表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/383

第四十二話 演者勇者と魔具工具師12

「突然何を言い出すのかと思ったら、私が雷鳴の翼……?」

 その指摘にメーラ、そして横のイセリーも驚きを隠せない。

「勇者様、どういう事なのですか? 私にもわかるように、説明して頂けるのですか? 私、メーラがそんな悪党には思えなくて」

 実際にそう思っているのだろう、少し焦った様に一歩前に出て、イセリーはそう申し出て来る。

「ポイントは、今この状況下で、貴女一人を連れて移動している事です」

「私を連れている事が……?」

「イセリーさん、イセリーさんは結局雷鳴の翼が狙っていたキリアルム家の宝物って、何だと思います?」

 ライトに質問されて、姉ユリアと共にエカテリスに尋ねられ、パーティ会場に展示している特に高価な四つの品々をイセリーは思い浮かべる。……が、どれも決定打に欠ける。一つには絞り込めない。

「雷鳴の翼はキリアルム家で一番高価で美しい物を奪いに行く、と予告して来ました。単純に予告状を送れば、警戒されて、盗みなんてし辛くなる。では予告状を送る理由は何か。最初に考えた可能性は雷鳴の翼が、ナルシスト、もしくは何かしらのポリシーを持っている、ということでした。――でも、この案には矛盾が生じるんです」

「矛盾?」

「ナルシスト、もしくはポリシーがあるのなら、盗みたい品をハッキリと明言して、その硬くなった警備を掻い潜って盗めばいい。でも雷鳴の翼はそれはしていない。警備がきつくなるのが嫌だから? だったら最初から予告状なんて送らなければいい。送るにしてももっと分かり辛い物にすればいい。……という若干の矛盾です」

 チラリ、とメーラを見ると、動揺する様子もなく、真っ直ぐな目で推理を語るライトを見ていた。

「そこで俺が思ったのがもう一つの案。実は、この予告状そのものも、警備を甘くする為の布石なんじゃないか、という事です」

「? 勇者様、それこそ矛盾しています、予告状を送ったらどうして警備が甘くなるんですか?」

「雷鳴の翼が欲しいのは、キリアルム家で一番高価で美しい物。確かにそれは高価で美しいです。でもそれは高価……というより、お金でやり取り出来るような物じゃない」

「高価なのに、お金でやり取り出来ない……?」

「はい。雷鳴の翼が盗もうとしていたのは……イセリーさん、貴女自身なんです」

「私……!?」

「…………」

 驚くイセリー、そしてライトは気付かなかったが、一瞬ピクリ、とメーラが反応をする。

「理由はわかりませんが、珍しい魔法特性のあるオッドアイを持つ美少女。それは確かに、キリアルム家での一番の宝物と言っても過言ではないでしょう。なので雷鳴の翼も嘘を言っているわけではない。その上で――あえて予告状を出し、品物をはぐらかし、私兵として侵入し、俺達や私兵の注意を何処までも高価な「品物」に向けさせ、イセリーさんの警護を甘くし、時が来たらこうして連れ出して攫う。それが計画だったんです。――違いますか? メーラさん……いや、雷鳴の翼」

 ライト、レナ、イセリーの視線がメーラに集まる。ふぅ、と息を吐くメーラ。

「仰りたい事はわかりました。でもあくまでそれも仮説のはず。何か証拠を――っ!?」

 ガキィン!――メーラの言葉の途中で響く金属音。

「証拠は後で探すよー、そういうの得意な仲間いるしね。――勇者君、イセリーを!」

「ああ!」

 要は、レナが剣を抜き、メーラに切り掛かったのである。メーラも剣を抜きガードするが、その隙に隣にいたイセリーをライトが保護。――要は、最初からメーラからイセリーを引き離す為の一撃である。

