第四百十七話 演者勇者と導かれし仲間達18
研ぎ澄ませ。
「っおおおおおお!」
全神経を研ぎ澄ませ。寸分の狂いもなく、絶対の攻撃を。
(出来る……アタシ「達」なら、絶対に出来る……!)
ソフィは今、周りの音も全て消し、ただ目の前の敵を倒す事に全集中していた。無駄な一歩一つなく、教祖の魔力をかわし、切り伏せ、攻撃を続ける。
(大丈夫、出来てる……このまま、気持ちを研ぎらせないで!)
そして無意識の内に、ソフィの狂人化は、次のステップへと進んでいた。――「私」が起きている。
勿論メインで表に出ているのは「アタシ」。だがその状態で、もう一方の「私」がこれ程ハッキリと意識を持ち、共有出来た事は今までに一度も無かった。その奇跡が今、起きている。
ただ強く「私」が表に出ているだけではない。「私」が表に出るという事は、聖魔法のコントロールの幅が広がり、純粋な魔力の質も上がる。それでいて「アタシ」の圧倒的戦闘センス。その二つの融合。
言ってしまえば、今ソフィは「完全体」にほぼ近い状態であった。
(団長の期待に応えてみせる……! アタシ達は)
(ライト騎士団の……団長自慢の、アタッカーなんだから……!)
「ソフィ、体調はどう? 何か問題とか起きてない?」
決戦の為の出陣前、ハインハウルス城。ライトは団長として、一人一人に意思確認、挨拶をして周っていた。全員がベストコンディションで。何の迷いも無く。せめて自分に出来るのはその状態に持ち込む事だと、ライトは日々団員達の所へ駆けまわっていた。
「はい、大丈夫です。準備に抜かりはありません」
ソフィは現在淑女モードであり、穏やかな表情で趣味であるハーブの手入れをしていた。――本当にこの姿だけ見ればどこのご令嬢だろうかと思うフィルム。誰にも負けないその姿は、最早タカクシン所じゃなくて女神であった。
「団長」
「うん?」
「神様って、結局何なんでしょう」
手を止める事は無かったが、少しその表情が寂しそうな事にライトは気付く。
「神官の道を辞め、戦士となって、今こうして団長と共に戦えている事、本当に光栄ですし、何の後悔もありません。でも私は御存知の通り、以前は日々神に祈る生活を送っていました。何か違えば、きっと今も。神を信じ、神に祈っていたんです。勿論タカクシン教とは違う神です。でも、本当に違う神だったのか。私の祈りは何だったのか。今回の戦いは、一体何の為にあるのか」
「……ソフィ」
元神官ならではの悩みであった。戦いに躊躇いは無いが、疑問が消えるわけではない。それが本音なのだろう。
「ごめんなソフィ、俺もその辺りはよくわからない」
「ですよね……変な話をして――」
「でも、俺は悩んでるソフィを馬鹿にしたり、批判したり、ましてや利用したりなんて絶対にしない」
ソフィはライトを見る。いつもの優しく力強く、いつでも自分を勇気づけてくれた笑顔がそこにあった。
「わからないなら一緒に悩もう。失敗したら一緒に後悔しよう。俺達は仲間だ」
「……団長」
「期待してるんだぞ。何だかんだで、ソフィはライト騎士団自慢のアタッカーだから」
「レナよりも、王女様よりも、ドライブよりも、ですか? 私が一番ですか?」
「え」
ずい、と詰め寄ってその質問。――正直答えに困ってしまった。皆頼りになる。甲乙付け難い。――と、ソフィが笑う。
「すみません、困らせちゃいました。――その答えは、今は聞かないでおきます」
え、じゃあいつかは本当に決めなきゃ駄目なの、とライトが困惑していると、
「団長」
ソフィは立ち上がり、手を広げる。え、何、と思っていると、
「ライト騎士団アタッカーとして、団長の自慢のアタッカーとして、勇気が欲しいです。抱き締めてくれますか?」
「あ、そういう事か」
成程、と思ってライトは手を伸ばして――
「ってちょい待った何で急に!?」
「皆も抱き締めて貰ってるんですよね? 私もぜひ」
「そんなに美女を見る度誰でも抱き締めてるみたいな感じないよ!?」
知らない間にどんどん俺のイメージが独り歩きしている。どうしろと。
「大丈夫です、変な意味はないですから。珍しく他に誰もいませんし。これで団長を脅したりとかは多分ないです」
「多分が怖い!」
「冗談です。――でも、決戦前の勇気づけに、団長の存在を確認したいというのは本当です」
諦める様子はない。――ライトも一応周囲を確認して(誰かに見られたらまた面倒になる)、
「ありがとうございます」
ソフィを抱き締めた。ソフィも優しく抱き締め返してくる。優しく甘い匂い、戦いの様子からは信じられない位の優しく柔らかい感触。――いかん癖になりそうだ。
「団長。神様の答えは今は出ませんが、私は団長を信じます。それだけは、変わりません。だから、団長も私を信じて下さいね」
「当たり前だ。大活躍してくれるのを、信じてる」
こうして誰にも見つからないまま(!)短くも優しい抱擁の時間は終わる。そして――
「らああああああ!」
ズバズバズバッ!――いつものソフィの豪快で力強い斬撃に、鮮麗さ、しなやかさも加わっている。
「証明してやるよ! テメエの神が間違ってるって、アタシ達が、団長の想いが正しいってな!」
