相手に剣を振るっている。

「アンタ……何してんの?」

「決まっとるやん、アンタらの為に先に屋上確保しておいたろ思てな。――森にいる人間助けるのに森に行かへん時点で、やれる事を考えたら答えは簡単、見晴らしのいい所から魔法の狙撃で安全を確保させながらこっちに呼ぶしかない」

 そう、レナの選んだ方法は、自分がライト所に向かう前に、ライトの周囲のモンスターを倒してしまうという事。どれだけ距離が離れていても、要はライトの周囲の安全が確保出来ればライトは無事で済む。――そして、それが実行出来る人間は、この屋敷内に一人しかいない。その人間を、この屋上に連れて来る事が、レナに出来る最短のライト救出方法だったのだ。

「にしたって、アンタが何で私達の味方してんの?」

「当たり前やろ、放っておいてイセリーちゃん傷付いたら目覚め悪いやんか! そんな事になる位やったら幾らでも協力したるわ! 「雷鳴の翼」はな、怪盗やけど悪人やないねんで!」

 レナとしても、信じていいか迷ったが――そう言いながら剣を振るう彼女は、嘘を言っているようには見えなかった。……今は、信じるしかない。

「ほれ、さっさと支度しいな! 何の為にウチがここでこいつらぶちのめしてる思てんねん!」

「わかった、アンタを今は信じる。――ハル、サラフォン、お願い。私は何とかしてこの位置を勇者君に知らせる」

 レナはそのまま意識を集中、魔力を高める。

「我が手に眠りし炎の精霊よ、この地を包み、燃え照らせ!」

 そして詠唱。直後、屋上周囲が一気に炎の壁に包まれる。屋上の周囲「だけ」を勢いよく燃やし、離れていても十分認識出来る明るさ、存在に。――お願い、気付いてよ、勇者君……!

 一方のハルとサラフォンは、南東の森が視界に入る位置に移動。

「サラ、狙撃用の魔法銃もどうせバラして持ってきてるわよね? 急いで組み立てて支度して」

「! それって」

 ここへ来て、やっと全ての意味をサラフォンは理解する。――同時に襲ってくる緊張。そう、自分次第という事実が、一気に彼女にプレッシャーとなって襲い掛かってきた。

「ちょ、ちょっと待って、流石に無理だよ、こんな離れた所で、ぶっつけ本番なんて!」

「貴女にしか出来ないの。そう思ったから、レナ様も貴女と私をここへ連れてきた」

「そんな……ボク、ボク、でも」

「大丈夫、貴女は出来る。自分を信じて。――背中は私に任せて。貴女は狙撃に集中すればいいから」

 言われるがままに、サラフォンは持って来てある銃を組み立て始める。――手が震えて、上手く組み立てられない。全身が汗で溢れる。

(もしも……ボクが失敗したら、ライトくんが傷付く……ボクにしか出来ない……で、でも、怖いよ……もしも失敗してライトくんに当たったら……? ボク、友達を自分の銃で撃つかもしれないんだよ……? そ、そんな事、出来るわけ……!)

 銃は何とか組み立て終わった。持ち上げて、立ち上がろうとするも、上手く立てない。眩暈と吐き気でおかしくなりそうになる。

「ハ、ハル、やっぱりボク――」

「ごめんなさいサラ、言い方を変えるわ」

 見かねたハルが、サラフォンの手を握り、優しく包む。

「自分を信じられなくても――貴女を信じる、私を信じて」

「……ハル、を?」

「今まで貴女の事で、私が間違ったことを言った事なんてなかったでしょう?――大丈夫、絶対に大丈夫。私が保証してあげる。それに、ライト様だって、きっと信じてくれてるわ」

「ライトくん……」

「大事な友達でしょう? だったら、疑っちゃ駄目よ」

 心の中でハルの言葉を反復し、ライトの顔を思い浮かべた。――サラフォンの中のライトは、強い眼差しで、それでいて優しくこちらを見ていた。……気が付けば、手の震えが止まっていた。

「……ふーっ」

 ガチャッ。――立ち上がり、銃を構え、スコープを覗く。サラフォンの周囲から音が消え、そのスコープの先だけに全神経が集中する。

 直後、森から花火――勇者玉が上がり、音を立てて花火となって消える。それはライトからの合図。姿を見せるライトとイセリーと――モンスター。

(ライトくん……必ず、守ってあげるから!)

 そしてサラフォンは、迷う事無く引き金を引くのだった。

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