「証拠が出なかったらどうするつもりです?」

「全力で謝るよ。ウチの国王様が」

 いない所で酷い使われ方をされるヨゼルドである。――今頃くしゃみとかしてるのかな、とライトもつい呑気に考えてしまった。

 カァン!――再び大きな金属音と共に、レナとメーラの間合いが少し開く。

「あーあ、そこまでの覚悟があるならしゃあないなぁ」

 直後、メーラの雰囲気、口調、全てが先程の物とは別物になる。

「お見事、認めたるわ。そ、ウチが雷鳴の翼。予告送ったのもウチやし、ウチが盗みたかったのはその辺のお宝じゃなく、そこのイセリーちゃんや。ウチ、可愛い物に目が無いねん。オッドアイの魔法使い美少女、可愛いやん?」

 悪びれもせず、ニコッ、と笑いながらメーラ……もとい、雷鳴の翼はそう言い切る。――レナは溜め息。

「それが理由? そんな理由で私達借り出されたのかー……勘弁して欲しいわー」

「そう言わんといてや。苦労して欲しいモンを手に入れる瞬間って興奮するやん? ウチ、人生謳歌するって決めてるねん。――アンタとは違う」

「……ん? どういう意味?」

「アンタ、人生つまらんやろ。目ぇ死んでるやん。――生きてて楽しいん? 何の為に生きてるん?」

 その言葉の直後、再び激しい金属音が響く。――レナが一気に間合いを詰め、剣を振るったのだ。

「その減らず口、二度と開けなくしていい?」

「おお、怖っ。勘弁してーな、ウチ喋るの好きやねん」

 そのままレナと雷鳴の翼との一対一のぶつかり合いが始まる。――アルファス、ソフィの予感は的中で、レナ相手にも雷鳴の翼は一歩も引かず、五分の戦いを見せた。要は、単純に剣士としても圧倒的実力者だったのである。

 方やライトといえば、イセリーを庇いつつ、一定距離を置いて二人の戦いを見守る形に。イセリーを連れて逃げるという手もあったのだが、あくまでレナを信じ、レナの感じ取れる範囲内にいようという判断である。――更に言えば、レナの様子が若干心配な所もあった。雷鳴の翼の挑発に乗る形で剣を振るったレナ――というより、レナの怒りは、また今までライトが感じた事のないレナの表情だった。見届けないと不安で、見ていないと何かが壊れそうで怖かったのである。

 迸るレナの炎、一方の雷鳴の翼もその名に相応しい、雷を纏った剣で応対。お互い一歩も譲らない剣のぶつかり合いを続けること数分。――それは突然だった。

「!?」

「え……?」

 四人の周囲に突然現れる、いくつもの魔法陣。直後、その魔法陣から白い光と共に、二足歩行の獣人モンスターが――要は、ヤンカガが召喚したのと同じ――出現したのである。当然オブジェとしてただ現れたわけではなく、そのまま咆哮と共に手近な人間を襲い始める。

「っ、イセリーさん、こっち!」

 位置的に危険だったのがライトとイセリーであった。周囲三ヵ所を魔法陣、そのままモンスターに囲まれる。レナとの距離も若干あり、何よりそのレナは雷鳴の翼との戦闘中でもある。流石に棒立ちになってるわけにもいかず、イセリーの手を取り、ライトは安全そうな方向へ移動。――だが、その行動が仇となってしまう。

「っ! イセリーちゃんそっちはアカン!」

「え?」

「!? きゃああっ!」

 直後、ライトとイセリーの足下が光り、魔法陣――モンスター出現とはまた違う形、光の色ではあった――が出現、二人は光に包まれると、

「勇者君っ!」

 レナの叫びも虚しく、そのまま姿を消した。直後、ライト達の足下にあった魔法陣は消えてしまう。

「あー、やってもうた! 楽かなと思って自動発動にしてもうた!」

 本当にしまった、という表情の雷鳴の翼。その言葉から察するに、

「あの魔法陣もアンタの仕業!? 二人に何したの!?」

 用意したのも彼女、というのはわかった。剣を振るいつつレナは迫る。

「あれは脱出用に前もって用意しといた奴やねん! 上手くイセリーちゃんゲットしたら逃げる用の! それを二人で踏んでもうたんや! というか誤解や!」

「何が!」

「ウチが用意したのはあの脱出用の魔法陣だけで、このブッサイクなモンスター呼んでる魔法陣出してんのはウチやないわ! こんなキモいモンスター出してイセリーちゃん万が一傷付いたらどうすんねん! ウチはな、可愛いイセリーちゃんとお茶したり買い物したり旅行したりしたくて攫うのに、こんな野蛮な方法でするかいな!」