ソフィの攻撃は更に研ぎ澄まされ、戦局を動かしていくのであった。
「サラフォンの示した部屋は……あっちの方か!」
一方、戦局を離れ、教祖への魔力供給を止める為に動くライトとレナ。二人で階段を駆け上がり、上の階層へ。
結論から言えばサラフォンの指摘は完璧であった。教祖を一人でライト騎士団全員を相手にするだけの魔力供給を続ける「物」が、サラフォンの指摘した部屋にあった。
「…………」
「……レナ? どうした?」
だが、それが何を意味するのか。ライトはそこまで頭が回っていなかったが、レナは直ぐに気付いていた。
「ん? んーと、今更どうしようもないんだけどさ。ライト君、また悔しい思いするのか、と思うとやりきれないし腹立つなー、って」
「どういう……意味だ?」
「見ればわかると思う」
話をしている内に、突き当りの部屋の扉の前へ。バン、と勢いよくその扉を開ければ、
「な……!?」
ライトにとっての衝撃の光景がそこに広がっていた。
「タカクシン教は永遠だ!」
「教祖様、バンザーイ!」
謎の装置に順番待ちをする教徒達。順番が回ってきた教徒は、想いを叫びながらその装置に両手をあてる。
「うっ……」
ドサッ。――そして、魔力を全て吸い取られ、倒れていく。倒れた教徒は監視役によって「片付けられて」いく。まるで使い捨ての燃料を入れ終えた空の容器の様に、端に山積みにされていく。
「そうやって吸い取られた魔力が、教祖に送られ続けてる。――最初に他の奴らから魔力を集めてた時点で、直ぐにこの路線を考えるべきだったよ」
「そんな……っ!」
魔力を全て吸われた人間は生きているのかどうかもわからない。そして生きていたとしても、あんな形で放置されたらどうなってしまうのか。いくつか予測は出来るが、とても良い予測など出てこない。
そして何よりも、彼らはこれがタカクシン教の為だと信じて止まないで行っている。神の為になると信じている。――実際は、教祖の私欲に使われるだけとは知らずに。
「ふざけるな……人を、人間を、何だと思ってるんだよ……! レナっ!」
「はいよ」
ライトに呼ばれ、レナは使い道を知っていると思われる監視役をあっと言う間に戦闘不能に追い込む。――が、
「神よ……我らに救いを……」
まるでそんな光景も一切目に入らないのかもう洗脳でもされているのか、並んだ教徒達は装置に手を触れ続ける。
「もういい、落ち着いて聞いて下さい! 貴方達のやっている事は、神様の為なんかじゃない! 教祖に言いくるめられ、良い様に利用されてるだけなんだ! だから――」
「神よ、私をお救い下さい」
「タカクシン教よ、栄光なれ……」
ライトはこの場にいる全員に聞こえる様に勿論叫んだ。だが教徒達はまるで何も聞こえていないかの如く、魔力提供の行為を続けていく。
「お母さん……」
「大丈夫よ、何も怖くないわ。一緒に、神様に救われましょう」
中には小さい子供連れの女性も。勿論子供には何もわからないだろう。不安気な目で母親を見ている。その母親は、自分の子供を道連れに、その身を捧げようとしている。
(何だよこれ……どうしてこんな風になってるんだよ……信じるって何だよ……神様って、何だよ……!)
その光景を前に、生まれる憤りが膨らんでいく。
「どうする? 全員強引に気絶させる? 何かもう気を失ってでもこいつら動きそうな気もするけど」
「もう一回だけちょっと言わせてくれ。それで無理だったらもう時間もない、レナにお願いする」
そうレナに頼むと、ライトは一歩前に出て、
「いい加減にしろ! それの何が神への祈りだ! お前達の何処が信者だ!」
ビリビリッ。――再び叫んだ。先程までより音量が大きくなったわけではない。だがライトの気迫が威圧が、教徒達の動きを止めた。
「お前達は本当にそれで救われてるのかよ! 自分の命を犠牲にして、大切な人の命を犠牲にして、幸せに本当になれてるのかよ! お前達が信じる神様は、本当に喜んでくれてる保証なんてあるのか!? 神様に訊いて来たのか!?」
教徒達がライトの言葉に耳を傾けている。今のライトはわかっていないが、外部からの教えに耳を傾けるなど、彼らにとっては有り得ない行動だった。その光景が今、ここに広がっている。
「確かに世の中どうしようもない事なんて沢山あるよ! 自分の力じゃどうする事も出来ない理不尽だってある! 神様に頼りたくなる事なんて沢山あるさ! でも、自分で頑張ればどうにかなるかもしれない事を、本当にやろうとしたか!? 大切な人を、大切な物を、守ろうとした事が本当にあるのか!? 諦めただけじゃないのか!? 結果としてああやって神様に自分の命を提供する事で、自分自身は頑張ったって思いこもうとしてるだけじゃないのか!? そんな弱気な想い、神様が本当に救ってくれるとでも思うのか!? 実際に救われた人間をお前等は見てきたのかよ!」
教徒達は動かない。――動けない。ライトの言葉を前に、動けなくなっていた。
「目を覚ませ! 本気で神様に見守られたいなら、自力で歩け! あの教祖がやってる事は神の使いのやる事じゃないと、認めろ!」
ライトの叫び。部屋に広がる静寂。そして――ドアが、ゆっくりと開いた。