「は……? アンタじゃないの、こっちは」

「だからそう言うとるやろ! なんか会場でもこいつら呼んで騒いでる奴いたから丁度ええ、ラッキー思てイセリーちゃん連れ出したけど、そんな事ならこれ呼んだ奴叩き潰してイセリーちゃんがウチに惚れるルートにしておけばよかったわ!」

 嘘を言っているようには見えない。どうやら雷鳴の翼にとって、「盗む」というのは若干普通に考えている物とはニュアンスが違う様だった。――それは兎も角、レナからしても今はそれ所ではない。

「予定変更、アンタに構ってる場合じゃないや、モンスター呼んでるのアンタじゃないなら邪魔しないで」

 こうして不意打ちでモンスターが出現している以上、ライト達の移動先でも同じ事が起きている可能性は十分ある。イセリーの実力は知らないが、少なくともライトでは対応しきれない。様は自分が行かないと、何が起きてしまうかわからないのだ。レナは踵を返し、ライト達が踏んだ方の魔法陣へ――

「あ、ごめん、イセリーちゃん達が使った魔法陣、もう使えへんわ」

 ――行こうとした所で、そんな声が。

「はぁ!? どういうこと!?」

「いや、そりゃそうやろ。脱出用なのに何回も使えたら誰かが追っかけてこれるやん。意味無いやん」

「っ……移動先は何処にしてあんの!?」

「この屋敷の南東の方に森あるやろ、あの辺」

 南東にある森。屋敷から見える距離ではあるが、決して目と鼻の先でもなかった。つまり、十分に「何かが起きてしまう」可能性がある距離であった。

「というか、あの彼勇者なんやろ? 流石にそこまで心配せんでもええんやないの」

「もしそうだったら私今日ミディアムステーキ食べてないの!」

「……はい?」

 要は護衛がいらないならパーティに参加しなくてもよかった、という意味合いである。勿論それを説明している余裕はレナにはない。――考えろ、考えろ、どうすればいい、どの方法がより確実に助けられる……!?

 守ると決めた。守ると約束した。守れるだけの力が自分にはあった。――傷付けさせるわけには、いかない。その為に、自分が今出来る事は何か。

「――っ! この方法なら!」

 そして辿り着いた一つの答え。レナは走り出した。

「ちょ、待ちーな! 南東の森行くならそっちやない、こっちの方が近いで!」

「うっさい、そんな悠長な暇ないの!」

 レナが走り出した方向は、雷鳴の翼の指摘通り、屋敷の入口の方角でも、南東の方角でもなかった。当然レナもそれはわかっていた。レナの目的は一つ。

「グオオオオォ!」

「五月蠅い邪魔っ!」

 ズバッ!――行く手を阻んだモンスターを一振りで葬り去ると、あっと言う間に駆けていった。

「えー、あー、うん。……ウチ、どないしよ」

 取り残された雷鳴の翼は、何となくレナの背中を見送る形になってしまった。――何で明後日の方向に行ったんやろ? この状況下で、明後日の方向に行く理由は……

「グオオオオォ!」

「――五月蠅い邪魔、ってのは少なくとも同意やわ、考え纏まらへんやんけ! というかよく考えたらイセリーちゃんとのデート作戦邪魔した根本的理由アンタらやん、責任取りーな!」

 ズバババッ!――迸る雷が、残っていたモンスターを一掃するのに、そう時間はかからないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